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- Re: Multiplex Cross Point ( No.466 )
- 日時: 2010/07/27 20:13
- 名前: インク切れボールペン (ID: mCvgc20i)
Multiplex Cross Point─多重交差点─ 第11話
随分と暴れてくれたものだ。
倒れ伏す騎士達の間隙を縫い現れた、初老の男性は小さく呟いた。
彼の眼は、ただ眼前の魔術師達を見据え、その足は革靴の底を、カツと鳴らし歩いて来る。
「…随分とビッグなゲストの登場ですね」
両手の指の隙間に挟んだ、計8本の西洋剣。
形成された一種の爪を構え、ヴァンは現れた人物に対して率直な感想を述べた。
そして、冷汗が額から零れ落ちる。
「ふむ。我々の固有戦力である【騎士団】の半数を殲滅したかね。うむ、実に見事だ、諸君」
はっはっはっは、と大笑する初老の男性。
彼の正体を知らぬ者達は首を傾げ、彼の正体を知るヴァンと秋兎は身体に緊張を走らせた。
「…貴様は誰だ、老人。答えろ、貴様は敵か!?」
「率直な質問だな、千堂の子息よ。だが、その度胸は見事。だからこそ、答えよう、君の質疑に」
私は君達の敵だ。
質問に対し、返って来たのは宣戦布告に等しい言葉。
「【猛火】のセルゲイ・ディスコラヴィッチ。この名に聞き覚えはあるかね、諸君」
この言葉が放たれた直後、ヴァンと秋兎以外の魔術師達は肝を冷やした。
【猛火】、その異名を知らぬ魔術師など世界中を見ても、極一部だろう。
それほどに、【猛火】の異名は魔術師達の間に鮮烈に知られている。
「あー…。最悪っ…!!」
如月 琉那は苦笑と共に迫り来る、初老の男性を視線に捉えた。
はっはっはっは、と紳士的な笑みとは裏腹に放たれる殺気は重圧と化し、魔術師達の身体を締め付ける。
「ど、どうしよう…。あの【猛火】が相手なんて…ッ」
結月の狼狽は凄まじい。
だが、それは当然だと言える。
この状況、蟻と巨大な戦車が真っ向から闘うようなものだ。
それほどにまで、この眼前の初老の男は強い。
「くそ…。何で、何で、この状況で…」
雅依 輝星は歯噛みした。
今、彼は雅依 光星が発動した『バッキューン』こと、【殲滅の裁雷】の【余波】を受けた為、動けない。
自分が守らなければならない、雅依 光星という少女は彼の前に立っている。
まるで、彼を守ろうとするかのように。
「大丈夫。輝星は私が守ってあげる。絶対、怪我なんてさせないよ」
少女の背中は静かに語った。
自分の無力さに歯噛みしながらも、輝星は路地の壁に凭れた。
足手纏いなら、休んでいた方が良い。
「…、倒します」
そんな中、ヴァンはそう言った。
形成した剣の爪を、セルゲイに向けて。
「貴方を倒し、此処を突破する!!」
自分に言い聞かせる様な、言葉。
その言葉に少しの勇気を得た魔術師達は肯き、一気に攻撃を開始する。
斬撃、魔術、拳打、銃撃。
迫り来る攻撃に、セルゲイはただ、埃を払う様に手を振るう。
そんな軽々とした挙動で、全ての攻撃は弾き飛ばされる。
魔術師達の表情が一気に絶望に染まる。
だが、攻撃の手は緩めない。
それは、生への渇望の現れか、それとも、最後の囁かな抵抗か。
セルゲイ・ディスコラヴィッチは、笑う。
「うむ、素晴らしい。実に良い攻撃だ。諸君、私に更なる力を示したまえ」
でなければ、待ち受けるは敗死のみ。
行くぞ、魔術師諸君。
絶望の宴の始まりだ。