コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 最強次元師!! ( No.997 )
- 日時: 2015/03/15 09:17
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)
- 参照: 300話突破です。
第300次元 さよなら神の世界
心地よく快晴は空を支配した。と言っても、この世界に快晴以外は無いのだが。
作られた太陽とほんの少し、夜に星が観測できる程度には雲も存在する。
少し広いくらいの木造の家から荷物を抱えて、少年達はいつも通り外へ出る。
いつもと違い、今度はこの世界から、出て行く為に。
遅れて心の神、妖精が扉を潜って最後。英雄達は美味しすぎる空気を体いっぱい吸い込んだ。
「くぅー! なーんかなっげえ事こっちにいた気がすんなあー!」
「ええと、実質何ヶ月かはいたような……」
「極端な長期合宿のようなものか」
「皆お疲れ様。ここへ来た時より随分、顔つきが逞しくなったわ」
「え! マジ!?」
「ええ。本当よ? 身近で成長を感じられて、私も嬉しかったわ」
「そんな……フェアリーさんのおかげですよっ」
「……あとは、神族達のな」
「? あら……? ——レトヴェール君は?」
「え?」
そういえば、と。軽く湖、林の奥。見回してみるも姿が見当たらない。
レトヴェールはというと、小屋から出てすぐ、誰にも気づかれず。
森の中へ、何かを探すように首を回しながら足早に歩いていたのだった。
荷物は万全ですぐにでも元の世界へ帰る事が出来るというのに。
彼は、ある声に呼び止められ息を詰まらせた。
「よ! ——レトヴェール!!」
「!」
「んなに驚くなよな……殺し合い、した仲だろ?」
「バーカ。何が殺し合いだよ、殺す気なかったくせに」
「……ハッ。めでてェ頭だな、英雄様」
黒く尖った髪を雑に束ね、全体的に涼しそうな薄い服装。
動物の神アニルは木の上から飛び降りて、適当な足取りでレトに近づく。
「もう行くんじゃなかったのか?」
「ああ、うん……アニル」
「ああ?」
「ありがとな」
「……!」
「第二覚醒を取得出来たのは、お前達神族のおかげ——」
「————やっぱ似てるな、“お前ら”」
聞き返そうとした、言葉の意味を、遮られてしまった。
小さく漏れた声は、今までにない——アニルの、穏やかな表情で、消え失せた。
「あー気持ちわりィ! これだから人間って奴は……」
「……似てる、って……」
「やめとけ、“ありがとう”なんて言葉————神様は知らねェよ」
吐き捨てるように言った後、アニルはくるっと振り返ってしまった。
レトにこそ見えなかったがその顔は、少しだけ緩んでいて。
義兄妹揃ってバカみたいに。そう、思ってしまった。
「もうさっさと行っちまえ! てめェらのムカつく顔なんざこれ以上拝みたかねェ」
「……」
「——隙ありィっ!」
「——!?」
黙ってアニルの後ろ姿を見ていた、レトの、首筋に。
つうっと、赤い糸が垂れた。
獣のように長く鋭い爪の先は、レトの首に突きつけられる。
「“餞別”だ、受け取れ」
「……っ」
「ったく、こんなんも避けらんねェとはなァ」
「不意打ちは卑怯だぞ」
「んなんじゃ一生! 神族様にゃ勝てねェぜ?」
「うるせえ」
「精々足掻いて喚いて————“抗ってみせろ”、英雄」
それが、アニルからレトへの。
事実上最後の言葉だった。
「——レト—!!」
「!」
「お前……っ、こんなとこにいたのかよ!」
「あまり世話を焼かせるな」
「お前ら……」
一番初めに駆け寄ってきたのは、左右に束ねた金髪を揺らす、キールアだった。
追ってサボコロとエンもレトの許へ集まってくる。
レトがもう一度振り返った時には、もう、アニルはいなくなっていた。
生々しく首筋に残る、赤く細い傷痕に、キールアは気が付いた。
「レトどうしたのその傷!?」
「え? ああ……」
「その傷の様子から推測すると……もしやアニル?」
「餞別、だってさ。やっぱ神様の送り出しは違うよな」
「はー? なんじゃそりゃ……」
傷を付けられたというのに、レト本人は安心したように笑っていた。
