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Re: Multiplex Cross Point オリキャラ募集中 ( No.376 )
日時: 2010/07/14 15:39
名前: インク切れボールペン (ID: w79JdDm2)

Multiplex Cross Point─多重交差点─ 第九話

「こういう服はどうかな?」

沢山の種類が並ぶ兎葉市の服の量販店。
店の中で、結月 采音は可愛らしい女性用の服を仲間である少女達に薦めていた。
雅依 光星は目を輝かせて服を見ており、興味があるのは明らかだ。
如月 琉那は興味無さそうに他の服を見ており、光星と対極に興味が無いのは明らかだった。
各々が別の反応を示す少女達の中で、星姫 月夜だけは微妙な反応を示している。

「ねー、月夜ちゃんはどう思う?」

「別に。興味無い…」

と、言いながらも横目で幾度も結月の持った服を一瞥する事から、興味はあるようだ。
微妙な反応をする月夜を前に、結月は最年長者として空気を読んで、服の購入を決めた。
さて、次は。

「カノンちゃんはどんな服が良いかな?」

結月はカノンに問い掛けるも、彼女は相変わらずの無表情で首を傾げている。
どうやら、自分にどんな服が似合うのか、解らない様だ。
ならば。

「うん。よーし、結月さんがカノンちゃんに似合う服をいっぱいセレクトしちゃおう!!」

よーし、やるぞーッ、と非常な意気込みを見せる、結月 采音。
だが、意気充分な結月に対し、突如として避難の声を上げた。

「うぉぉい!! これ以上の荷物を増やす気か!?」

避難の声を上げたのは、荷物持ちに待機させられている千堂 紀和だ。
結月ら女性陣の買物に付き合わされ、小柄な身の体力をフル活動させ、大量の荷物を持っていた。
沢山の服が入った袋を両手に三つも持ち、生活用品の入ったスーパーの袋を首から下げている。
最早、これ以上は持てない状況なのだが、

「大丈夫だって。紀和なら何とかなるよ」

「無茶を言うな、ド阿呆!! これ以上、どうやって荷物を持てと言うんだ!?」

根性。
笑顔とガッツポーズで、結月はそう言った。
対して紀和は、無理じゃ、ボケ──ッ!! と叫んで反論する。

「うるさいな」

「同感」

紀和に対し、同意見を抱いた二人は呆れた様に溜息を吐いた。
ただ、月夜だけは呆れた表情の琉那とは違い、少しだけ呆れた表情に苛立ちを含んでいる。
そんな二人に気付かず、紀和の反論は続く。

「これ以上の荷物は持てん!! なぁ、黒雅!!」

紀和は、自分の意見に同調してくれるだろうと信じ、黒雅に声を掛けた。
だが、黒雅は紀和と同程度の荷物を持ったまま、顔を俯かせて反応を見せない。
おーい、黒雅ー、と訝しんだ紀和が何度も呼び掛けても、やはり反応は無い。
何度か呼び掛けた後、やっと黒雅から反応が返って来た。

「…ぐぅ」

「寝とんのかーいッ!!」

またもや、叫んだ紀和に対し、更なる苛立ちを覚えた月夜の中で何かが切れた。
彼女の内から、燃え上がる様な激情が迫り上がり、月夜の精神を怒りが支配する。
そう、切れたのは堪忍袋の尾だったのだ。
そして、憤怒に身を任せた月夜の口から出た言葉は、

「お前、いい加減にしや─────────、むぐぅ!?」

「はいはーい、月夜ちゃん。其処までね。粗暴な言葉を女の子が使っちゃダメだよ?」

乱暴な言葉が月夜の口から吐き出されようとした直後、結月の手が瞬く間に月夜の口に当てられた。
その挙動は、正しく瞬速と言っても過言で無い。

「…? どうかしたのか、月夜?」

「むぐぐ…」

「あはは。何でも無いよ、紀和。とりあえず、荷物をお願いね?」

「だから、これ以上は」

「私、紀和を頼りにしてるからね?」

そんな事を笑顔で言われては、千堂 紀和、男として断る事など出来ない。
巧く反論を潰された事に不愉快さを感じながらも、頼りにされてるという事に対し、紀和は、

「任せておけ」

と、顔を横に背け、複雑そうな表情で溜息混じりに自分に言い聞かせる様に呟いた。
為済ましたり、と一瞬だけ結月は真っ黒な笑みを浮かべ、また瞬時に元の明るい表情に戻った。
そんな状況で、顔を背けた紀和の傍に光星が寄って来る。
その手に、女性物の可愛らしい服を持って。

「ねー、ねー。これって私に似合うかなー?」

「うん? その服か?」

うん、と満面の笑顔で頷く光星に対し、紀和は返答を考えた。
確かに似合うだろう。
だが率直に似合うと言うより、男として何か気の利いた言葉を言うのがマナー。
何か気の効いた言葉を考える紀和は、ふと視界に雅依 輝星を捉えた。
言葉を考えるまでの時間稼ぎに、どう思う、と巧く質問を移したのだが、

「…」

輝星は光星と服を見比べ、少しだけ茫然とした後、顔を真っ赤にすると紀和の方を向き、

「べっ、別に可愛いなんて思ってないんだからな!!」

「何で俺に言うんだ。しかも何で頬を赤らめとんだ、お前」

うるせー、と顔を俯かせて黙り込んだ輝星。
何を言っても反応しない所を見ると、取り付く島も無いようだ。

「ねー、ねー、紀和ぁ」

「ああ。似合ってるぞ、とても可愛いと思う」

紀和の率直な言葉に、光星は頬を赤らめて笑った。
それを遠目に見ていた結月は、

「うん。青春だねぇ」

と、笑顔で頷きながら呟いた。
その姿は、何となく青春時代を過ぎ去った中年を連想させる。
ちなみに、微笑ましい光景を見て笑顔の結月の隣で、口に手を当てられたままの月夜は窒息寸前だった。
そんな状況の中、笑顔で服を持ってレジに走って行った光星の後姿を一瞥し、

(…って、光星の奴、この服も買うのか。…俺も黒雅も、これ以上は荷物を持てんし、奴らを呼ぶか)

先程から外で何かを話し込んでいる錆螺 唄と月架 蒼天が見える店の窓に視線を移した。
だが、その直後。
異常な事に、千堂 紀和は気が付いた。
窓の外で話し込んでいた二人が、こちらに向かって走って来ていたのだ。
その表情は驚愕と焦燥が支配しており、普段の二人からは考えられない表情だった。
何だ、と二人の表情と行動に紀和は異常な何かを感じながら、その目で確かに見た。
錆螺 唄が、口で何かの言葉を紡いだのを。
外からの音は硝子によって阻まれ、その声は聞こえなかったが、確かに見た。
そして、口の動きを読んで、その意味を知り、焦燥を表情に貼り付け、彼は全力で叫んだ。

全員、店から出ろ、と。

直後。
床から莫大な閃光が迸り、紀和達が立っていた服屋の店内に、紅蓮の炎が充満した。