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Re: 最強次元師!!【別サイト様にて完全版更新中】 ( No.990 )
日時: 2014/12/31 22:15
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)

 第293次元 心は正直

 エン・ターケルドも、サボコロ・ミクシーも。
 全く場所は違えど、同じ事を、同じ地上で成していた。

 広くて暗くて不気味な、世界の神【WOLD】が創り出した世界の中。
 二人の英雄は、次元も持たずに只管土を蹴り上げ、走り続けていた。
 それも仲間である筈の、次元の力として生まれてからずっと心の中に在った。
 千年前の英雄達から、必死に逃げるように。

 「!」

 エンは足を止める。彼を探しているのか、“沢山”の光節達が首を動かしていた。
 本物の次元の力と、それも第二覚醒をしなければ元の世界へは帰れない。
 制限時間は100時間。似すぎた容姿からは、判断も出来ない程そっくりな。
 奇妙な光景だった。一つであった筈の次元が、声を重ねてエンを探す。

 (ワルドが言っていた……本物を見つけ出す方法が、“次元”にあるというのか?)

 エンははっとして、暗黒募る雲の上、白く輝く満月を見上げた。
 普通の視力では分からない、微々たる欠けが、生じていた。
 既に始まっている。100時間というタイムリミットを抱えたまま。
 木の幹に隠れ、再び走り出そうとしたその時。

 「「——!?」」

 目の前に、サボコロがいた。
 二人の目が合った瞬間、紅い少年サボコロの背後から、彼の名を呼ぶ元気な声が聞こえてきた。
 振り返ると、何体もの炎皇がサボコロを探している。
 エンは首だけで合図をすると、二人はより深い森の中へと、身を潜めていく。

 「良かったぜエン! お前何か良い方法思いついたか!?」
 「本物を見つけ出す、か。色々考えたが……矢張り難解だ」
 「そっか。基準さえありゃあなあ〜っ!!」
 「……基準、か」

 木陰に隠れ、サボコロの何気ない台詞に、エンは考える。
 遠くではまだ、エンとサボコロを探す次元達の声が微かに響いていて。
 エンは、ゆっくり瞳を開いた。

 「あるぞ、一つだけ」
 「!? な、何だよそれ!」
 「……本物と、偽物の区別なんてこれしかないだろう」
 「何だよ焦らすなよ!!」
 「今まで、共に————“戦ってきた”か、“きていない”かだ」

 つまり、心で。
 惹き寄せるしかない、今まで通り、心だけで。
 本物としか、次元を繋いだ事はないのだから。

 「そ、……んなの超難しいじゃねーか!!」
 「だからこうして悩んでいるのだろう!! 易く第二覚醒は出来んという事だ!!」
 「何でこんなんが第二覚醒の修行なんだよ! ワルドの奴覚えてろよ……っ」
 「兎に角今は、本物を見つけ出さねば進まな————サボコロ!!」

 サボコロの頭上が、陰る。
 突然明かりが消えた頭上に驚き退いた瞬間。
 大地を砕く————“元魔”の腕が見えた。

 「げ、元魔——!?」
 「この世界にも元魔がいるとは……次元のないこの状況は不利だぞ!」

 元魔は唸る。これ程元魔を恐怖だと思った事は、ないというように。
 薄暗い森の中で、二人は駆け出した。走り疲れて足も痛いだろうに。
 それでも、必死に逃げ出す。

 「げっ!!」
 「! ——サボコロこんなところにいたのか!」

 サボコロは思わず足を止めてしまった。目の前でにぱっと笑う、炎皇に。
 次元の力と出会う事が出来たのに、彼の表情は固まったまま。
 元魔の気配がだんだんと近づくにつれ、焦り、思考回路は渋滞したように働かず。
 エンの掛け声で、漸く我に返った。

 「どうしたサボコロ!! 今は兎に角——」
 「——炎皇、今だけ力借りるぞ」
 「!!?」
 「次元の扉、発動————」

 ワルドは言っていた。
 本物を第二覚醒しないとこの世界からは出られない。
 偽物と第二覚醒した場合、別の世界へ飛ばされると。

 然しこうも、言っていた。

 「————炎皇ッ!!」

 本物とも偽物とも——“第一覚醒”は出来るのだと。

 「第五次元発動——炎撃ッ!!」

 掌から繰り出される炎。包まれて元魔の姿は、真っ赤になった。
 夜闇の中で唯一の光を今は信じなければいけない。
 それが偽物でも、本物でも。

 「貴様……っ」
 「今はどうのこうのって言ってる場合じゃねえ! 元魔を倒す事が先だ!!」
 「……それもそう、だな」
 「ああ、そう————、っ!」
 「どうした、サボコロ!」
 「今……変な、感じ……が」
 「?」

