コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Multiplex Cross Point オリキャラ募集中 ( No.341 )
- 日時: 2010/07/11 16:14
- 名前: インク切れボールペン (ID: w79JdDm2)
ゼロの術式。
全く聞き慣れない言葉に、月架は思考を巡らし、その言葉について考えた。
術式という言葉が使われている以上、魔術の一種である事は確実だ。
だが、ゼロという言葉が頭に付く術式の名前など、彼の記憶の中には無かった。
だから、月架はその言葉を使った錆螺 唄に疑問を投げ掛けたのだ。
「…ゼロの、術式?」
「ええ。万物に設定された数値を、術式の名の通り、─────ゼロにする。それがゼロの術式です」
「万物に設定された数値を、ゼロに…? …ッ、それってまさか…!?」
ええ、貴方の考えている通りです。
錆螺 唄は視線を服屋の硝子窓、正確には硝子窓の先にいるカノンに移した。
「命が10という数値なら、それをゼロの術式は文字通り、0に変える。…結果は、もう解りますね」
唄の言葉に、月架は腰を抜かしそうになった。
その術式に恐怖を抱いたからでは無い。
その術式の性能に驚いたからでも無い。
何故、腰を抜かしそうになるほど驚いたか。
それは、
月架 蒼天が、その術式を知っているからだ。
「馬鹿、な…。あ、の術式は…。あの殺人術式は、奴の…ッ!!」
「そうです。【Child Soldier】事件の際、事件解決に乗り出した魔術組織を殲滅し尽くした、【彼女】の術式です」
「…カノンは、奴の術式を?」
「本部が【灰燼の風】の部隊に強襲された事は聞いたでしょう。その際、私の偽者が死亡しています」
それについては、月架はクロトから話を聞いていた。
【泥人形】で構成された部隊、錆螺 唄の偽者、白色の闇に呑まれ消失した偽者…。
「術式による、消失現象…」
茫然と呟いた彼の脳裏を、過去の【Child Soldier】事件の情景が掠める。
当時、彼はまだ【荒廃せし失楽園】に属してはおらず、無名の魔術組織に身を置いていた。
駆け出しの魔術師だった彼は、組織の上層部の命令を請け、【Child Soldier】事件の解決に尽力する事となる。
構成された部隊は200人以上のベテランの魔術師達で、当時の月架は事件の解決は確実だと確信していた。
だが、結果は惨たるものだった。
部隊は、月架と、月架と同じく駆け出しだった魔術師の青年を残し、壊滅した。
覚えているのは、阿鼻叫喚、断末魔の叫び、そして白色の闇。
今だ、月架の中で恐怖の対象として鮮明に残る、【彼女】。
【彼女】の掃討命令を請け、部隊が戦場に向かった、あの時。
あの時、月架は【彼女】の一撃を食らい、地に倒れてしまった。
そして、【彼女】と戦った仲間達が白色の闇に呑まれ、消失するのを見ているしか出来なかった。
後悔と絶望、そんな感情を抱き、仲間が消失して行く戦場で、彼は声が尽きるまで吼え、意識を失った。
あれだけの惨状で、自分が次に目を醒ます事は無い、彼は確かにそう思っていただろう。
あの惨状で、自分が生きているはずが無い、と。
しかし、彼は生きていた。
全てが消え去った戦場で、もう1人の同僚と共に。
後に、彼と同僚は別の魔術組織に保護された。
そして、傷を癒し、万全の準備を整え、彼は同僚の青年と共に戦場に帰って来た。
仲間の仇を討つ為に。
そう、────────復讐の為に。
結果から言えば、月架と同僚は仲間の仇である【彼女】を討つ事に成功した。
だが、代償は大きかった。
【彼女】を討つ為に、【彼女】の仲間だった子供達を徹底的に殺戮し尽くしたのだ。
それが、後に二人に代償を払わせた。
事件の解決後、月架と同僚は真実を知る事となる。
【Child Soldier】事件、戦闘技術を持った子供達が魔術師達を襲い始めた事から始まった事件。
この事件は、単純に表だけを見れば、最初の加害者である子供達が悪だと言える。
だが、真実、事件の裏側を知った時、事件に対する認識は変わる。
この事件の加害者である子供達は、【灰燼の風】と呼ばれた組織に非人道な実験を受けた者達だった。
そう、この事件は加害者である子供達は────────、被害者でもあったのだ。
その事実を知った時、月架と同僚は初めて、敵だった子供達の認識を【敵】から【人間】へと改めた。
結果、二人は自分自身の道徳心に押し潰され、狂ってしまったのだ。
現在でも、夢に自分が成した殺戮が何度も現れ、彼はその度に、後悔と絶望、罪悪感に心が押し潰される。
だからこそ、月架は、後悔と絶望、被害者でもあった子供達への殺人の罪の意識から、誓いを立てた。
それが、子供達に対する不殺の誓いだ。
自己満足に過ぎないかも知れないが、それだけが月架が縋る事の出来る贖罪だった。
だが今、錆螺 唄から聞かされた言葉が事実なら。
(あの事件での【彼女】と同類の、魔術…。まさか…)
あの事件の子供達は、【灰燼の風】が戦闘訓練と実験を繰り返し、魔術師として育成した者達だった。
そして、【彼女】の扱った白色の闇は、実験の中で偶然にも生み出された魔術。
(まさか)
それを、カノンが使役した、という事は。
(まさか!!)
錆螺 唄から聞いた、カノンを保護するまでの経緯。
彼女を追っていたのは、【灰燼の風】の魔術師。
そして、本部を強襲した【灰燼の風】の部隊はカノンを狙っていた。
それは、まさか。
可能性の域を出ないものの、月架には確信があった。
そう、カノンは。
カノンの正体は。
(まさかッ!!)
結論は、既に彼の喉から出て、言葉と化そうとしていた。
だが、それは遮られた。
錆螺 唄、彼の言葉によって。
「…これは、予想の域を出ないのですが」
予想の域を出ない。
それでも、曖昧な情報は与えない、そんな情報屋の矜持を敢えて捨て、彼は言った。
「カノンさんが、【灰燼の風】の実験体、という可能性があるんですよ」