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「懐かしいわね、椛」

会議から一時間が経った頃。
自室の業務用デスクで今回の件に関して情報の統合を行っていた柚葉　椛は幼い少女の声を聞いた。
その少女の声を、柚葉　椛は知っている。

「一莟か」

珍しい来客だな、と椛は呟く。
その直後、壁を透過し、青いワンピースを身に纏う、幼い少女が現れる。
黒髪をツインテールに結った、金色の瞳を持つ少女。
彼女は異質な存在だった。
壁を透過した事も異質だが、それ以上に異質なのが、彼女の身体。


まるで幽霊のように、少しだけ身体が透けて見えるのだ。


通称、冷たい屍。
彼女の名は、一莟　レイヌと言う。
【Child　Soldier】事件の際、彼女は【荒廃せし失楽園】に干渉し、事件の解決を援護したり妨害したりした。
自分の愉悦だけに他者を動かす、彼女はそんな人間だ。
【Child　Soldier】事件以後、姿を現さなかった彼女が唐突に現れたのは何故か。

「何の用だ、幽霊」

不機嫌そうな表情で問い掛ける椛に対し、一莟　レイヌはクスクスと笑う。
まるで、椛の反応を楽しむかのように。

「ふふ…。何の用、か。椛、貴方は賢く聡明。だから私の目的は解ってるでしょ？」

無論だ、と椛は間髪を入れずに答える。
一莟　レイヌは相変わらず彼女の反応を楽しむように笑う。

「【Child　Soldier】事件では貴様の手の上で踊らされた。…何を企む、冷たい屍」

「決まってる。私は、私が楽しむ為に他人を動かしたいだけ」

「ふん。覚えておけ、我々は貴様の手の上で愉快な喜劇を演じるつもりは無い」

利用されてたまるか、と椛は率直に告げた。
そんな彼女を見据えたまま、レイヌは明らかな嘲笑を浮かべる。

「楽しめそう。…じゃあ、私の手の上で抗って見せて、愚かな道化」

「言われる間でも無い。…さっさと言う事だけ言って、私の前から消えろ」

そうね、とレイヌは呟き、小さく息を吐く。
一瞬だけ間が空き、少しの沈黙の後、彼女は静かに告げた。

「【ゼロの術式】、って知ってる？」