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Re: 最強次元師!! ( No.989 )
日時: 2014/12/07 10:37
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)

 第292次元 涸れた英雄は重なる

 (な、何だこれは……っ!?)

 鬱蒼とした、森の中はざわめきで溢れ。目の前にいる“彼ら”に、エン・ターケルドは。
 我だ我だとまるで人形。全てを振り切って迷いなく、駆け出した。
 考える、時間が欲しい。

 「——エン殿!」
 「!?」
 「こっちです——早く!!」

 体が本能的に、いつも通りその声に反応してしまう。
 影に身を潜め、恐る恐る声の方へ向くと。
 そこには何も変わらない、“顔”があった。



 等身大のそれは、無害な笑みでサボコロ・ミクシーへと向けられていた。
 自信に満ちたいつもの紅髪も、今は闇夜の下、濁った色を示している。
 普段の精霊サイズはどうした。デフォルメ化されていた、本来の次元。
 炎皇は、目の前で確かに存在している。

 「お、おおおお前……!」
 「へ? ああ、この姿の事か? 気にすんな! これが本当の姿さ」
 「本当の……姿ぁ?」
 「ああ。千年前の……“生前”の姿なんだよ」

 生前。つまり神と人、代表して次元師との全面戦争。
 第一次神人世界大戦までの、炎皇がまだ生きていた頃の姿だと言う。
 流石のサボコロもそこまでは理解できた。
 何せ炎皇含め他の英雄大六師達は、確かに千年前生きていた英雄。
 メルドルギース戦争において華々しい成績を残した彼らの、英雄時代がそこにあった。
 然しそれがどうして今、ここに現実となって現れるのか。
 生きている筈のない英雄が、いるのか。

 「俺も分からないんだけどさ、でもこんな嬉しい事ねえよ!」
 「? そ、そうなのか?」
 「だってサボコロに————この姿で会えたんだ!」

 精霊として、次元の力として。
 今までずっと傍にいた炎皇は、絶えなく笑う。
 身長はサボコロより少しだけ低め。当時の年齢は、15歳程だったと炎皇は言う。
 今となっては同じ目線で語り合える。地に足をつけて、近い場所に顔があって。
 それが嬉しい事なのだ、と。炎皇は実に無邪気だ。

 「さあサボコロ! 早く俺と次元の扉を開いて——“外”へ出ようぜ!!」
 「は……? そ、外?」
 「何だ知らねえのか? この世界から出るにゃあ次元の力と一緒に次元を開く事なんだぜ?」
 「はあ!? そ、それだけで出られんの!?」
 「ああ、だから俺と早————」

 暗がりの世界の中、サボコロの景色に、光が差した。
 それは良く知る————“熱い光”。


 「——“偽物”だ!! 騙されるなサボコロ!!」


 サボコロの傍にいた炎皇に、容赦なく“炎”は降り注ぐ。
 腕で覆い、たじろいだ炎皇が、空を睨んだ。
 向いたサボコロは、その目にする。

 「……は?」

 右手を突き出し、全身を微弱な炎が包む。
 急いで来たのか息も荒く、よっと捕まっていた木から降りると近づいてくる。
 その姿は、まるで。

 「え、ええええ炎……!!」
 「——サボコロから離れろ“偽物”、こいつの次元は俺だ!」
 「はっ……正義ぶっても意味ねえぜ? ————お前が“偽物”だ!!」


 ——炎皇に、良く似ていた。


 「え、炎皇お前……!」
 「騙されるなよ……俺が本物だ」
 「お前双子だったのかあ!?」
 「……相変わらずバカだな」
 「本当にな」
 「おいお前ら」

 声も、背も、顔もそうして全身が。
 似すぎている。鏡が挟まっているのかと疑う程に。
 “二人”の炎皇は、サボコロを中心に、互いを強く睨み合っていた。

 『はいはーい。仲良く殺し合ってるかー? お前ら』

 「「「!?」」」

 『世界創造主ことワルドだ。この世界について説明すんの忘れてたわー』

 ちゃらちゃらした口調に、間違いなくワルドだと判断を下すサボコロ。
 彼の声は遥か上空から響き降りてきた。
 確かにこれでは何が何だか分からない。次元の扉を開くだけで出られるとも言うし。
 加えて、その対象が二つに分かれているではないか。

