コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 最強次元師!! ( No.992 )
- 日時: 2015/02/07 14:37
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)
第295次元 裏切り者と
互いに背を預け合って、地面の上で足を崩す。少年達の息は実に荒いものだった。
慣れない次元を使い続けて数時間。気力も体力も限界に達する頃。
変わらぬ夜空の下でやっと息つくサボコロとエンは、その景色に何者もいない事を確認した。
「はあ……はっ……あーもうっ!!」
「っ……静かにしろ。ただでさえ疲れているんだ……傷に響くだろう」
「これが叫ばずにいられるかってんだ! ……くそっ……」
「これで五十体目、か……お互いに、本物とは巡り会わないものだな……」
「一体どうなってんだよ……はぁ」
「……見ろ、サボコロ。月が」
見上げると丸かった月は、半分以上失われていた。
時間の経過を現すそれを怪訝そうに睨んで、サボコロは視線を落とす。
空っぽの心に、未だ力は戻らない。
「時間がねえ! もう一踏ん張りすっぞー!」
「ああ」
木陰から、月光の差す小広い道の先を眺めた。
大分元霊の数が減ったといえど、本物を導き出すには時間が足りなさ過ぎる。
元魔を利用し、元霊を一度心に取り込み、一度でも違和感を感じたら切り捨てまた探し、を。
何度も繰り返していた。
道の上には何人もの元霊が徘徊し、その光景はとてつもなく異様なものであった、が。
それは、つい数分程前の話。
サボコロとエンは今、正に、逃げていた筈の態勢から一転。
逆に元霊を、探している最中であった。
「どういう事だあ? やっぱちょっと前くらいから、元霊の姿が見当たらねー」
「さあな……数が減ったせいか、それにしてもまだまだ数はいた筈だ」
「探しに行こうにも、俺もうクタクタだぜ……」
「それは俺も同じだ。少し休憩を挟んでから、また探しに行こう」
次元を使えないサボコロとエンは、自ら火を起こし、薪を詰んで暖を取る。
暗がりは明るみを手に入れ、ぼうっとただ、サボコロは火が揺らぐのだけを見ていた。
珍しく重たい表情を見せるサボコロに、エンは何の言葉もかけられずに、ただ。
同じように火を眺めてから、自分の掌に視線を落とした。
その時。
「——サボコロ?」
「「——!」」
草を踏み分けた、二人は音の方へ咄嗟に振り向いた。
少し身構えてから一瞬、サボコロははっとし声の主を見て、息を詰まらせる。
「え、炎皇……」
「よう、こんな所にいたのか、サボコロ……光節も一緒だぜ」
「! 光節」
「お久しぶりです、エン殿。サボコロ殿も……お変わりないご様子で、何より」
「……っ」
「そう睨むなサボコロ。分かってる。疑ってんだろ……それで良い、だから」
どうやら周りに、現れた炎皇と光節以外の元霊はいないようだった。
「手当たり次第に次元の扉を開いてみて、虱潰しに本物を探してるんだってな」
「ああ、知ってたのか……」
「俺達でも試すか? サボコロ」
「え? ああ、でも今日は疲れたし別に……」
「そうか……ま、本物本物って、言ったって実際分からねえしな」
「信頼を得ようにも、どれも言い訳がましくなってしまいますしね」
「お前ら……」
「ご心配なく。どうか信用もなさりませんよう……拙者達は早く此処から抜け出したいのです」
「ちんたら遊んでる時間はねえ。そうだろ、サボコロ」
「……もう俺達に殆ど元力は残っていない。また、明日だな」
「……ああ」
火花は散る。それは夜空へ吸い込まれるように、舞い上がっていった。
今までとは違う、元霊二人の面持ちにサボコロもエンも。
少なからず動揺していた。本物かと思ったが、それこそ信用するのは早すぎる。
明けはしないが、明日、また元力が回復すればそれも済む話。
然し久しぶりに落ち着いた空間を取り戻した。夢だったとしても。
それはこの突飛な世界に来る前と、同じ時間で。
焦がれる程に求めていたものだった。
