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- Re: 最強次元師!! ( No.996 )
- 日時: 2015/03/08 10:31
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)
第299次元 それぞれの
「はァ——!!」
「っ!?」
刃を勢い良く回し、余波が木々を薙ぎ倒す。太い幹が大地に打ちつけられるのをその眼にし、動物の神はほんの一瞬驚いた。
然しその一瞬が命取り。すぐに態勢を持ち直すと、今度は長い爪をギュンと生やして斬りかかる。
少年は、二つの短い刃で受け止めた。
弾き返すと、宙に跳んだ神の死角から、その懐へ。地面をダンと蹴り上げて——神に一撃。
「八斬切りィ!!」
容赦ない一太刀——いや、“八太刀”で神は落ちた。
その体がついさっきまでの木々のように大地に無造作に放られると、対して少年は音も無く鮮やかに着地。
「くっそ……!」
「ま、まずは……俺が一本、取ったな」
「ハッ! ガキが生言ってんじゃねェよ」
「まだやる気か? じゃあ——本気、出しても良いよな」
「まだ“それ”を手に入れて間もねェガキがよォ——調子乗んなよ!!」
動物の神は軽い肢体で跳ぶように起きた。少年は身構える。
彼の心臓と、心の奥底に眠る“精霊”が——心を一つに、した時。
その刃は紅く、燃ゆる。
「第二覚醒————双天斬!!」
神族【ANIL】と英雄レトヴェールの——修行はまだ、続く。
草原を駆けていたのはレトやアニルだけでなく。
二つに結い上げた金髪が、くるくると円を描くように探す。
槍を片手に一人の少女は、背に向けて襲い来る——木の“蔓”を、払い飛ばした。
「……!」
「そこね【GRIN】——戯旋風!!」
槍を素早く旋回させ、生み出された風は神を捉えた。
咄嗟に腕で顔を庇うように、周りの木々の枝が彼女を守る。
衝撃で千切れ破かれた木がボロボロと崩れる中を、神は顔を顰め立つ。
景色と同じ、碧色は広くて深い三角帽子から覗く。幼い顔に似合わず不機嫌さを飾っていた。
「“かくれんぼ”は終わりにしようよ、グリン!」
「……相変わらずの、鋭い感性」
「? 何か言ったー?」
「言ってない——油断は禁物」
多方面から伸びる蔓に、キールアは振り返って槍を構え対峙する。
振り回し、先で切り裂き、大地を割る衝撃で、余波が薙ぎ潰す。
「第六次元発動————堕陣必撃ィ!!」
華麗に跳んだ肢体は、真っ直ぐ大地へ堕ちた。
柔軟に蠢いていた枝や蔓達は、掻き消される。
風が砂埃を巻き上げて、グリンの視界を一面に支配する。
「っ……、——!」
「第二覚醒————」
手に入れて間もないそれを。一年も経たないうちに、成長させてしまった少女は。
自然の神の細められた世界に——恐怖を齎す。
「————百樂槍!!」
鳥が一斉に飛んだ。爆撃音は、世界中に響き渡ったと言っても良いだろう。
大地を揺るがし音が伝う。医者の卵である少女は、凶器たる槍で神に牙を剥く。
「「第五次元発動————!!」」
名も無い草原の上、少年は手を振り翳し、もう一人の少年は矢を引いた。
“世界”に隠れた神は、冷え切った肝の意味を、知っている。
「————炎神撃!!」
「————複迸閃!!」
神の息吹は獄炎と化し、連なる矢は風を斬り開いて跳んだ。
不自然に空間が歪みを生じ、次元技の衝撃で見えない壁が吹き飛ぶ。
景色そっくりの世界を創り出し、そこへ隠れ潜んでいた神は苦笑と血を零した。
何て容赦の無い。英雄達は第二覚醒をその手に、神をじっと睨んでいた。
「やっぱそこにいたんだな!」
「普通に戦えんのか貴様は……」
