コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Multiplex Cross Point オリキャラ募集中 ( No.403 )
- 日時: 2010/07/20 19:23
- 名前: インク切れボールペン (ID: w79JdDm2)
「前から来たぞッ!!」
路地を曲がった矢先、千堂 紀和の声に反応し、一同は足を止めた。
またか、と月架は苛立った口調で舌打ちし、別の道を探した。
逃げの一手を貫き始めてから約10分。
【灰燼の風】の包囲網は徐々に結月達を追い詰めつつあった。
「…あっちからも来てるよ」
「くそッ!!」
またも別の道へ。
道を変えながら疾走する中、カノンを脇に抱えて走る錆螺 唄の脳裏には嫌な予想が離れずにいる。
(…誘導されてませんかね、これ)
彼は知っている、この【灰燼の風】の騎士達に指示を出している者の名を。
巧みな戦術を駆使する【猛火】の異名を取る老獪なる魔術師、セルゲイ。
その男の心理を紐解いて、思考を読むと、この包囲網、何処に誘導されている気がする。
包囲戦なら、四方八方から騎士達の軍団で囲み、量で圧倒すれば良い。
それを行使して来ない所を考えると、やはり。
「ソウ」
「何だ、情報屋!?」
「最悪です。誘導されてます」
その言葉に、一同は愕然として足を止めた。
後からは相変わらず、騎士の行軍の足音が聞こえて来る。
「誘導…って…。ええ!?」
「反応が遅いぞ、結月」
「…どうすんのさ、唄」
相変わらず緊張感の感じられない、とろん、とした表情の黒雅は唄に打開策を求めた。
誘導されているなら、この状況からの打開策はあるのか。
黒雅の問いに対し、無論です、と唄は余裕の笑みを浮かべる。
「全員、別行動で敵達を攪乱しましょう」
「危険度が増すんじゃないか、情報屋」
「確かに。ですが、包囲網の1つでも崩せれば連携し、街からの脱出が可能です」
「え、えーと。はーい、質問ー」
「何ですか、光星」
「連携って、別行動なのに、どうやって互いの位置を確認するの?」
「良い質問ですね。まぁ、基本的には大暴れして下さい。そうですね…、光星は例の『バッキューン』をやって下さい」
一瞬だけ、光星は表情を固めた後、その表情は満面の喜色に染まった。
その『バッキューン』をやって良いのが、とてつも無く嬉しいのだろう。
「本当!? 『バッキューン』して良いの!?」
「構いません。緊急時ですから」
やったー、と万歳して喜ぶ光星。
その隣で、輝星だけが顔面を蒼白にしていた。
唄は彼を哀れには思ったが、この緊急時、腹に背は返られない。
「…緊急時ですからねぇ」
「ちょ、おぉぉぉい!?」
「どうしました、輝星」
「お前…ッ。光星に『バッキューン』をやらせたら、どうなるか知ってるだろ!?」
「緊急時ですので」
「都合良く、緊急時って言葉を使うんじゃねぇ!!」
「貴方の事は忘れません。大丈夫です、墓石は豪勢な物にしますから」
「何か言葉の雰囲気で俺が死ぬパターン!?」
「おや、パターンじゃなくて確定事項ですが?」
「笑顔で言うんじゃねぇ─────ッ!!」
死の危険を感じる輝星に対し、光星は普段にも増して満面の笑みを浮かべている。
それは、『バッキューン』をするのが楽しみで堪らない、そんな表情だ。
「…頑張ってね。私はアンタの事を忘れない。…多分」
「輝星くん、頑張ってね。結月さんは君の事を忘れないッ!!」
「葬式は豪勢にしてやる。頑張って来い」
「そうだ、葬式の事は月夜に任せとけ。この千堂 紀和、お前の事を胸に刻み、生涯を生きて行く」
「…頑張ってね?」
「おやおや、カノンさんにも応援されてますよ、輝星。誡、君は輝星に何か言ってあげて下さい」
「ポテチ美味い」
「うぉぉぉぉぉぉぉい!? お前だけそれか!? 他の奴は結構な良い事を言ってたのに!!」
「革製品って喰えるらしいよ」
「だからどうしたぁぁぁぁぁぁぁ!? しかも、何でそんな真剣な真顔なんだ!?」
「誡なりの激励ですよ」
「個性的過ぎだろ!?」
はいはい、そろそろ動きますよ、と錆螺 唄は両手を一度だけ叩いた。
一同の言葉が止まり、騎士の行軍の音だけが周囲から聞こえて来る。
「さて、私はカノンさんを連れ陽動を行います」
「相手の目的はカノンだもんな。…失敗するなよ、情報屋。カノンが捕まったら、元も子も無い」
「それに関してはご安心を、ソウ。さて、後は攪乱を行うチーム編成ですが」
唄は言うと、輝星と光星に視線を投げた。
光星は喜色満面で、輝星は人生を諦めた様に頭を垂れている。
「まぁ、二人は確定ですねー。頑張って下さいね、輝星」
「…呪ってやる」
「やったー、『バッキューン』だーッ」
「はいはい、頑張って下さい。次は、【鉄の十字架】の面々ですね」
「うん、任せてよ、唄くん」
「ふッ、攪乱か。滅茶苦茶にしてやろうじゃないか」
「…眠い。まぁ、頑張るけど」
「次は、月夜さんに琉那さん」
「攪乱か。剣士なら正々堂々、正面から勝負したいが…。仕方ないか、妥協するとしよう」
「…面倒ね。だけど状況が打開出来るんでしょ? やってやるわ」
「最後に。ソウ、頼みましたよ」
「俺、単独行動か?」
「君の実力を信頼しているんですよ。頼みますよ」
了解だ、と月架は短剣を手に背を向ける。
全員が互いに、背を向け、一斉に駆け抜ける。
風を裂きながら街路を駆け抜ける魔術師達。
圧倒的な量の包囲網を破る為、作戦が始動する。