コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 最強次元師!! ( No.991 )
- 日時: 2015/01/08 00:25
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)
第294次元 立ち上がれ少年達
「こいつもダウトだ——っ!!」
「うわああ!!」
跳ね飛んだ等身大の精霊、炎皇はぼうん、という煙の音で消える。
体の内部に備え付けられた“核”。それに衝撃を与えれば、精霊達は消える仕組みになっている。
当然、偽物であれ本物、であれ。
本物探しの夜はまだまだ続く。
「サボコロ、今ので幾つ倒した?」
「ええっと12、体目かな……ったく、良くもまあ元魔も尽きねーもんだ」
「元魔より元霊達の方が数は圧倒的に多いがな……俺も消した数は似たようなものだ」
「さあてまだまだ炎皇達は沢山いるんだ! うかうかしてらんねー!」
「……時間も、無いしな」
月の様子を伺う。見上げたそれは、何も知らず無常にも欠けていくばかりだった。
今まで当たり前のように傍にあった次元を失い、二人はそれでも本物求めて、戦い続け。
言葉を失っていたエンは、サボコロが気合を入れるように、うし、と。
声を上げたのに気が付いて、振り返った。
「信じられるのは自分の“心”だけ、か。上等だ! 英雄ともなった俺達の底力、見せてやろーぜ!!」
「ああ、そうだな……必ず、見つけ出してみせよう」
迷いなく駆け出した。目的地は何処にも無いけれど、力強く足跡は刻まれていく。
足音が揃う、今更臆しもしない————見慣れた巨体が、道を塞いだ。
「おっと! 炎皇探す前に見つかっちまうとはな……」
「グルルル……ッ」
「——いたぞサボコロ! 光節もいる!」
「! ——よっしゃショータイムだぜ!!」
エンが指さす先から走り寄ってくる。笑顔のままの炎皇は本物か偽物か——分かる為にも。
迷わずサボコロ、そしてエンも迷わずして。
重ねる、心。
「「——次元の扉、発動!!」」
元魔の目の前が明るく照らされる。闇夜の下、それは英雄達に残された唯一の光。
たったそれだけ——信じて、開く。
「炎皇——!」
「光節——!」
唸る炎が走り出した。微動だにしない、弓を構えてエンは矢を引き絞る。
体中に真っ赤な火が灯り、自慢の柔らかい肢体は、跳ねる。
「——炎撃ィ!!」
元力を抑制し、最大限に圧縮された——彼が地に堕ちる。
「ウガアア——ッ!!」
ブレた炎の中で啼き叫んだ、咆哮ともとれるそれに追い打ちをかけるよう。
エンは、瞬きをしない。
「——、一閃!!」
元魔の胸を——細い矢が、突き破った。
矢に込められた力が見えない渦を巻いて、元魔の体で大きな円を繰り抜くが如く。
破られた半分以下になった上半身が少しだけ、痙攣する。
「へ、へへ……また変な感じがすらァ……偽物、かよ」
「俺の方もどうやら外————サボコロ!!」
「——!?」
——それは、鉄槌。
「ぐはァ——ッ!!?」
満身創痍の元魔が下す、図太い拳がサボコロを叩いた。
その腕に全力を注いだのか、そこから元魔が動く様子もない。
不意を突かれたサボコロの姿が見えない。不安がったエンに——次いで。
(——しまっ!?)
