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- Re: Multiplex Cross Point─多重交差点─ ( No.11 )
- 日時: 2010/03/15 21:04
- 名前: Faker (ID: xFQn5lM8)
Multiplex Cross Point─多重交差点─ 第二話 荒廃せし失楽園
譜条市の住宅地を越えた先に寂しく建っている廃墟ビル。
幽霊でも出そうな雰囲気の、このビルこそ魔術組織【荒廃せし失楽園】の本拠地だ。
元は商業だったビルの階層は20階にも及び、各階層ごとに役割を持っている。
「到着〜」
寂れた廃墟ビルの18階、クロトは古びた扉を開けた。
扉を開けた先には、業務用デスクの椅子に座る不機嫌そうな表情の少女が。
亜麻色の髪は肩より下まで伸び、何とも小柄な少女だった。
容姿から推察するに、年齢は12、13程度に見える。
だが、実際は体が小柄なだけで年齢はクロトと1つ違いの15だ。
「遅い!!!」
小柄な身から発せられているとは思えない程の声で、彼女は一喝した。
ビリビリ、と周囲の壁が彼女の一喝により振動する。
それほどに、彼女の一喝は凄まじかった。
「あ〜…。やっぱ怒ってる?」
「当たり前だ!!」
クロトの言葉に、彼女は思い切り椅子から立ち上がった。
彼女は髪を逆立たせるのではないか、という程の勢いで言葉を続ける。
「遅刻とは何を考えてるんだ、貴様は!! それに婆さんのアドレスだと!? 我々の事が一般人にバレたらどうする!?」
「あ〜、いや、それはね…」
「貴様は何で私の思った通りに行動しない!? 貴様は組織の一員なんだぞ!?」
「そ、それは分かってるんだけどさ…」
「しかもだ。相変わらず、食い逃げばかりしおって。恥を知れ!!」
「う、うん。ごめんなさい…」
「魔術師としての誇りを持て、分かったな、クロト!?」
「は、はーい」
「返事は延ばさない!!」
「はい!!」
よろしい、と彼女は平静を取り戻し、静かに席に着いた。
クロトは非常に疲れた表情で、溜息を吐く。
(相変わらず、椛ちゃん…副隊長は手厳しいわ)
【荒廃せし失楽園】の副隊長、それが彼女だ。
流石に責任重大な副隊長職、部下であるクロトの行動に対しても非常に厳しい。
(ま…、他にも俺に厳しいって理由はあるんだけど…)
それは彼と彼女の関係だ。
副隊長と部下、2人はそれ以外の関係で結ばれている。
「え〜と。もう行っても良いかな?」
「別に構わん。メンバーから集会の内容を確認しておけ」
「はい。それじゃ」
「っと…。待て、クロト」
「ん…。何か他に用でも有るの、副隊長?」
「携帯のメールアドレス」
「携帯?」
「まだ、私は義兄さんのメールアドレスを…ちゃんと登録してない…」
急に言葉の歯切れを悪くした彼女は、若干だが頬を赤く染めていた。
それはクロトの事を『義兄さん』と呼んだ辺りからだ。
「はいよ、俺の携帯」
「ッ!? わ、投げるな、馬鹿ッ」
「ナイスキャッチ〜」
「精密機械を投げるんじゃない!!」
「はいはい。登録お願いね〜」
「い、言っておくが…、私が貴様のメールアドレスが欲しかったのは仕事の為だからな!!」
「分かってるって」
「べ、別に私用で貴様にメールをしたいなんて…、お、思ってないからな!!」
「はいはい、分かってるって」
そう言って、彼は彼女に背を向けて部屋から出た。
相変わらずだ、とクロトは思う。
副隊長職に就く少女、彼女の名は椛、─────────柚葉 椛。
クロトの義妹で、副隊長職に就いてからも時折、彼に対しては、あんな態度を取るのだ。
自分だけは人一倍厳しいが、偶に急に態度を変えて、素直じゃ無い義妹に戻る。
(接し難いなぁ、ホント)
副隊長としての椛。
柚葉 クロトの義妹としての椛。
どちらとして接して良いのか、クロトは未だ分からない。
(ま、時が来れば分かるでしょ。それより、集会の内容を聞かなくちゃね)
楽観的な結論を出し、彼はエレベーターのボタンを押した。
歯切れの悪い機械音と共にドアの開いたエレベーターに乗り込み、彼は階層ボタンを押す。
押した階層ボタンは7階、其処は【荒廃せし失楽園】メンバーの休憩所となっている。