コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Multiplex Cross Point オリキャラ募集中 ( No.201 )
- 日時: 2010/06/05 18:44
- 名前: Faker (ID: x2W/Uq33)
月架 蒼天は居住階層の壁に凭れ、うーん、と思い悩んでいる。
結局、暗殺は失敗した。
しかも、カノンの口元に付いた料理の汚れを拭き取るなんていう事をしてしまった訳で。
(…俺、絶対に椛に殴られるよな?)
あの性格を鑑みれば、このボケがーッ、という一喝と共に副隊長の疾風の如き拳打が自分を襲うのは明らかだ。
だが、現段階ではそんな展開は無い。
ならば、失敗を挽回する為に与えられた任務を果たすべき、なのだが。
(あの子を、討たなきゃダメなのか)
服の袖にはナイフが仕舞ってある。
これが、彼女の命を奪う事になる、そう考えると、彼の胸がズキンと痛んだ。
そんな時である。
ふと、服の裾を誰かが掴んで引っ張っている事に気が付いた。
見れば、其処には1人の少女が佇んでいる。
綺麗な金色の短髪の少女、月架は彼女を知っていた。
「カノン…」
標的である少女。
記憶喪失に加え、【灰燼の風】に追われる少女。
そして今、彼女は柚葉 椛に命を狙われている。
そんな彼女は自分に危害を加えようと企む月架の服の裾を引っ張ってくる。
「え、と。何か用か?」
明らかに動揺しているが、それを隠そうと彼は笑顔でカノンの行動に対して答える。
カノンは裾を引っ張るのを止め、口を開いた。
「名前」
「…、名前?」
「うん。名前。みんなの名前、覚えたいから」
その言葉に彼は思わず言葉を失った。
彼女は、この【荒廃せし失楽園】の中でメンバーの多くから好意的に接されている。
しかし、何らかの魔術によって記憶が失われている彼女は、その好意に応える為の感情の表現、行動が出来ない。
そんな中、彼女は唯一自分の出来る事を思い付いたのだ。
それが、好意的に接してくれる人達の名前を覚える、という事。
これは、カノンなりの好意への応酬、といえる行動なのだろう。
「いっぱい覚えたの。クロト、椛、秋兎、ヴァン、メル、采音、誡、紀和、唄…、後は」
「月架 蒼天」
「?」
カノンの言葉が詰まった際、月架は思わず自分の名前を呟いていた。
だが、カノンはきょとんとしている。
どうやら、フルネームは難しいらしい。
「難しいか。じゃあ、ソウ、って呼んでくれ。俺の名前だ」
「ソウ…。うん、覚えたよ、ソウ」
嬉しそうな表情をするカノンに月架は微笑んでいた。
愛らしい1人の少女を見て。
そんな中、彼は気が付いたいただろうか。
カノンが現れた時、咄嗟に袖に隠した片腕。
ナイフを持った、その手が袖の中で小さく震えていた事に。