「げほげほ……あのなァ、俺は戦闘向きじゃねェの。神族の力を微力でも感じて、捉える事。特にゴッドは俺の比になんねェし……取りこぼしたら、人間が千人は死ぬと思えよ。じゃなきゃ全滅すんぞ」
「お、大袈裟だな……よーするに神族の力を正確に捉えろって事だろ?」
「軽い頭も、少しは利口に働くじゃねェか——ドロン!」
「「!」」
再び世界に溶け込んで、彼は完全に居なくなってしまった。神族の力も元は次元師達と同じ元力。然しその量も濃度も人間の比にはならない。同じ神族であろうとも、世界の神ワルドと神の司令塔ゴッドとでは天と地程の差がある。
ならばアニルは? グリンは? ——そういう問題ではないのだろう。
ゴッドがどれ程の力を持っていようと関係はない。強くなれば良いと、単純にそれだけを信じて英雄達は。
再び駆け始める。新しい力をその胸に、世界を探して。
幾日、幾月。たった四人以外に人間の居ない、神の世界での時間が刻々と過ぎて行った。
少年は今までの奮戦を思い返し、眠れないでいた。外へ出ると輝かしすぎる月光が真っ直ぐに湖へ差し、人間界同様、夜風も何となく冷たい。
広い水面は静かに月を映すと、不安定にそれを揺らした。
陽が出ている間とは違う穏やかな風が空間を支配し、長い少年の金髪を撫でる。
「……レト」
「!」
明朝、英雄大四天は元の世界へ戻る事になっていた。その為もあって、レトは目が冴えてならず。
一人湖をじっと眺めていたと思えば、もう一人。
土を踏みしめて、彼女はゆっくりと彼の背中に向けて名を呼んだ。
「キールア……どうしたんだよ、こんな時間に」
「レトこそ、寝付けないの?」
「ああ、ちょっとな……明日、ここを出るんだなと思ったら……」
「そっか……あのね」
「?」
「あ、そ、その……フェアリーさんは、夢だったのかもしれないって、言ってたけど……私、どうしても信じられなくて……それで……」
「だから何の話だよ……。勿体ぶらずに教えろって」
「……レト……私……この世界で————“ロク”に、会ったの」
自分が森の中で倒れていた日の事だと、静かに語り出した。
グリンと戦い、全身痛くて、どうしようもなくて。
気が付いたら倒れていた。
もしあのままだったら死んでいた。然し、死ななかったのは。
ロクが、助けてくれたから。
「以前の、ロクだった……眼も閉じたまま、長い髪の毛だって……」
「……」
「フェアリーさんは、ね……それは、迷命の園っていう心の能力なんだって……だから、夢……だったんじゃないかって……。でも、でも聞いたの……! “守るよ”って……前、みたいに……っ」
夢だったのか。苦しい視界の中で見た、幻想だったのか。
続けるキールアにレトも。
全く同じ事を、考えていた。
「ごめん、ごめんね……私が、起きた時には……もう……っ」
「ロク、元気にしてたか?」
「……! ……えっ……?」
「まさかあいつの事だから、怪我はしてねえだろうけど……」
「う、うん……元気そう……だった、けど……」
「……そっか」
良かった、とそれだけ付け加えて息を吐いた。
それからキールアの顔も見ずに、今度は月を見上げて。
何も変わらず丸いままのそれから、光が零れる。
「さ、もう寝るぞー明日早いし」
「ちょ、ちょっと! 良いの!?」
「は? 何が?」
「ロク、の事……気にならないの?」
「んーそうだな……ちょっとは」
「ちょっと?」
「……もう、良いんだ。十分“夢”の中で逢わせてもらった……だから」
「?」
「今度は俺が、会いに行けば良い」
もう行くぞ。小さくなる、レトの背中を暫く目で追ってから。
キールアは、その時初めて、彼の背丈が高い事に気が付いた。
それに広くて、大きい事にも。彼女はそれに慌ててついていく。
変わりつつある。
少年は、少女の面影を追うではなく。
少女と、神と、向き合う為に——強くなる決意をし始めた。