目を覚まし、同じような夜を見上げた時には既に。
炎皇と光節は姿を消していた。
次元を開ければ全てが証明される。筈であったのに。
薪の火も消え、早くに目を覚ましたエンは驚いて辺りを見回した。
「……一体……」
「……んっ、え……エン……?」
「やっと目を覚ましたか……行くぞ」
「……? おい、何処行くんだよ」
「探しに行くんだ。……嫌な予感がする」
辺り一帯には、元霊は一人もなかった。
今まで波を作っていた彼らの影は見えず、その気配も感じさせず。
怪しく思わせる、不可解な現象に二人とも焦り始めていた。
もしかして——彼らは。
「——!! エンあれ見ろ!!」
「!?」
見えたのは、それこそ今までにない、“波”だった。
炎皇の赤い髪と、光節の黒く塗りつぶしたような暗黒色の髪が揺れる。
それも、沢山。
同じ顔が立ち並び同じ声が反響し合う。サボコロとエンは一瞬考える力を失った。
そして、一歩踏み出し、中にいた元霊の一部が気付き声を上げる。
「!! おいサボコロ!」
「エン殿……! お待ちしておりました!」
「裏切り者だ! 裏切り者に——“制裁”を下せ!!」
“裏切り者”——確かにその単語は、二人の耳に刺さる。
一体全体如何いう事かと、状況を把握出来ない二人は黙ってその様子を見ていた。
それは、沢山の元霊が群がる中囲まれ縄で縛られていた、二人の元霊。
同じ容姿を持ち、がっくりと首を落として、地面に座らされている。
声も出せずにいたエンの代わりに、サボコロがやっとそれを絞り出した。
「お、おい……何だよ、これ……!」
「サボコロ、落ち着いて聞いてくれ。あいつらは偽物だ——裏切り者なんだよ!」
「だから何だよその……裏切り者ってのはよ!!」
「まあ本物なんてこの中に一人しかいねえけど、それでもあいつらは……!」
元霊達は、侮蔑の瞳を、二人の元霊に向けていた。
ここ数日元霊達の様子が可笑しい事にはサボコロもエンも気づいていた。
然し原因も分からず、今度はこちら側から元霊を探す作業へ移行。
この間何が起こっていたかなど、知る由もなかったのだ。
「俺達は一度全員で集まって、本物を決める会議をしてたんだ……」
「本物は当然一番強いだろ? それにサボコロの事も良く分かってる」
「エン殿の事も、です……それで力試しをし、生き残った者が二人の許へ行けると」
「!」
「なのにあいつらは……勝手に抜け出してお前達の所へ行った!」
「抜け駆けをし、貴方達を騙し……危険に晒そうとしたのです!」
「許さねえ……逃げるってこたあそういう事だろ!?」
既に憤りは広がっていた。誰もが猛る。吠える、そして縛られた二人は。
苦しい表情を浮かべ尚、黙り込んでいた。
サボコロとエンは人波を掻き分け、元霊二人の前へ出る。
「倒したきゃ倒せよ! 自分が本物だって分かってんのに遠慮する必要なんかねえだろ!?」
「その通りです。それにもし偽物だったとしたら、時間が経てば正体はバレてしまうでしょう?」
「サボコロにもエンにも俺達を見分ける力がある……怖けりゃ皆向かってきゃあ良いだろうが!!」
「それが出来ないのは……貴方達全員が、偽物だという証拠にもなるのでは!?」
本物だけが、自分を本物だと知っている。それが故に飛び込んでいく自信もある。
何故なら正体をさっさと見抜いて欲しいと一番に願うのは、本物であるから。
炎皇と光節の必死の主張が更に大きく、声を荒げ空間を支配する。
それに対して抜け駆けは偽物の証拠だと反論を繰り広げる、他の元霊達。
サボコロとエンは、ただただ見ていた。
どちらが正しくて、誰が本物であるか。
本物ならば、サボコロとエンの信用を一番に得ようとする。
それも絶対に、必死に、迅速に。
何故ならサボコロ達英雄に——“一刻の猶予”も許されない事は知っているから。
気味の悪い調和は空間を叩き、反響し、サボコロとエンの。
耳に突き刺さる——決着をつけてやると言わんばかりの、縛られた元霊二人は叫びが。
死んだ体に唯一託された、“魂”だけで、“本物”は語る。
見抜いてくれと、真実だけを。