コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 最強次元師!! ( No.993 )
- 日時: 2015/02/14 23:14
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)
第296次元 見出したのは“無音”
刻々と月が削られる下で英雄達は、見た事もない光景に目を奪われるでもなく。
たった二人の、等身大の元霊を見ていた。
その身体は縄で固められ、膝をつくような形で他の元霊達に見下ろされている。
罵声は飛び交う。裏切り者だ、核を壊せ、そして。
本物は自分だと。誰もが言い張る、それを同じ声色で。
サボコロは、ぐっと胸の辺りを掴んだ。
(炎皇……)
様子を見ていたエンも、自分の胸を見下ろす。
信じられるのは、心だけ。
それが今正に試されているような気さえしてくる。
サボコロもエンも、一歩踏み出して。二人の元霊の前へ爪先を向ける。
「サボコロ……」
「エン、殿……」
「……お前達、本当に……」
「信じてくれなんて言わねえよ、サボコロ——お前の信じる奴を信じろ!」
「拙者も同じく——永久にエン殿に付き従うと誓った身ですので!」
サボコロは、その時ふと思い出した。脳裏に微かに、蘇る記憶を手繰り寄せた。
それは、嘗て殺し屋だった時の、サボコロへ向けた言葉。
『……サボコロ、良いか。俺達殺し屋に“情”は要らない』
『……分かってるよ、んな事』
『人の命を奪う云々じゃない……常に判断を怠るなって事だよ』
『判断?』
『流されるな、沈着でいろ、その心音が跳ね上がった瞬間に、殺し屋を止めろ』
『……』
『忘れるなよ。敵を見抜く力は——常に、』
サボコロがじっとして、息を静かに、吐いた時。
狩人として自分を思い返すエンもまた、サボコロと似たような事を考えていた。
ずっとずっと、昔に言われた事も。
「炎皇……ありがとな」
「!」
「お前のお陰で、思い出した……忘れてたんだ、大事な事」
「さ、ぼころ……」
「光節、貴様も言っていたな……狩人にとって一番大事なものは——息を殺す事だと」
「……? エンど——」
サボコロとエンはその時確かに——“本物”を見つけ出した。
「大事なのは“言葉”じゃねえ」
「今まで過ごしてきた——“時間”だ!!」
英雄の拳は————“核”を打ち砕いた。
「——!?」
「え、ン殿——!」
その勢いは止まらず、サボコロもエンも——土を蹴り上げ駆け出した。
適当に目についた、元霊を試しもせずに。
拳を振り翳す。
「てめえもダウトだ——!!」
「!!」
二人の次元師が、一瞬の迷いも見せずに見る見る内に元霊の核を壊していく。
それも、次元を開く事なく。自棄になり我武者羅になっているとも取れる光景を。
世界の神【WOLD】は、ポカンとしたまま遥か空の上、世界の上で言葉を失い眺めていた。
彼らは一体、何をしているのだろうかと。
「おいおい、ど、どうしたんだよサボコロ、エン……!?」
「自棄になるのはお止め下さ——うわああ!」
「落ち着けサボコロ!! 俺は本も——っ!」
容赦は、なかった。躊躇いもない。エンも光節を次々と打ち負かしていく。
数は確実に迅速に減っていく。時として暴れ回る英雄二人を止めに入る元霊もいたが、虚しく。
快速的に元霊の核を破壊していく中——サボコロとエンは、足音に気が付いた。
唸るような、野太い声と——“大きな影”が差す。
「けっ! こんなタイミングで——元魔が現れるたァな!!」
「寧ろ好都合だ……今日ほど貴様の存在を感謝した日もない」
草を踏み分けるでなく、太い木々を薙ぎ倒して現れた。
牙を剥きだした元魔の口内から零れる液体と、ギラギラ光るその眼が。
本来人間を脅かす為だけにあるそれに、英雄達は臆す事を忘れた。
遠い昔は、思い出しこそすれ、今はもうないのだから。
「よしお前、手伝え」
「? お、俺か?」
「ああ、次元を開く事は出来るからな——“偽物”でも、勿論“本物”でも」
「そこの光節も頼む——力を貸してくれないか」
突っ立っていた炎皇と光節の腕を引っ張って、二人は。
いつも通り、いつも以上に“心”を合わせて——扉を、開く。