 炎皇と次元の扉を開いた時にも、僅かに感じていた違和感。
 もう一度サボコロの胸の中を駆け巡ると、それははっきりと言葉になった。


 「違う……——こいつ“炎皇”じゃねえ!!」


 叫んだと、同時に——元魔の巨体が、起き上がる。


 「どういう事だサボコロ!!」
 「エンお前も適当な光節ひっ捕まえてやってみりゃ分かるよ——炎撃ィ!!」
 「……? それは、もしかして……」

 炎撃は揺れる。心の中を満たす、元力もまた。
 違うと叫んでいる。心が、体が。
 今まで感じた事もない、何日間も次元を扱っていないかのようなむず痒い感覚が。
 “偽物”であると、頭の悪い彼、サボコロにも容易に理解出来た。

 「次元を開いた時も、こうして今技を使ってる間も……なんか知らねえけど変な感じすんだよ!」
 「変な感じ……初心者に、戻ったような?」
 「そうそれ! ——っとあっぶねえな!! くっそこんな次元技で戦えるかよ!!」

 柔軟な体で、器用に元魔の攻撃を避けていく。
 地面に手をついて跳んだり、炎を纏った腕、脚でその巨体に衝撃を与える。
 まるで“格闘技”。以前までとは違えた戦闘スタイルに、エンは思い出した。

 (サボコロの奴、そういえばセルナ・マリーヌに修行をつけてもらっていたんだったな……)

 「第七次元発動————炎柱ゥッ!!」

 地面に、両手を。顔を上げた時、元魔は炎の渦に——呑まれていた。
 炎が散った時、元魔は闇に溶けたと思わせる程身を焦がし、倒れ伏せる前にその体は砂と化してしまった。
 サボコロも、次元の力を解く。

 「……」
 「嬉しいぜサボコロ! 俺の事、ちゃんと見つけ————」

 遮るように、言い終わらない、うちに。
 サボコロは——炎皇の腹部を殴り飛ばした。

 「サボ……——ッ!?」

 次の、瞬間。

 「————ッ!!?」

 炎皇は、“煙”と化して——“消える”。

 「な、何……!?」
 「……やっぱりか」
 「やっぱりとはどういう事だサボコロ!?」
 「“核”を備え付けてるって言ってたろ? その核に衝撃でも与えて壊しゃ、消えるかなって」
 「……なるほどな。然し良かったのか? 核は、本物にもあるのだぞ」
 「ああ……あいつは、“偽物”だった」
 「分かる、のか?」
 「……次元を繋いだ瞬間、偽物だって思ったんだ」
 「してその根拠は?」
 「ねえよ! お前も言ってたじゃねえか——“心”で見抜くしかねえって!」

 本物と偽物の唯一の違いは、今まで主たるエンやサボコロと次元を発動してきたか、そうでないか。
 それ以外はまるで容姿、声、性格共々似すぎていて、区別はつけられない。
 サボコロは次元の扉を開いた瞬間に、違うと直感した。
 それは“心”だけで次元と繋がってきた次元師にとっては最も大事な事なのではないかと。
 二人とも、同じ事を考えていた。

 「あいつら全員と次元の扉開いてみねーと……こりゃ分かんねーかもな」
 「本物と偽物の決定的な違い、か……次元以外にあるやもしれん」
 「でもアテになんねーよそんなん! 今みたいにまたすぐ元魔に襲われて……」
 「それもそう、か……サボコロ貴様、成長したようだな」
 「は? お前が褒めるなんてめっずらしー事もあんだな!」
 「野生の勘だけは褒めてやると言ってるんだ」
 「やっぱ喧嘩売ってんのかよ!!」

 エンはふと、空に浮かぶ月を見上げる。
 少しずつ、本当に僅かだが月は徐々に欠けているようだ。
 突然歩き出したエンに、慌ててサボコロも後を追う。

 「お、おいどうしたんだよ!」
 「貴様の言う通り、今は光節達と次元の扉を開く他、道はなさそうだからな」
 「そういう事かよ……くっそ100時間でホントに終わんのか!?」
 「……終わらせなければ、いけないだろう」

 相手は神族。能力の規模もその実力も。
 人間とは桁外れに違う。その名を神というだけはあると。
 さあ勝利の女神はどちらに微笑んでくれるものか。世界の上で、一人楽しげな世界神ワルドは。
 自分の創った世界の中で苦難する英雄を見て、そんな事を考えていた。