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Re: 最強次元師!! ( No.995 )
日時: 2015/03/01 12:04
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)

 第298次元 真実へ、一歩

 「! ——サボコロ!? エン!!」

 夕暮れ、体を引き摺ってフェアリーの家まで辿り着いた、サボコロとエンは。
 レトヴェールの張り上げた声で盛大に迎えられた。
 夕食の準備に取り掛かっていたフェアリーとキールアの表情にも笑みが差す。

 「へへ……ちっと時間掛かり過ぎちまった」
 「ま、規定よりかは早目に終わったがな」
 「二人共おかえりなさい! ……無事で良かったあ〜っ」
 「信じたわ……必ず、帰ってくるって」
 「お前らその傷……まさかワルドに——」
 「——いや、これは元魔だ」
 「? げ、元魔?」

 サボコロとエンは、少し前までの記憶をそのままレト達に語り出した。
 世界の神【WOLD】の創った世界へ飛ばされた後、等身大の元霊に出会い。
 それも沢山。そしてその中から本物を選んで、第二覚醒を開く事。
 その為に元魔と何度もぶつかり合い傷を負った事も何もかも。
 明るい陽射しにここまで感謝した事はないと二人は、冗談めかしく笑う。

 「すっげ……なるほど、本物の元霊で次元技を使えなかったから、苦戦した訳か」
 「ああ。でも最後にはバッチリ決めてやったぜ!」
 「って事は二人共……第二覚醒出来るようになったの!?」
 「ああ、何とかな」
 「本当に良かったわ。疲れているでしょうから、先に浴室を使って?」
 「おっ! さんきゅー!」

 戻って来れて本当に良かったと、サボコロもエンも口にこそしなかった、が。
 本音は心の底から安心し、またレトやキールアに出会えた事を。
 嬉しく思い、重ねて第二覚醒を会得した喜びに浸っていた。

 「? レトもキールアもやけに生傷が増えているようだが……」
 「ああ、お前らがいなくなってからもずっと、アニルと修行してるからな」
 「私もグリンと少し。これが、手加減してくれないんだよね……」
 「おおマジか! レトはともかくキールアは無理すんなよー?」
 「俺は無理しても良いのかよ……」
 「有難うサボコロ。でも、私も頑張らなくちゃね!」

 少年少女の声は、響きを取り戻し始めた。
 いつだって彼らは、追い詰められてから力を手に入れてきた。
 フェアリーは、食器を片手にじっと英雄達を見て思う。
 人間は窮地に立たされると本来持っている力を最大限に発揮すると言うが。
 この事か、と。千年経って気付かされ妖精は。
 有次元に戻ってきて暫く失っていた安堵感を、再び覚えた。



 食器が何度も擦り合う、食卓を連想させる賑やかな風景が戻ってきた。
 顔や腕、脚など至る所にシップや包帯を身に纏う英雄達は食事を豪快に口へ運ぶ。
 思春期の食べっぷりは知識以上のもので驚きつついたフェアリーに。
 声を掛けたのは、エンだった。

 「フェアリー、聞きたい事がある」
 「? 何かしら。改まって」
 「……」
 「んだよエン、何を……まさか」
 「貴方達、もしかしてワルドに何か……?」
 「……人間を、憎んでいた神族が……——“【GOD】だけ”だ、と」

 千年前人間の前に突然姿を現した神族達は、初めて人類に“神”という概念を教えた。
 マザーから超絶的な力を受け継いだ神を、人間は信じず恐れ、遠ざけた。
 故に神族が逆に人間を恨み憎み始めたという話が、マザーから聞いたものだった。
 然しつい十数分前にワルドから聞いた話では、少し異なっていて。
 千年前確かに人間を憎んでいたのは、“ゴッドだけ”だったと言うのだ。

 「は? 神族は【FERYY】以外全員人間を憎んでいたんじゃ……」
 「いや、ワルドは確かに言った。ゴッドだけが人間を憎んでいたと」
 「そうだ! おいフェアリーどういう事だよそれ!?」
 「……ええ、そうよ……神族は、全員が人間を憎んでいた訳じゃない……」
 「!? そ、それじゃあどうして他の神族達は……」
 「ゴッドの存在は神族の中で“絶対”よ……——逆らえる筈ないわ」
 「じ、じゃあ、アニルや、グリン……それにワルドは……」
 「貴方達を、修行と言って鍛え、力をつけさせたのは————全て、ゴッドを倒す為でしょう」
 「「「「!」」」」

