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Re: Multiplex Cross Point オリキャラ募集中 ( No.448 )
日時: 2010/07/23 21:29
名前: Faker (ID: mCvgc20i)

最悪だ、と月架 蒼天は業務用スーパーの駐車場スペースで苦笑と共に呟いた。
陽光は燦々と、月架と彼の眼前に佇み、その進路を阻む少女を照らし出している。
その表情は笑顔だった。
それこそ、歪んだ物が何も無い、純真無垢と言っても過言では無い、そんな笑顔。
髪色は薄金色で、長さは肩に掛かる程度。
年齢は容姿から見るに10代前半。
洋服とロングスカートを身に纏い、手には可愛らしい容姿に似合わない西洋剣が握られている。
敵か、と月架 蒼天は問い掛けた。
そんな事、聞く間でも無い事だ。
周囲は【人払い】という魔術で一般人は誰もいない状況、その状況で凶器を手に月架の道を阻むという事は。
彼女は、

「うん。私は貴方の敵だよ」

相変わらずの笑顔で、少女は答えた。
最悪だな、本当に。
月架は溜息と共に呟き、唇で静かに言葉を紡いだ。

「顕現せよ」

美しい碧色の線が、月架の右手、左手の指先から放たれ、分化し、交差し、立体的な形を形成する。
現出するは、一対の短剣だ。
碧色の線は立体的に一対の短剣を形成し、線は淡く発光し、そして消えた。
残ったのは、月架 蒼天の得物である一対の短剣。
これは、魔力で形成した線によって物質の形を立体的に描き、世界に現出させる魔術。
戦闘を主とする魔術師が使う事の多い、【武装現出】の魔術だ。

「子供を傷付ける趣味は…、無いんだがな」

短剣を構え、月架はうんざりした様に呟いた。
そう、子供を傷付ける事は極力控えたい。
それは、月架 蒼天が過去に誓った誓約の違反に抵触する可能性があるからだ。

(だが、俺の誓約は絶対だ。違う事は無い、絶対に)

ならば、導き出される答は1つ。
迫撃し、一撃を見舞い、一瞬にして少女の意識を奪う。
命を奪う事で動きを止めるのでは無く、意識を奪う事で動きを止める。
即ち、不殺の覚悟。

「一瞬で終わらせるが、構わないか?」

「出来るなら、ね」

少女の笑みは消えない。
余裕を示した笑みを浮かべる少女は、ただ眼前に凛として君臨する。

「私は、ミリー・シャルロット。【灰燼の風】の魔術師」

「月架 蒼天。【荒廃せし失楽園】の魔術師だ。───────行くぞ」

飛翔。
コンクリートの地面を勢い良く蹴り、その勢いを利用し、ミリーの懐に飛び込む。
一撃で終わらせる。
勢い良く、彼は短剣の逆刃でミリーが剣で防御する寸前を狙い、横薙に短剣を振るう。
空気を両断し、逆刃はミリーの腹を抉る様に突き刺さる、はずだった。

「残念」

縦一線。
ミリーの西洋剣が振るわれ、短剣は弾かれる。

「さぁ、次は私の番だね!!」

上に弾かれた腕は衝撃でビリビリと痺れる。
ミリーは笑顔のまま、西洋剣を真っ直ぐに構え、壮絶な勢いで突き出してきた。
刺突。
月架は辛くも横に飛ぶ事で、ミリーの刺突を回避する。

(そう簡単には…、倒せないか!!)

柔道の受身の要領で体勢を整え、月架は一対の短剣を構え直した。
刃は相変わらず、逆刃のまま。
ミリーはそれを見て、ただ笑う。

「あはは。ダメだよ、そんなんじゃ。本当に殺すつもりで来ないと私は倒せないよ〜?」

「だから何だ。俺のする事は変わらない」

じゃあ、貴方は死んじゃうね。
ミリーは笑い、西洋剣を振るう。
短剣の片方で受け止め、もう片方の短剣の逆刃を彼女の身に突き出す。
だが、彼女は後に飛び、悠々と回避してみせる。
その瞬間。



月架 蒼天の脳裏を、過去の惨劇の光景が過ぎった。



(…ッ!?)

赤の海。
白色の闇に絶叫と共に消える仲間。
斬り捨てた数多の敵。
知ってしまった真実。
どれだけの未来を自分は奪ったのか。
考えるだけで息が詰まりそうになる。
呼吸が荒くなり、頭が真っ白になる。

(考えるな、月架 蒼天!!)

眼前の敵に集中しろ。
そんな風に言い聞かせ、襲い来る、ミリーの凶刃を受け止める。
其処で、ミリーの姿が、過去の惨劇で切り捨てた子供の1人の姿と、重なった。
冷汗が、額から零れ落ちた。

(くそ…)

金属音を響かせ、ミリーの剣を振り払う。
距離を取り、ミリーは西洋剣を構え直す。
相変わらずの笑み。
やはり、重なる。
忘れられない、あの事件。
あの事件で戦った敵の中で、狂った様に笑い続けていた、1人の少女の姿が、ミリーと重なる。

(くそ…。思い出すな、考えるな、思考を止めろ!!)

手が、震える。
力の加減を間違えれば、この少女を殺めてしまう。
なのに、過去の恐怖が、月架の力の抑制を外そうとする。

「あははははは!!」

狂笑。
業務用スーパーの駐車スペースに、それは響き渡った。
その狂笑が、記憶を抑制しようとする月架を妨害する。
鮮明に甦る記憶が、月架の心に突き刺さる。

「その笑みをやめろ、ミリー・シャルロットォォォォォォ!!」

「良いよ、その反応。もっと苦しんで、もっと痛がって。さぁ、もっと!! うふふ…。あははははは!!」

対峙する少女。
だが、敵は彼女だけではない。
月架 蒼天の前に、ミリー・シャルロットと同じく立ち塞がる、もう1つの敵。

過去という名の怪物が、月架 蒼天に牙を剥く。