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- Re: Multiplex Cross Point オリキャラ募集中 ( No.176 )
- 日時: 2010/05/26 17:18
- 名前: Faker (ID: x2W/Uq33)
Multiplex Cross Point─多重交差点─ 第七話
月架 蒼天は【荒廃せし失楽園】に属する魔術師だ。
普段は本拠地を置く譜条市の外部で起きる魔術師の暗躍阻止に駆り出される彼だが、今は違った。
数時間前、組織の副隊長を務める柚葉 椛からの電話で彼は本拠地の廃ビルに呼び戻されたのだ。
外部での魔術師の暗躍の報告を求められるのかなー、と気楽に考えていた彼だったが、
現実は、そんなに甘くなかった。
「来たか」
待ち受けていた椛の口から第一に発せられた言葉が、これだ。
彼女は特に何も語ろうとせず、業務用デスクの引き出しから一枚の写真を取り出し、彼に手渡した。
其処には、1人の少女が写っている。
短く切り揃えた、綺麗な金髪の少女。
表情は無表情だが、意図しての無表情では無く、妙に自然体な無表情だ。
ふと、月架は思う。
この写真を渡されたが、何をすれば良いのか、と。
しかし、彼の質問は言葉になる事は無かった。
何故なら、柚葉 椛の方から答えが出たのだから。
「極秘裏に、その写真に載っている少女を─────────────、消せ」
その瞬間。
間違いなく、月架 蒼天は息を呑んでいた。
そして、その表情は確かに驚愕に染め上げられていた事だろう。
彼が知る、柚葉 椛はそんな事は言わないはずなのだから。
「ちょッ、待て。それって、暗殺って事か!?」
「言葉の通りだ」
「第一、この娘は何処の誰なんだ。それに、こんな娘を暗殺なんて何を考えてんだよ!!」
彼は知らない。
写真に写る少女が、この【荒廃せし失楽園】に保護された少女である事を。
そして、少女が本拠地である廃ビルを強襲した【灰燼の風】の錆螺 唄に変装した偽者を【白色の闇】で葬った事を。
対して、柚葉 椛は知っている。
彼女の【白色の闇】の正体を。
その脅威を。
知ってしまった。
だからこそ、
「異論は許さん。私も機を見て排除に掛かる。チャンスがあれば容赦は無用だ、…やれ」
「…何だよ。何があったんだ!?」
感情を高ぶらせ、吼える月架に彼女は俯いて答えなかった。
彼には、それが苦しんでいるように見えた。
だから、彼は口を閉ざしてしまう。
彼は知っている。
柚葉 椛という少女を。
不器用ながら組織を支え、義兄であるクロトを慕う、根の優しい少女。
故に、彼女は自分自身の選択に苦しんでいるのだろう。
そして、彼女は聡明な人間だ。
暗殺、という手段を用いる事の卑劣さを理解した上で、彼女は選択をした。
他の選択肢を考えた上で、だ。
「異論は許さん。…標的は本拠地の中だ、ミスは許さんぞ」
振り絞るような声に、月架は背を向けた。
扉を開け、力強く閉める。
外は、冷たい風だけが吹いていた。
彼は、閉めた扉に背を預け、くそ、と静かに呟いた。
(何なんだ…。俺が留守の間に、組織に何が…!?)
巡る思考の中、冷たい風だけが彼の肌を刺していく。