元魔を追いかけ続けた数週間。
アニルと修行し続けた数ヶ月。
義妹のロクによって命を失い、マザーによって人間界への出入りを禁止されたというのに。
義兄であるレトを殺しに掛かる訳でもなく、結果的に協力するような形になったのには。
アニルなりの本心と、願いが、きっと。レトの心の奥底を叩いたからなのだろう。
それはレトやアニルに限らずキールアも、そしてエンもサボコロも。
グリンやワルドから受け取っている筈のもの。
一足遅れてフェアリーは、深緑を優雅に揺らして、空を仰いだ。
「……皆いるみたいね。さあ、そろそろ元の世界へ帰る時間よ」
「うっす!」
「承知している」
「レト、帰ったらそれ、手当するね?」
「ああ、頼む。……まあ、暫く残りそうだけど」
「皆……いえ————“英雄大四天”」
フェアリーは改めてその名を呼んだ。
人間に認められた、英雄である称号を。
この世界へ引き込み、第二覚醒まで得させて、フェアリーは。
予想以上に逞しくそこに在る、英雄達に優しく微笑みかけた。
妖精の微笑みは、そこで英雄達の視線を、集める。
「貴方達は今、人類が誰も手に入れる事のなかった……新しい力を、手に入れたわ。その力が人類を守る希望の剣となるのか、それとも神の絶対的な力の前に屈し、灰となるのかは……貴方達次第。忘れないで、次元の力は信じる力。その源は——“心”である事を。……どうか————」
喉が震えたのは千年ぶりだ。マザーから授かった声は、静かに。
恐れながらも言葉を紡ぐ。今日この日の為にあるそれは。
英雄達の、心臓に語り掛ける。
「どうか————神を、救って……っ!」
倒すでなく、殺すでなく、憎むでなく、恐れるで——なく。
神が人を救うのではなく、人が神を救うのだと。
心の神は、心のままに告げた。英雄達への、それは全てを乗せた言葉だった。
「フェアリーさん」
「……レト、ヴェール君……」
「俺達は皆……あるたった一人の神に、心を救って貰った。だから今度は、」
「……あの子だけじゃなくて、アニルもグリンも……ワルドも」
「分っかんねーけど、デスニーって奴も——当然ゴッドも!」
「全てを背負うと決めた。心の神が教えてくれた——“愛する”力で」
「千年間の永い“因縁”に————必ず決着をつけてやる!!」
レトヴェールを筆頭に、集まった戦士達は。
皆、ある心の神に救われた存在だった。
泥沼だった人生に手を突っ込んで、足まで踏み入れて。
真っ直ぐ、光みたいに、手を差し伸べ暖かく笑いかけてくれた。
己を人間だと思っていた神様が、神だと知って嘆き心を閉ざすというのなら。
今度は救われた人間達が、その錠に手を掛ける番であると。
例え一度その手を、振り払われたとしても。
「……有難う、皆」
「レト、言ったからにゃーインネン、断ち切らねーとなあ!」
「あんま言うなよ」
「お? 照れてんのか? 照れてんのか人族代表様ァ?」
「煽るなサボテン」
「あァッ!?」
「まあまあ……」
「さあ皆! ——心の準備は良いっ?」
「ああ」
「はい!」
「おっけーだぜ!」
「問題ない」
「それじゃあ、お別れの時間よ————“有次元の扉、発動”!!」
妖精の声に応えた、空間は風を起こし、歪み始め、大地は揺れた。
世界が開く瞬間を目の当たりにして尚、今回ばかりは驚かずに。
返って涼しい表情で、扉を目の前に怯む事もしない英雄達。
「一緒に、来ないのか?」
「ええ……私はここから、貴方達を見守っているわ」
「そうかい——それじゃ」
その顔も、声も。覚えている筈なのに。
妖精は薄く笑った。千年も昔の事を、今も覚えている。
また、逢えて良かった——と。
「また会おう————“フェアリー”!」
「——!」
妖精が、フェアリーが、小さく唇を弾ませて。
指が動いた時には、少年達はもうこの世界から消えてしまっていた。
最後に彼女の名を呼んだレトの、顔と、声色とが。
妖精に、微かな後悔を思い滲ませる。
「……『また会おう、フェアリー』……か」
最後の最後で、言ってくれる。
忘れていたのに。閉じ込めていたのに。
“彼”が最後にくれた声は、確かそう呟いていた。
重ねてしまいそうになる。妖精は、静かに目を閉じた。