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Re: Multiplex Cross Point オリキャラ募集中 ( No.436 )
日時: 2010/07/23 08:43
名前: インク切れボールペン (ID: mCvgc20i)

Multiplex Cross Point─多重交差点─ 第10話

一触即発。
兎葉市の商店街の一本道から醸し出される雰囲気には、最もその言葉が合うだろう。
相対するは、2人の柚葉。
柚葉 椛の、藍色の髪が風を受けて揺れる。
その表情は険しく、視線は眼前の青年を捉えたまま動かない。
彼女の後では威牙 無限、黒島 聖、冥弛 裄乃が佇み、事の成り行きを見守っている。
クロトは赤毛の髪を指で弄りながら、陽気な微笑を浮かべ、口を開いた。

「さー、椛ちゃん。【灰燼の風】の連中が来た訳だけど〜、どう動くよ?」

解っているはずだ、と椛は変わらず険しい表情でクロトの言葉に応えた。
そう、解っている。
柚葉 クロトには、柚葉 椛が今からどんな行動を起こそうとしているのか。

「解ってるさ。…確認な、椛ちゃん。────────────決意は変わんない?」

変わらん、と椛はクロトの言葉を一蹴する。
決意は変わらない。
不本意ながら、椛は自分が選んだ選択を変えようと思わなかった。
それが、譜条の街を、組織の仲間を、そして、クロトを守る事に繋がるのだから。

「…なるほどね。じゃ、最後の確認。──────君は今から何処に行き、何をする?」

「決まっている。────────────────カノンを殺す」

告げられた言葉は、酷く冷徹だった。
迷い無く、その言葉を告げられたのは椛の決意の強さを表している。

「…次は私から質問だ。私がカノンに殺意を持っていた事に、何で気が付いた?」

「ん〜、何となく。…お義兄さまの直感?」

「殴るぞ」

「あ、はいはい。ちゃんと言うってば。唄くんから聞いたんだよ」

「【情報屋】め…、いらん真似を」

「納得した?」

「まぁな。…後はクロト、お前が私達に道を空けろ」

彼女は一本道の真ん中に佇むクロトに、静かに告げた。
だが、彼は動かない。
ただ、その口だけが動く。

「椛ちゃんさー、何でカノンを殺そうと思ってんの?」

「奴が…。ゼロの術式を行使する者だからだ」

万物の数値を零に変換し消滅させる、ゼロの術式。
その危険性を、椛は【Child Soldier】事件で知っている。

「あの術式は、1つ間違えれば街1つを消滅させる程の威力を持っている。だから抹消する!!」

それが、柚葉 椛の殺意の理由。
カノンが何者だとか、過去に何が遭ったか、そんな事は全部、どうだって構わない。
街を、仲間を、組織を、クロトを守り抜く為に、彼女は殺人を肯定する。
その聡明な理性が何を言おうとも、誰から蔑まれても構わないのだ。
カノンの殺害という選択が、柚葉 椛、【荒廃せし失楽園】副隊長が取る最善の選択なのだから。
クロトも、それは解っているだろう。
理解した上で、クロトは彼女を正面に捉え、言った。



「バカだね、椛ちゃん」



その口から紡がれたのは、単調な侮蔑の言葉。
彼女の決意を、想いを、全てを汲んだ上で、クロトが選んだのは侮蔑の言葉と嘲笑だった。
彼の反応に、椛は自分の全部を否定された様な不快感を感じ、声を荒げた。

「何が可笑しい!?」

「全部さ、椛ちゃん。全部だよ」

止まらない嘲笑に、椛は悔しさからか目尻に若干の涙を浮かべた。
今にも泣き出しそうな表情で、何とか気だけは強く持ち、彼女はクロトに吼えた。

「全部…だと? 私の想いが、決意が、その全てが、可笑しいと言うのか、クロト!!」

「ああ、そうさ。本当に可笑しいさ。─────────真実という名の嘘に踊らされてんだからさ」

「…真実という名の嘘、…だと?」

愕然とし、椛はクロトの言葉を反芻した。
意味深な、その言葉を。
どういう意味だ、と問い掛けようとした瞬間、その意味は一早く、クロトから語られた。

「そう、真実は隠蔽された。椛ちゃんが手にしたのは、嘘が隠蔽され真実に見える偽作に過ぎない」

さぁ、椛ちゃん。
君は、真実を知りたくはないか?

「真、実…!?」

「さて、まんまと踊らされた椛ちゃんに、ネタバレタ〜イム」

教示しよう。
君が知らない、カノンの真実を。