 可笑しいとは思っていた。アニルがレトの修行をつけるようになったあの時から。
 殺す気で神の力を向けていたというのに、結果的には英雄達に力を与えていた。
 神族に、打ち勝つ為の力を。
 フェアリーもその事に気づいてしまった。神族の、本音を。
 更に彼らの裏側にはロクアンズがいる。余計に話が嫌に絡んでしまっていたのだ。

 「そ、そんな……」
 「じゃあ、もしかしてグリン達は……」
 「託したのね、貴方達に“可能性”を……必ず、ゴッドを倒すと——信じて」
 「でも奴らがそんな事するたまにゃ見えねーよ! だって今まで散々……!」
 「それはロ——」
 「……“ロ”?」
 「! え、ああ……いえ、何でも、ないわ」
 「……?」
 「兎に角、アニルもグリンもワルドも……神様である事に変わりはな——」
 「待て、それじゃあ——“運命の神【DESNEY】”は?」

 話はここで切り替えられた。
 レトについたアニル、キールアにはグリン。
 そしてサボコロとエンにはワルドがついた訳、だが。
 人間を恨むゴッドと人間を愛すフェリーを除けば残り一人。
 運命の神、デスニーはどちらだと言うのか。

 「そうだ、あいつはどっちなんだ……!?」
 「……この話のまま推理すると、デスニーもゴッドに逆らえなくてってなるけど……」
 「デスニーは……分からないわ」
 「? 分かんないって?」
 「今度の戦争では必ず出てくる、当然貴方達とも戦うでしょう……でも」
 「でも何だよ!」
 「……デスニーの心を、読めた事は一度もないわ……」

 運命の神デスニーは、レトヴェールと最も因縁の深い神族だった。
 レトはデスニーを追って強さを求め続けていると言っても過言ではない。
 然し本人は無次元という名の“死者の世界”に身を置いている為人間界で姿を現さない存在。
 心の内を読もうにも、フェアリーは出会う事の方が大変だと言うのだった。

 「なあーんだ……それじゃ敵か味方か分かんねえなあ」
 「まあ、味方じゃねえだろうけどな」
 「……俺達が倒す冪敵は一先ず、ゴッドだけだ」
 「あのさ……当日は、その……。ロク、も……当然来るよな?」
 「……!」
 「え、ええ……」

 ロクとこの世界で顔を合わせていた、フェアリーとキールアは。
 戸惑いつつも少しの間黙り込んだ。
 キールアは一度レトの横顔を眺めると再び、テーブルの上のスープに視線を落とした。

 「問題は神族代表が“誰”で来るか、だが……」
 「そうね……人族代表と神族代表の一騎打ち。真っ向勝負をするのも、両者だけだものね」
 「! おいそれって、もし神族側がロクを選んだら……!」
 「……そうよ。レト君とロクちゃんが——戦う事になるわね」
 「そ、そんな……っ」
 「? 俺は別に良いけど」
 「お、おいレト!?」
 「レト……」
 「誰で来ようが構いやしねえよ。第一、ロクなら好都合だ」
 「……それはどういう事だ?」
 「久々に腕比べ出来んじゃん」
 「あのなー……」
 「ゴッドが来ても同じだ。親玉と戦えるんだ。願ってもねえよ」

 レトの表情や声色に、恐れは感じられなかった。
 いつの間に彼はこれ程までの落ち着きを手に入れていたのだろう。
 義妹が姿を消してから随分と時間が経ってしまった。当時は、どうしようもなく、まるで見据える冪道を見失った迷子のような瞳を滲ませていたというのに。

 代表者決定戦に出場し、見事代表に選ばれ、第二覚醒を会得した今現在。
 その全てが彼に自信というものを教えたようであった。
 見失った道を見つけたというよりは、新しい道を切り拓いたとでも言う冪だろうか。
 人族代表は幾分か、けろっとした軽い気持ちでいた。
 そこに投げやりや自棄は感じられず、フェアリーは安堵と同時に、気圧されもした。

 彼に感化され、突き動かされ、英雄達は少し前よりずっと良い表情を浮かべるようになった。
 然しその姿は何より、“彼女”そのものであったから。
 背中を合わせていた筈の義兄妹が、その身を重ねているように。視えてしまった。