 「やいやいやい! てめーこれどうなってんだよおい!!」
 『だから説明してやるって……よーく聞いとけよ? お前達がいるとこは俺が“創った”世界だ。元いた有次元の世界と外観は同じだが、ここから出るには幾つか条件があってだな』
 「次元の力を使って、扉を開く事だろ!? んなのはさっき炎皇から聞い——」
 『——ああ、“第二覚醒”を、な』
 「!? なッ!!」
 『そして今、お前ら二人の目の前には“複数”の次元の力がいる……当然、その中で一人だけ“本物の次元の力”がいる。そいつを探し出して、第二覚醒を成功させた時元の世界に帰れるって訳よ』
 「もし偽物の奴と次元を開いたら……どうなるんだ?」
 『偽物と次元を開いた場合……————“別世界”へ飛ばされるぜ』

 それは何もない世界だ。そう、強いていうなら魂の還る世界、“無次元”のような。
 加えて言う事には、その別世界からここへ戻ってくる事もましてや元の世界へ帰る事も出来ないと。
 ワルドは淡々と語る。静かに響く声に、恐怖さえ覚える。
 世界を創り出すワルドなりの——第二覚醒を得る為の“修行”が今正に。
 サボコロとエンの、景色に残酷さを連れて広がっていた。

 『それが嫌だったら本物見つけだして、見事第二覚醒をするんだな』
 「な、何だよそれ……おいワルド!!」
 『ああ因みに、偽物とも本物とも第一覚醒なら出来るからな。上手く活用してくれや。それと次元の力偽物本物含め全員にゃ俺が施した“核”が備わってる。偽物を虱潰してくのも良いんじゃね?』
 「それ本物だったらやべえんじゃ……!! っておいワルド!!」
 『文句は受け付けねえ、制限時間はそうだな……俺はグリン程辛くねえ——“100”時間だ』
 「ひゃ、100時間って……何日だ」
 『はは! 安心しろ、真っ白な月が見えるだろ? あれは時間が経つにつれ徐々に光を失って……つまり“欠けていく”んだよ、それを見りゃあ良い————って事で俺からは以上だ』
 「はあ!? 訳分かんねえし!! つか降りて普通に戦えよコラァ!!」
 『暴れる暇はねえぜ“英雄共”————グッドラック、幸運祈るぜ』

 そこから声は聞こえなくなった。虚空を見つめたままだったサボコロは、視線を落とす。
 目の前には二人の炎皇。本物と、第二覚醒をしなければ。
 二度と帰っては来れない。

 「そ、んなの……っくそ!!」
 「サボコロ、分かっただろ? 俺と第二覚醒を——」
 「ふざけるな! 偽物は引っ込んで——!!」

 次の瞬間。サボコロと、取り巻く二体の、炎皇の周りに。
 沸き立つ——“轟炎”。


 「サボコロ————迎えにきたぜ!!」


 炎の先にいたのは、もう一人の。
 見慣れたツンツン頭の、赤い髪が炎と揺れた。
 全く同じ容姿。同じ声を同じ様に轟かせて。
 “三人目”の————炎皇がいた。

 「また……!」
 「くそ! これじゃあサボコロと第二覚醒出来ねえ!!」
 「炎皇……」
 「俺だサボコロ! 俺の手を取れ!」
 「いいや俺だ! ——サボコロ!!」
 「う……うわああ!!」

 サボコロは、走り出した。
 足は何処となく、目的地もなくただその場から遠く、より遠くへ。
 複数の炎皇の中から本物を見つけ出し更にはやった事のない第二覚醒を成功させなければならない。
 考えるのが究極に苦手なサボコロは、そこで放棄し。
 目の前に、在らぬ事実に、驚愕する。

 「ぁ……あ……っ」
 「——! サボコロ!! お前こんなところにいたのか!?」

 明るい表情が今となっては、厳しい現実だった。
 離れてきた筈。必死に走って逃げてきた筈なのに。
 笑う炎皇の無邪気さに、吐き気すら覚えた。

 「く、来んな!!」
 「! な、なんだよ……偽物だと、思ってんのか?」
 「だ、だってお前……!!」
 「「「————傷つくなあ、サボコロ」」」

 何重奏もの、それは一斉に奏でられた。
 調和だ。一寸の狂いもない声の、調和は。
 折り重なって——紅い少年に、恐怖を植え付けた。


 「「「「「俺達は————仲間だろ?」」」」」


 何体、何十体。下手をしたらそれ以上の。
 暗闇の中残酷に映える、その赤さが今は。
 心臓が、急速で涸れていく音。

 「な、ぁ……う、うわああ——!!」

 一体何処まで逃げれば良い。何処まで走れば良い。
 何処へ行けば、“炎皇”に。
 今まで苦楽を共にしてきた“英雄に”————出会う事が、出来るのかと。

 少年にとっては今までにない恐怖だった。心に空いた静寂が。
 こんなにも憎らしい。
 汗を振り切って、黒い地面に差す滴。
 サボコロは人生で最高かというくらいの、全速力で風を切る。