「「次元の扉————発動!!」」
体中を駆け巡る、目に見えない力は疼き、暴れ——漸く。
「——炎皇!!」
「——光節!!」
形と成る、それは確かに——二人の手に戻ってきた。
「第七次元発動——炎撃ィ!!」
「いくぞ光節——、一閃!!」
湧いた炎が唸りを上げて、元魔を捉えた、隙間を縫って——矢が裂き貫いた。
元魔の胸部に突き刺さる、鋭い矢でぐらりと傾く重心。
足に力を入れたのか元魔は、態勢を崩しながらも、胸に穴を開けたまま立ち上がった。
その時には既に、英雄は目の前にはいなく。
「ヒャッホォー!! ——飛ばすぜデカブツゥ!!」
渦巻いた、炎を纏った腕が——元魔の頬を殴り飛ばした。
「アホが……カウンターを喰らっても知らんぞ——複閃!!」
一本の矢と見せかけた、何十何百もの矢が雨の如し——元魔を襲う。
突き破れる甲殻、弾き飛んだ血と肉が地面へ落とされる。
怒号とも捉えられる、痛みの叫びが元魔の口から血と共に吐き出された時。
サボコロは地面へ着地したと同時、その手についた地面から。
大地を、円を描いて縫う炎の一筋が————元魔を囲んだ。
「第八次元発動————炎柱!!」
描かれた円の中を空まで塗り潰すが如く——炎の柱は元魔を焼き尽くした。
「あースッキリしたァ!!」
「油断はするなよサボコロ、ここは神の創った世界だ」
「わあってるっつの! くぅー! やっぱ落ち着くなあ!」
「ああ、そうだな————矢張り、“本物”に限る」
ふっとエンが口元を緩めると、勝手に次元は解け、その姿を現した。
等身大の元霊は視線を同じくして、サボコロとエンの前で優しく笑う。
それは、初めて目にした“本物”の姿だった。
「良く分かった、な——サボコロ」
「エン殿も、流石です」
「ばっきゃろー! 俺にかかりゃあこんなもん……」
「殺し屋も狩人も、基本は同じという事だ」
熱血バカなサボコロと冷静沈着なエンとでは全く性格が真逆だとしても。
二人の本質はまるで一緒。
人を狩るか元魔を狩るか。“隠密起動”を第一とする、二人は思い出した。
何より炎皇や光節から受け継いだ言葉に、救われるなんて。
「ご、ゴホン……炎皇お前言ってたよな、『殺し屋は常に冷静でいろ』って」
「ああ、そうだな」
「それで思いついたんだよ……信用を言葉で乞うんじゃなくて、“行動で示す”んだってな」
裏切り者には制裁をと憤り怒号の飛び交う中で、サボコロとエンが見つけたのは、“無音”だった。
大勢の元霊の中で唯一情に流されず、息を潜めていた気配を感じ取った。
それが今目の前にいる炎皇と光節だったというのだ。
「なるほどな」
「狩人たる者、“隠密”“不動”は絶対……敢えて動かず、その存在を俺達に気付かせたのだろう?」
「……流石です、エン殿」
「でももうちっと分かり易くしてくれりゃあ俺達だって……」
「すまねえな。ただ俺達二人を見つけるんじゃ……意味がねえと、思って」
「? それどういう……」
「サボコロ殿、エン殿。本来の目的を、まさかお忘れではありませんよね?」
「……!」
「ああ……当然だろう」
「俺達を心の底から信用するにゃ、これが一番だったんだ」
ドクン——、その響きだけが、サボコロとエンの中に広がっていく。
“信用”は、何より“両次元”発動の、絶対条件。
そして、それ即ち——“第二覚醒”に必要不可欠なものであるが、故に。
自棄でなく、我武者羅でなく、運でなく、虱潰しでも、なくて。
「どうする? サボコロ。……本当に、“俺”を信用して——良いんだな?」
「エン殿……もし間違いであったら貴方達は、二度と元の世界へは戻れません」
それでも我らを選ぶと言うのか、現代の英雄よ。
千年前の英雄達は、初めてその顔を見せた。
必死の覚悟。死を臆さず決して恐れない。
全人類の未来を背負わされた英雄達へ、間違いは決して許されないと。
「ああ、信じるぜ」
「例え間違いで——あってもな」
殺し屋と、狩人は頷いた、その————頭上に。
見えた、巨体から伸びる腕が。
少年達に——“決意”を振り下ろした。
「お前を選んだんだぜ“炎皇”————バカでも分かるに決まってんだろ!!」
「俺達の“心”を狩った————貴様らを信用してやると言っているんだ!!」