コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: Multiplex Cross Point オリキャラ募集中 ( No.365 )
日時: 2010/07/13 18:42
名前: インク切れボールペン (ID: w79JdDm2)

同時刻。
【荒廃せし失楽園】本部の地下の一室。
一切の明かり、音が無い部屋の中で、マミヤ・メグカの本の頁を捲る音だけが静寂の中で響き渡る。
ふと、彼女は何を思ったか、読んでいた本を薄汚れたベッドのシーツに放り投げ、電話の受話器を取った。
電話には西洋風の装飾が施してあり、何となく年期が入っている様にも見える。
マミヤは受話器を耳元に当て、小さく何かの言葉を呟いた。
直後、電話のダイヤルがひとりでに回り、電話はとある番号に繋がり、受話器からは電子音が聞こえて来る。
それから数秒後、電話は初老の男性に繋がった。

「ハァーイ、セルゲイ」

相手を挑発する様に、マミヤはそんな言葉を吐いた。
相手の初老の男性、セルゲイ・ディスコラヴィッチからの返答は無い。
驚いているのかしら、と予想するマミヤに対し、数秒の合間を置いてセルゲイは言葉を返して来た。

「やぁ、元気かね? ジョセフィーヌ」

私の名前はそんな何処ぞの物語のヒロインの様な名前じゃないわ。
マミヤは返って来た言葉に対し、そう応酬した。

「ユーモアだよ、マミヤ嬢。辛苦に満ちた人生の中にはユーモアのあるジョークが必要だ。そう思わんかね?」

「ユーモアを感じさせないジョークは不必要よ。セルゲイ、そう言うなら、貴方はジョークのセンスを研くべきだわ」

実に辛辣だな、マミヤ嬢。
呆れた様な呟きに対し、マミヤは面倒そうな溜息を吐いた。

「…本題に入りたいんだけど構わないかしら、セルゲイ」

「ふむ。構わんよ。確か本題というと、────────君とのカラオケパーティーの事かね?」

違うわ、それ以前に何でカラオケパーティーなのよ、とマミヤは少し苛立った様な表情を浮かべた。

「違うわよ。【荒廃せし失楽園】に関しての情報、私が与えた筈よ。貴方達は動くのでしょう?」

「ああ動くとも。まずは───────…、カラオケかね?」

「…本題に戻って構わないかしら」

「結構だ、マミヤ嬢。このセルゲイ・ディスコラヴィッチ、軽快にパラパラを踊りながら、君の言葉を拝聴しよう」

ヒャッホー、という愉快な叫びと共に、マミヤの持つ受話器から軽快な音楽が聞こえて来る。
…どうやら、この初老の爺さんは本当にパラパラを踊っているらしい。
マミヤは受話器から聞こえて来る初老の男性の愉快な叫びを耳にし、険しい表情を浮かべ、

「呪ってやるわ、セルゲイ」

「ふむ。麗しき淑女から辛辣な言葉を戴くのも悪くは無いな」

「ねぇ、どうしたら話を聞いてくれるのかしら、セルゲイ」

「君の様な麗しき淑女の話なら、いつでも敬って拝聴するが?」

なら聞きなさい。
そう言ったマミヤに、セルゲイは、承知した、と答えた。
では、本題に戻るわね、とマミヤは話題を本題に戻し、話を始める。
今度こそ、まともに会話が出来ますように、と胸中で固く願って。

「既にそちらでは【荒廃せし失楽園】の動向は察知しているのでしょう」

「ふむ。君が事前に与えてくれた情報によって、彼らが兎葉の街を訪れた事は解っている」

「絶対の好機じゃない。【荒廃せし失楽園】の面々が一同に介している。一度に殲滅できるわよ?」

「ふむ。随分と簡単に言ってくれるな」

だが、とセルゲイは電話の向こうで薄く笑った。
まるで、その状況を楽しんでいるかのように。
ただ、ひたすらに薄く薄く笑った。

「ふ…。実に面白い状況だな、マミヤ嬢」

「断言しましょう、セルゲイ。貴方は動くわ。そう…、【灰燼の風】で【猛火】の名で畏怖される貴方なら、ね」

「ふむ。今は【メールの文末に確実にハートマークを付ける男】と畏怖されているが」

「率直に言う。気色悪いわ」

「ふむ。メールにプリティーさを求めてみた訳だが。組織の者達にも同じ事を言われたよ」

「真っ当な反応よ。初老のおっさんからのメールにハートマークなんて…、率直に言うと衝撃的よ」

私はハートマークが好きなのだが、と反論するセルゲイに対し、マミヤは頑として、やめなさい、と意見を曲げない。
結果として、セルゲイが折れ、仕方がない、とハートマークを付ける事を辞める事を約束した。
電話越しに、セルゲイの寂しそうな溜息をが聞こえた。

「で、動くの?」

「勿論。既に部隊の派遣は終えている」

「うふふ…。流石ね、セルゲイ。【灰燼の風】の総帥だけあるわ」

「うむ。それについてなのだが、私は総帥の座は若い者に任せ、今は組織の分隊の指揮に就いている」

「あら、そうなの? 知らなかったわね、後任には誰が就いたのかしら?」

「ダージス・シュヘンヴェルク。組織内でも天才と称される若者だ」

「…ああ、ダージス坊やね。全く、人選ミスじゃ無いかしら。あの変態坊やを総帥にするなんて」

マミヤは表情を曇らせ、苛立った表情で呟いた。
彼女の知る限り、ダージス・シュヘンヴェルクは道徳心という言葉とは最も縁遠い人間だと言える。
組織内部で自身の権力を使って、孤児の子供達を集め、非人道な実験を繰り返した。
果てに、実験した子供達に魔術師を襲わせ、【Child Soldier】事件を引き起こした。

「そんな人間が組織の総帥、ね。【灰燼の風】が破綻するのも時間の問題じゃないしら」

「そうならない様に、我々の様な下々の者達が一層、組織に尽くすのだよ」

「精々、頑張ってちょうだい。私には関係無いし」

「解っているとも。さて、それにしても構わんのか? 敵である我々に自分の属する組織の情報を与えて」

「勿論よ。私と組織の関係は利害の一致。私の目的は【命の価値を識る事】。それを戦いで見極めさせて貰う」

「その為なら味方を売る、か。しかも、迷いすら無く。惚れ惚れするよ、君には」

「うふふ。貴方にだって目的はあるでしょう?」

「ああ、無論だ。私の目的は【歌って踊れる初老の爽やか系のおっさん】を目指す事だよ」

「不可能ね」

マミヤは呆れた様に肩を竦めた後、西洋装飾の施された時計に視線をやった。
電話で通話を始めてから既に30分も経っている。
普段のマミヤ・メグカなら必要な用件を言うだけで終わるのに、セルゲイ相手では常に長引いてしまう。
何となく、その理由は自分で解っているのだが、癪なので口には出さなかった。

「…そろそろ失礼するわ、セルゲイ」

「そうかね。麗しき淑女と会話できた事、光栄に思うよ」

「口先だけは巧みね。それじゃ、【灰燼の風】の者達と、【荒廃せし失楽園】の者達が命を削り合う事を願っているわ」

うむ、それでは失礼しよう。
セルゲイの言葉が聞こえた後、プツンと通話が切れた。
ツー、ツー、という電子音だけが、森閑とした部屋に響き渡る。
マミヤは受話器を耳に当てた姿勢のまま、薄く薄く笑っていた。

「さぁ、【荒廃せし失楽園】。───────貴方達の命の価値を私に示して見せて」