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Re: 最強次元師!! ( No.994 )
日時: 2015/03/03 18:30
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)

 第297次元 繋がる英雄達

 「炎皇——!!」
 「光節——!!」

 月明かりを遮った、元魔の太い腕は——吹き飛んだ。
 炎が唸り、矢が裂き千切る。振り返った少年達の目にはもう、捉えられていた。
 既に血管は浮き上がり、ズタズタに引き裂かれた腕から細い血が噴き出し始める。
 不安定な足取り一つで地震を呼び起こす、巨体は重くよろめいた。

 「へっへー!! 調子戻ってきたぜー!!」
 「嘘みたいだ……こんなに力が溢れて良いものか?」
 「なんか上手く言えねーけど——すっげえ“炎皇”と繋がってる気がすらァ!!」

 跳んだ、彼の柔軟な体が空に置かれて、ニッと微笑むと同時に。
 翳した右手は——燃えるように熱く。

 「炎撃ィ——!!」

 放たれた業火は——再び元魔に襲い掛かる。
 厚い煙は元魔から視界を奪った。考える力の無い元魔の、頭に。
 向かって再び放たれる——“一閃”は貫かれた。

 「——真閃!!」

 通常の一閃と違う、激しく力強い刃が——顔面の中心へ。
 鼻を突き破って、丸く空洞が出来ると。
 エンは弓を下した。

 「お前もなんか腕上がってるみてーだな!」
 「……軽く引いたつもりだったんだがな」 

 心音がだんだんと高鳴りを見せていく。ドクドクとその存在を、知らしめていく。
 レトヴェールもキールアも、こんな気分だったのだろうか。
 胸の中に生きる英雄と、共に同じ力を持つ事で。
 同じ意思を、持つ事で。初めて知る事になる。

 図太い奴だと呟いた。元魔は顔に穴が空こうとも、まだ死なない。
 ぐちゅぐちゅと血が、妙な液体が、肢体の節々から見え隠れするも恐れず。
 英雄達は、身構える。

 「殺し屋なんて……止めた筈だったのにな」
 「俺にとっては久々の“狩り”だがな」
 「……炎皇は、俺を試したんだよな」
 「……光節もきっと、俺を信じてくれたのだろうな」

 顔も声も性格も全て統一された、何十何百と元霊のいる中で。
 たった一人、いや二人だけが本物で、それ以外は紛い物で。
 間違えたら元の世界には戻れなくなってしまう。
 レトやキールアと肩を並べて神を討つ事が、出来なくなってしまう。
 第二覚醒をしたが最後、この世界から出た先が吉か凶か。
 少年達の心音は確かに重なっていく。

 サボコロとエンに、本物だと伝える為には。
 言葉で言ったって無駄だ。それは元殺し屋と、狩人には意味を成さない。
 心の根から彼らの信用を得る方法はたった一つ。
 同じ心を、持つ事だけ。

 (殺し屋も狩人も、容易に他人を信用しない)
 (上面の言葉は以ての外……一瞬の躊躇いは己を殺すのみ)

 だから敢えて己から会いに行かず、じっと息を潜めていたという。
 気づいて欲しい。思い出して欲しい。
 義兄妹に出会う前の自分達が一体——何であったかを。

 傷で溢れた元魔の腕が、真っ直ぐ伸びた。

 「炎皇、お前を信じるって……こういう事だったんだな!!」
 「貴様らとの“時間”、“心”……見つけ出せて良かった!」

 跳んで避ける。木の枝にエンが、空中にサボコロが。
 今まで生きた中で一番の——自信に溢れた笑みを零す。

 (サボコロ……俺はお前に、出会ったあの瞬間から)
 (全てを託すと決めていました——今に至るまでも同じ)

 元霊は初めから、主を知っていた。この人だと決めていた。
 だから次元師とは違って信用の厚さが、熱さが、違う。
 最初から信用していた。疑った事は一度もない——だから。

 (力になりたい——死んだ俺達の分まで!!)
 (神に討ち勝つ力を——与えられると言うのなら!!)


