コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Multiplex Cross Point オリキャラ募集中 ( No.424 )
- 日時: 2010/07/21 20:22
- 名前: インク切れボールペン (ID: w79JdDm2)
追跡者。
白く塗装された甲冑を身に纏った数十人の騎士達が錆螺 唄を追う。
いや、正確には唄が脇に抱えたカノン、というのが正しい。
とにかく、陽動は巧く行っている。
(追跡者は10、11、12…、24人ですか。…さて、私の術式で足止め出来ますかね)
防護術式を施された甲冑。
倒せるのは倒せる様だが、唄は自分の使役する術式の攻撃力に不安を覚えていた。
【制限無き戒めの鎖】。
【伸縮距離】の制限を魔術よって解除した、錆螺 唄が独自に使役する魔術。
この魔術は、星姫 月夜、月架 蒼天、雅依 輝星の様な攻撃主点の術式では無い。
主な役割は相手を絡め、行動の自由を奪う為の術式だ。
故に、攻撃能力は攻撃に主を置いた魔術よりも遙かに劣る。
(それに甲冑で身体能力を強化している以上、真っ向から打ち破られる可能性もありますね)
うーん、絶体絶命ですかねー。
と、相変わらず余裕を崩さずに、唄は路地を駆けながら呟いた。
後からは変わらず、鉄槍を構え、規則的な動きで騎士が追って来る。
「ま、悩んでも状況が好転する訳では無いので。先じて一手、打たせて貰いましょう」
顕現せよ。
唄の静かな呟きに呼応するかの様に、虚空からそれは出現した。
【制限無き戒めの鎖】、虚空より出現した非常識な鉄の鎖は、異常な長さを誇り、騎士達に襲い掛かる。
計4本の鉄鎖は、巨大な翼龍の尾が振るわれたかの様な勢いを以て、騎士達にぶつかった。
だが、甲冑に施された魔術によって身体能力を強化された騎士達は、それを軽く薙払う。
纏わり付いた埃を払う様な気軽さで。
(ダメですか。困りましたねー、どうしましょうか)
思案する時間は少ない。
騎士達は虚空に飛翔し、鉄槍を振るい、唄とカノンを抹殺せんと襲い掛かって来る。
路地を走る騎士達は地面を踏み締め、大きく錆螺 唄の懐に飛翔して来る。
その速度は唄が走る速度を遙かに圧倒し、騎士達は唄を追い抜かし、前方に立ち塞がった。
退路を断たれた。
(…くそ、性能差があり過ぎる。生身じゃ逃げ切れませんか!!)
立ち止まり、他の退路を模索しようとした瞬間には、騎士は得物の鉄槍を振り上げ終えている。
唄の額から、冷汗が零れ落ちた。
万事休す。
ビュウオォォォッ!! と烈風が空気を斬り裂いた。
それは、刃が振り下ろされる音だった。
錆螺 唄は思っただろう。
自分は死んだ、と。
しかし、数秒経過しても尚、錆螺 唄は痛みも何も感じなかった。
ふと、周囲を見れば、鉄槍を振り上げた騎士達が相変わらず佇んでいる。
但し、
その甲冑は刺突剣によって穿たれている。
音は無かった。
騎士は倒れ、虚空に飛翔した騎士達もまた、ガッシャァァァン、と派手な音を立て、地に落ちた。
そして、呆然とする錆螺 唄の眼前に2人の人物が現れる。
「危なかったですね、唄さん」
「本当だゼ。奴らの目当てはカノンなんだからしっかりして欲しいゼ」
現れたのは、ヴァンと秋兎。
ヴァンは器用に、指の間に西洋の装飾が施された刺突剣を計8本も挟んでいる。
彼の得物である刺突剣、それは主に投擲用に使われる。
先程、唄が攻撃を受けそうになった際、間一髪で騎士達を倒したのも、これだ。
「…、助かりましたよ」
「礼は必要ありません。それで? 何らかの意図があって、唄さんは単独行動を行っているんでしょう?」
「ええ。私が囮になり敵の部隊を一挙に引き付け、別行動の采音さん達が包囲殲滅する作戦です」
「随分と派手な策だゼ。だが、お前の魔術じゃ逃げるにゃ威力不足みたいだゼ?」
そうですね、と率直に肯き、唄は思案する。
この状況、自分はどんな動きをするべきか。
思考し、錆螺 唄は1つの結論に辿り着く。
「カノンを連れ、私は街を出ます」
「良策だゼ。奴らの狙いがカノンなら、カノンの安全を確保する為に本部に届けるのが先だゼ」
「ですが…、問題は陽動の件です」
「それなら問題無いでしょう。カノンを発見した以上、この騎士共は本隊に連絡を送っているはずです」
ならば、とヴァンは言葉を続ける。
「連絡が途絶えた、この地点を捜索する為、部隊が集中するはずです」
「その通りだゼ。後は結月達と合流して包囲殲滅すりゃ良い。んで、後は颯爽と脱出だゼ」
「結構。その策で行きましょう」
作戦を改め、錆螺 唄は動き出す。
と、その直前に秋兎は軽い笑みを浮かべ、カノンの頭を優しく撫でた。
「んじゃ、本部で待ってるんだゼ?」
「…ん。待ってる」
良い子だ、と秋兎はカノンの頭から手を離し、背を向ける。
カノンは、次はヴァンに視線を向け、
「待ってる」
「分かってますよ。すぐに帰りますから」
微笑みで応え、ヴァンもまた背を向けた。
見据えるは、戦場の一本道。
では、行きます、と唄は反対の路地を疾走し、去って行った。
カノンを安全地帯である本部に送り届ける為に、仲間に背を向ける。
遠くなる背中を感じながら、ヴァンはふと呟いた。
「…メルを連れて来た方が良かったんでは?」
「まぁな。まー、こっちのが片付いたらクロトに合流するって言って何処かに行っちまったゼ」
「ですね。…って、そういえば」
「…ああ、俺も気になってたゼ」
そう、2人には1つだけ気掛かりな事が。
その時、2人の脳裏に浮かんだ疑問は一緒だった。
クロトって、何処にいるんだ?