コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Multiplex Cross Point オリキャラ募集中 ( No.377 )
- 日時: 2010/07/23 08:45
- 名前: インク切れボールペン (ID: mCvgc20i)
熱風が吹き荒れた。
店内から出火した炎は瞬く間に爆発を引き起こし、服屋の店内を紅蓮一色に染め上げた。
硝子は爆発によって破壊され、店内は赤々と燃えている。
この惨状からは誰も生きているとは思えない。
月架は自分の眼前で起きた事象に対し、苦痛に満ちた表情で歯を噛み締めた。
少し早く気が付いていれば、店内にいた仲間を助ける事が出来たかも知れない、という後悔から。
だが、その隣に立っている錆螺 唄は何も動じた様な素振りは見せ無かった。
それ以前に、この惨状を前に彼の表情からは余裕すら感じられる。
その余裕が何処から来るのか、月夜は唄の表情を見て困惑したが、その答を彼はすぐに知る事となった。
店内一面に広がる紅蓮の炎の中から、結月、黒雅、紀和、月夜の四人が飛び出して来たのだ。
四人は唖然とする月架、余裕の表情を崩さない唄の傍に着地する。
見れば、紀和は相変わらず、大量の荷物を抱えながら、その脇に雅依 光星を抱えていた。
同じく、黒雅は雅依 輝星を脇に抱え、結月は両手でカノンを抱えており、月夜は琉那を抱っこしている。
全員が無事だった、その事実に月架は安堵から、良かった…、と小さく呟き、息を吐いた。
「し、死ぬかと思った…」
額から冷たい汗を流し、紀和は呟いた。
そう、それ程に先程の状況は危うかったのだ。
錆螺 唄の言葉を読唇し、その意味を知った紀和は仲間達に危機を知らせた。
この時、紀和の言葉に応じ、寝ていた黒雅は目を醒まし、結月は魔術を展開した。
空間を遮断するという、高位の空間系魔術。
中核を成す魔術の軸、本来は魔術的な軸が必要となる、この術式。
結月が発動したとしても、この魔術は軸が無い限りは効果を発揮しない。
だが、それを目を醒ました黒雅がポケットに収納した伸縮自在の槍を取り出し、床に刺して軸を形成。
空間遮断の魔術が発動される様とする中、紀和は魔術の効果範囲の中に仲間の全員がいるか確認。
レジに向かい、魔術の範囲から脱していた光星の元に駆け、彼女を抱えると、魔術の効果範囲に飛び込んだ。
一連の挙動を終えるまでの所要時間は数秒だった。
三人のチームワークによって、月夜、琉那、光星、輝星、カノンの5人は事無きを得る事が出来た。
空間遮断によって炎を凌いだ後、8人は魔術から飛び出し、現在に至る。
何が起きた、と紀和は燃え上がる服屋を一瞥し、心の底からそう思った。
そして、視線を唄に移し、
「おい、情報屋。何があったんだ。お前達は何か知ってるんだろ」
彼の言葉通り、唄と月架は店内の紀和達の危機を知っていたようなのだ。
あの焦燥と驚愕に染められた表情は、外から見て、何かを知ったという事を意味している。
その証拠に唄は、勿論です、と普段と変わり無い余裕の表情で答えた。
「あの店の床の絵。見ましたか、紀和」
「床の絵?」
確かに言われれば、店の床には絵画が描かれていた。
何とも不思議な絵だったので、紀和は良く覚えている。
確か、描いてあった絵は、大量のライターだったはずだ。
そして、描かれた大量のライターは規則的に並んでおり、その周囲を赤色の円が囲んでいた。
「それが何だ?」
「あの絵画が一種の魔法陣の役割を果たし、炎を出現させたんですよ」
「何だと!? あの絵画が魔法陣の役割を!?」
「赤色が示すのは『炎』。そして、ライターは火を点ける物。この絵が示すのは炎を生み出す、『現出』です」
加えて、と唄は更に言葉を続けた。
「魔術的な記号を円で囲む事で魔法陣は形成されます。後は、遠隔操作で魔術を発動したのでしょう」
手の込んだ事を…、と舌打ちする紀和は、脇に抱えていた光星を降ろし、店内に視線を移した。
赤々と燃え続ける炎。
結月達とのチームワークが一度でも乱れていれば、今頃は確実に炎の中で全員、灰になっていた事だろう。
(誰がこんな事を…)
紀和が、そう考えた矢先、それは現れた。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ!! と一切の乱れの無い足音。
見れば、遠目に見える路地の先から白い甲冑を身に纏った者達が歩いて来る。
西洋風の装飾の施された白い甲冑、その手に手には2mに及ぶ鉄槍が握られていた。
その者達の姿を一言で例えるなら、騎士、だろうか。
千堂 紀和は、その騎士達を知っている。
そう、彼らは、
「来たか、─────────────【灰燼の風】!!」
紀和の言葉によって、一同は臨戦態勢に入る。
カノンは場の変化に驚きながら、一同の後に隠れた。
その表情には、迫り来る騎士達に対して、若干の恐怖が見て取れる。
だが、
「案ずるな、小娘。この千堂 紀和。我が姓に恥じぬ様に、この身を盾として貴様を守り抜く」
「そーそー。心配無いからね、カノンちゃん。私が絶対に怖い想いなんてさせないから」
「大丈夫。俺が守るから」
「戦う。だ、だけど、別に、お前を守る為じゃないんだからな!!」
「私が守ってあげるよッ!!」
「守る為の戦い、か。…面白いじゃない」
「たった1人の女の子に対して、随分と派手な歓迎だな。これだから男は…」
各々が思い思いの言葉を述べ、一歩ずつ前に踏み出して行く。
それは、カノンを守る為に。
それは、眼前に現れた敵を倒す為に。
その時、ふと千堂 紀和は先程から気に掛かっていた事を、唄に対して問い掛けた。
「…こんな公の場所で戦って良いのか」
「それは大丈夫ですよ。どうやら、既に騎士方が【人払い】の魔術で、この場を隔離している様なので」
【人払い】の魔術とは、文字通り、人を払う魔術の事だ。
思えば、魔術が発動される寸前に、店に一般人はいなかった。
店長、店員を含めての一般人が。
(ふん。こちらの意識が一般人が消えた事に気が付かない様に細工されていたか…)
どうやら、知らぬ間に敵の術中に入っていたらしい。
だが、それが何だと言うのだ。
罠に嵌った俺達を、敵が討ちに来たと言うならば。
「ふッ…。決まっている。言う必要性も無ければ、思考する必要性すら皆無!!」
そう、罠ごと敵を粉砕すれば良いだけの事。
行くぞ、という紀和の号令と共に、魔術師達は【灰燼の風】の作り上げた戦場に君臨する。
ただ、鮮烈に。
「その目に、鮮烈と共に刻め」
これが、魔術師の戦いだ。
一同の言葉と共に、騎士と魔術師は激突する。