 千年前の英雄は、共に戦う為でなく。
 今生きる英雄の、背を押す為だけに。


 「信じてるぜ“英雄”————お前が俺を、信じたみたいに!!」

 「今度は俺達が“応える”番だ————躊躇いはない!!」


 信じろ、重なれ。
 同じ想いを抱いた————千年の時が。


 「「“第二覚醒”————!!!!」」


 ————————“繋がる”。


 「————“炎神皇”!!」


 「————“光郷節”!!」


 神の伊吹は豪なる炎に匹敵し、その矢は刃が如く。
 獄炎を纏う、サボコロは宙で一度、腕に力を入れた。

 「————“炎神撃”ィ!!」

 拳を振るった直後————元魔の上半身全てが、“掻き飛んだ”。

 「は……?」
 「“一架閃”——!!」

 息つく間も無く放たれた——細い矢の先が、今度は下半身を同じ様に。
 矢の何千倍も大きさのある元魔のそれは——“裂け散った”。

 正に跡形もなくたったの——“二回”の攻撃で。

 「う、嘘だろ俺今……」
 「俺も……割と軽く引いたつもりだったんだが……」

 今まで以上に濃くて赤い、残酷さまでも含んで放たれた。
 エンの矢も同じくして、光のような、矢の先は元魔を
 一本の矢で、その巨大な下半身を難なく掻き消した。

 「これが……第二覚醒……?」
 「次元の力と、両次元を開く……か。……奇怪な現象、だな」
 『————パンパカパァーン! おめでとう英雄諸君!!』

 数十時間ぶりに聞いたその声は一瞬で背中にぞっと悪寒を走らせる程の。
 そして、沸々と怒りを覚えそうな——神族【WOLD】の声色だった。

 「『おめでとう』じゃねえよ!! 降りて来いてめえぶっ殺してやる!!」
 『あーはいはい……これだから短気なガキは苦手なんだよ……』
 「貴様が現れたという事は……」

 エンが見上げると、月は見事に細い三日月を描いて、夜空に浮かんでいた。
 あと少しだったのか。危ないな、と。
 欠ける事を辞めた月から目を離すと、姿の見えぬ声のした方へ顔を上げる。

 『ああ、良くやったな英雄共——お前達は晴れて“本物”の英雄になれた!』
 「……はあ? 本物?」
 『“名”ばかりじゃねえ、本当の力ってのを手に入れたんだ——満足したろ?』
 「馬鹿馬鹿しい……満足など、出来る筈がないだろう」
 『お? 何だ何だあ? 第二覚醒を手に入れた途端にでっかい態度に——』
 「——俺達の目的は、貴様ら“神”を滅ぼす事だからな」
 『! ヒュー! 言ってくれるねえ!』
 「つうかさっさと出せよ!! 出してくれる約束だろうが!!」
 『どいつもこいつもセッカチさんだ……——良いぜ、目瞑ってろ!』

 ガタンッ——と、大地が一度、大きく揺れた時。
 来た時と同じような時空の歪みが——二人を襲った。

 「「!?」」

 暗転。閉じた景色に、上下に揺れ動く夜闇と——禍々しい色の木々を見たのが最後。
 二人の脳裏が、激しく揺れた。

 「うわあああ!?」
 「くッ——!!」

 英雄達は、瞳を閉じる。



 「——よ、お目覚めか?」

 朝が、来たような気がした。
 頬を撫でる仄かな暖かさも、空を駆ける鳥の、鳴き声も。
 草がざあっと揺れて風を運んでくる。心地良さも。
 久々に体中を流れる澄み切った空気が、二人の脳裏をざわつかせた。
 瞼は、そっと。

 「うっ……わ、ワルド……?」
 「……どうやら……戻ってきた、ようだな」
 「ああ、良くやったな」
 「……何でお前が褒めるんだよ気持ちわりい……ってそうだ! 勝負しろワルド!!」
 「おいおい、そんな傷でどうやって神と戦うってんだよバカかよバカだな」
 「バカバカ言うなあ!! 気が収まんねえんだよ!!」
 「まあそう言うなや。良かったじゃねえか、俺のお陰で第二覚醒取得出来たろ?」
 「はあ!? こ、こいつ……っ!」
 「やめろサボコロ……ワルドの言っている事に、嘘はない」

 負った傷を気にもせずに、英雄二人はその場でワルドと睨み合う。
 遅れて立ち上がったエンはサボコロを宥めるも、その眼はワルドを捉え。
 漸く戻ってきた世界の中で、正しく人と神が向かい合っていた。

 「一つ聞きたい……どうして貴様ら神族が、敵である筈の俺達の手伝いをする?」
 「!」
 「手伝いだァ? はっ! 勘違いするなよ……これは手伝いじゃねえ、“修行”だ」
 「だからそれが何故だと聞いている!」
 「——逆に聞くぞ、“神の存在理由”は何だ?」
 「……!」
 「存在……理由?」
 「マザーに聞いたんだろ? 神は、人を守る為に生まれてきたんだぜ」
 「……そう、だったな。……然し——!」
 「人は神を信じなかった。神は見捨てられた。そうして恨み始めた——でもこりゃ“筋書き”だ」
 「……筋書き、だと?」
 「なあ、お前らは信じるか?」


 それは初めて見る、神の——“人間らしい”、表情だった。


 「神族の中で“たった一人”————【GOD】だけが人間を憎んでた、なんてよ」


 草木だけが揺れて。風だけが、音となり。
 ——英雄達は、言葉を失った。