空いていた片方の——元魔の腕が、風を裂いた。
「うぐぅ——!!」
衝撃波を連れてエンの体は弾き飛ばされた。
木が薙ぎ倒され風が彼の体を纏い、遠い遠い——湖に、体が落ちた。
溺れゆく、掠れゆく。サボコロもエンも、動かない体で地に、湖面に、浮かび倒れる。
まるでキールア・シーホリーの時のようだと、神を含めた三人は同じように考えた。
夕方になって空がだんだんと色を崩すにも気付かない。刻々と部屋に飾られた時計だけが、動く中。
レトヴェールは漸く重たい口を開いた。
「……遅い、な。二人とも」
「ええ……まるで、キールアちゃんの、時みたい」
「私の時みたいって事は、まさか……」
「ああ、恐らくあいつらも……神族に」
「————ピンポーン! 大正解だ、レトヴェール」
「「「——!!?」」」
キールアのベッドが携えられた、部屋の扉に背中を預けて世界の神は微笑んだ。
サングラス越しの怪しい目つき。軽く口笛を鳴らしてワルドを、レトは睨みつけた。
「大正解って……やっぱりお前の仕業かワルド」
「“やっぱり”ってこたァないだろー? 信用ねーなー」
「何しに来たのよ、こんな所まで」
「……おっとこれはこれは珍しい……“悪魔”も、ご一緒とはな」
「てめえ!!」
「……」
「ちょ、ちょっとレトく……!」
「冗談に決まってンだろ? 短気な英雄様だな」
「もう一度殺されたいのかお前……っ」
「そう怖い顔すんなよ。あの二人の事が知りてーんだろ? なあ」
飄々とした顔つきから一転。二十面相かと思わされる程の豹変ぶりに、何も言えなくなった。
レトは表情から険しさを失わない。癇に障るような物言いにカチンときたものの、手は出さない。
随分利口なもんだと口に出さずワルドは、続ける。
「あの二人なら今、俺の創った世界の中で修行中だ。心配すんな」
「……修行中?」
「信用出来ない。ワルド、今すぐ二人を返して」
「せっかちな譲さんだなったく……安心しな、お前らみたいにちゃーんと第二覚醒ひっ捕まえてくらァ」
「! ……【WOLD】、貴方第二覚醒の修行を……?」
「フェアリー・ロックか。それ以上の情報を与える気はねェよ」
「……私は、【FERRY】よ」
「いや、お前は【FERRY】じゃない」
「……!」
「【FERRY】はもう……お前じゃねェよ」
まるでお前は、神族ではないと切り捨てるかのように。突き放された感覚に、フェアリーは戸惑った。
千年間一度も死に至らなかった。それなのに何故。
何故新しく生まれてきたロクアンズだけを——心の神と認めるのか。
「私もあの子も同じ【FERRY】。寧ろ私が生きているのに生まれてきた、あの子は異例の神でしょう!?」
「あーあーうるせェな……これだから女って奴はよォ……」
「ワルド、あの子が何を企んでるか分からないけれど……勝つのは、人族よ」
「……そーかい、そりゃさぞかしステキなハッピーエンドを用意してるんだろーな?」
「……っ」
「伝えるこた伝えた。話は以上だ」
ひらっと手を振ると、ワルドはあっという間にその場から姿を消した。
ガタンと床に崩れ落ちるフェアリーをレトが必死に支えるも、顔は上げない。
無意識のうちに震えていた膝の上で、ぎゅっと拳を握る。
「それでも、私は……あの子を信じてるわ……っ」
【FERRY】であって【FERRY】でない。神以外の何者かとも考えた事がある。
然し彼女の右眼が全てを物語る。神族である証がある以上。
認めざるを得ない。例え彼女が何を思い考えていたとしても。
同じ、心の神であると信じてる。
「サボコロもエンも……大丈夫、かな」
「ワルドの修行がどんなもんか知らねえけど……多分、大丈夫だろ」
「? どうして?」
「あいつらだって英雄だ。サボコロは言うまでもなく、見かけによらずエンもタフだしな」
「……そう、だね。私の事も信じて待ってくれてたみたいだし……私も、信じるよ」
当然私も彼らの事を信じていると、続けてフェアリー。
すっかり暗くなった空から振ってくる闇に紛れて月光。窓から差して、灯の要らない夜がまた訪れる。
ここへ来て一体どのくらいの時間が流れたのか。蛇梅隊の隊員達は元気で、やっているだろうか。
レトはそんな事を思いながら、欠けもしない満月をじっと見上げ重ねて願う。
(……必ず、無事に帰って来い——エン、サボコロ)
金髪を揺らして少年は、英雄達の耳にも届かないと知って尚、月に言葉を掛けた。
地面に伏す、少年と湖面に浮く、もう一人の少年は。
その脚に、拳に————その、眼に。
力を入れて、立ち上がる。
「——ま、だまだァ!!」
「——ッ!!」
片手に炎を。片手に弓を携えて。
サボコロが放つ炎の柱が——元魔の右腕を焼き飛ばす。
「グ、グア……ッ」
無くなった右腕に気を取られ、その体に向けられた——矢の先も知らずに。
エンは、矢を放つ。
「——グアアッ!!」
一本の矢はまるで何千本も矢を束ね放つように、残された元魔の肢体を掻き消した。
砂と化す風景を見ると今までの事が全て嘘だったかのように思えてしまう。
それは元魔と戦ってきた次元師達が口を揃えて言う言葉だった。
神族が創造する、使徒元魔。
その外形は醜い怪物と形容するが一番近いだろうと専門学者は語る。
人間を脅かし、果てには次元師に始末され砂と化すだけの一生である事を。
今更考え出した。いつの間にか元魔を倒す事が当然になっていた世の中で。
考えもしなかった、元魔の一生なんてものを。