コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Multiplex Cross Point オリキャラ募集中 ( No.295 )
- 日時: 2010/06/23 01:26
- 名前: Faker (ID: w79JdDm2)
再会とは、唐突に訪れるもの。
1人、兎葉の街中を散歩していたクロトは現在、路地裏にいる。
何故なら。
暗い路地裏の道から現れた金属製の義手に、腕を掴まれ、強引に路地裏に引き込まれたからだ。
不良にでも絡まれるのかなー、とクロトは思う。
それこそドラマで見た、路地裏に引き込まれて暴力を振るわれる、恐喝される的な展開が待ち受けているとクロトは思っていた。
しかし、その予想はどれも外れていた。
暗い路地裏の中、は建物と建物の間にある路地裏では金属製の義手を付けた人物の義手以外は、明確に姿が見えない。
そんな中、ふふ…、と小さく笑う少女の声がクロトの耳に入った。
音源はクロトの眼前、すなわち義手を付けた人物から。
「いやはや、少し驚かせたかな? ──────お兄さん」
聞き覚えのある少女の声。
クロトはその時、ようやく義手を付けた人物が誰であるかを知った。
路地裏に、小さく薄い陽の光が射す。
暗かった路地裏をほんの少しだけ照らし、義手を付けた人物の全体像をはっきりと映し出した。
その人物は、肩より少し長いざんばらな黒髪の少女だった。
右腕の肘から下が、黒く光る金属で造られた義手で、体中には痛々しい傷がある。
クロトは、その少女を知っている。
桂浦 あがさ。
元、路地裏で援助交際を行っていた不良少女だ。
元、というのはクロトが偶然に彼女と出会った際、散々に説教し、彼女に援助交際を辞めさせたからである。
彼女は子供のような人懐っこい笑みを浮かべると、
「久しいなー、お兄さん。あれから音沙汰無しだったが、元気だったか?」
「君こそ。見に来る余裕は無かったけど、ちゃんと前の仕事に戻らずに、まともな生活を送ってるか?」
「ふふふ。実は今、不動産屋で物件紹介のアルバイトをしているんだ。賃金は前より少ないけど、楽しいな」
嬉しそうな笑顔で彼女は語った。
元気そうで良かった。
クロトは心底そう思った。
見れば、体中に有る痛々しい縫い傷も少しだけ薄くなっているのが分かる。
最初に会った時と比べ、その表情も明るくなっていた。
だが、クロトにはもう1つだけ心配な事がある。
「義手、調子は良好かい?」
「ああ、万事問題無しだ。これを付けてくれた、【技師】さんには感謝だな」
そっか、とクロトは相槌を打った。
彼女と初めて会った時から、彼女の右腕には義手が装着されていた。
聞けば、右腕を事故で失った彼女に【技師】と名乗る初老の男性が、義手を造り、彼女に仮の右腕を与えたらしい。
これだけなら、まだ問題は無いのだ。
親切な【技師】が右腕を失った哀れな少女に義手を造った、これだけなら。
問題は、
(動力源が機械による物じゃ無く、─────────半永久的な魔力形成機関だって事だな)
魔力とは、術者の体力を、体内の【回路】と呼ばれる魔力形成機関で変換する事で生まれる、魔術の源だ。
本来なら、人間で言う体力が底を尽けば魔力が生まれる事は無い。
だが、あがさの義手の場合は話が違う。
彼女の義手の場合、人間の体内に形成される【回路】を擬似的に造り、何らかの力を魔力に変換し、駆動している。
それこそ、半永久的に。
「うん? どうしたんだ、お兄さん、私の義手を見て。…まさか、欲しいのか?」
「いや、そんな事は無いよ」
うん、なら安心だ。
そう言って、彼女は小さく微笑んだ。
ふと、クロトは腕に付けた時計に目をやった。
「おー、結構な時間が経ってるな」
「もう行くのか?」
「ま、俺も色々と仕事があるからな」
「仕事、か。私も丁度、アルバイトに行く所だったんだ」
「そっか。じゃあ、一緒に行くか?」
「道が別だ。残念だが、お兄さんとは此処でお別れだ」
そっか、それじゃあな、とクロトは手を振って路地裏を出て、元の道を歩いて行く。
遠くなる背中を見て、あがさは陽の当たる路地に出た。
眩しいな、と彼女は消え入りそうな声で呟いた。
本来なら、自分は陽の当たる道を歩けるような人間では無い。
援助交際のような仕事をして、相手の気分で殴られたりして、真っ暗な路地裏が泣いていた、自分が。
陽の当たる世界は、自分には眩しすぎると彼女は思っていた。
だが、
「お、あがさちゃん、お仕事かい。がんばってな」
「あがさちゃん、この前に紹介して貰った家、気に入ったよ。ありがとう」
「あがさ姉ちゃん、お仕事ー? がんばってねー」
道行くの彼女に声を掛けたのは、路地に店舗を構える明るいおじさん、サラリーマンの男性、近所の女の子。
みんな、彼女が不動産屋でのアルバイトをしている事を知っている人達だ。
おじさんと彼女は顔見知りで、おじさんは援助交際を辞めたあがさにアルバイトを紹介してくれた人。
サラリーマンの男性は、あがさがアルバイトで初めて対応し、彼女の仕事に感謝してくれた人。
女の子は、路地裏で迷子になっていた所を、あがさに助けられ、以来、あがさを慕ってくれている子だ。
そんな人々に、言葉を掛けられ、あがさは天を仰いだ。
空は快晴、眩いばかりに天では太陽が輝いている。
(眩しい)
その表情には笑みがあった。
とても幸せそうな、笑みが。
(ああ、眩しい。───────眩し過ぎて、泣けて来るなぁ)
頬を伝い、ポロポロと、暖かい滴が大地に落ちる。
暗い路地裏で生きて来た彼女は、道を歩いて行く。
明るい、陽の当たる道を。