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Re: Multiplex Cross Point  ( No.467 )
日時: 2010/07/27 20:33
名前: インク切れボールペン (ID: mCvgc20i)

ダージス・シュヘンベルク。
【灰燼の風】の現総帥を勤める魔術師の男性。
一見、優しそうに見える表情とは裏腹に内面に凄まじい冷酷さを孕んだ人物。
だが、その冷酷さと共に彼は天才的な頭脳の所持者だ。
諸学に通じ、その学を以てして【Child Soldier】事件を引き起こした最悪の人間。

「いらっしゃい、錆螺 唄。そして礼を言おうか。カノンを此処まで連れて来てくれた礼を」

ダージスは静かに微笑んだ。
優しげな笑顔に見えるが、その裏には真っ黒な感情が犇めいている。
何を考え、どんな行動に出るのか。
普段なら相手の心理を読んで行動する唄も、彼が相手では読心は不可能だった。

「ダージス…。私が、このルートで脱出を謀っている事を知っていたんですか…?」

「勿論。僕は天才だ、君の様な凡人の思考など簡単に読める」

加えて、本当は君は心の何処かで僕と会う、この状況を望んでいた事を知っている。
ダージスの言葉に、唄は苦笑した。
そう、ダージスの言葉の通り、唄は望んでいたのだ。
この状況を、心の何処かで。

「逃れられない状況なんだ。後悔が残らない様に、聞きたい事があるなら聞くと良い」

「…確かに、そうですね」

脇に抱えたカノンを降ろし、唄は苦笑混じりに呟いた。
ダージスの魔術師としての実力は、多くの魔術師の間でも知られている。
少なくとも、錆螺 唄よりも魔術師としての技術と経験は上だ。
加えて、彼は余裕の態度を取っているものの、油断も隙も無い。
ならば、せめて、


少しでも情報を引き出させて貰う。


「では、問わせて貰いましょう」

「ああ、結構だ。好きな質問をしたまえよ、冥途の土産さ」

「では、率直に。────────────カノンの正体を教えて頂きましょう」

どうしても、その謎だけが解けなかった。
今までの情報を統合しても尚、解けなかった謎。
それが、カノンの正体だ。
経験の記憶のみを得て、記憶が存在しなかった彼女。
そして、それを知りたいのは唄だけでは無い。
ダージスを前にしたカノンも、自分が何者なのか、知りたいと思っていた。
ダージスの口が動く。
その口が紡ぐのは、カノンの正体を問い掛けた、唄への答え。


「ああ、カノンの事か。そいつはね─────────────【創製種】だよ」


その直後だった。
普段から、冷静沈着な錆螺 唄は表情を驚愕と憤怒に染め上げた。

「貴、様…。【創製種】だとッ!?」

冷静沈着な敬語を用いた普段の口調。
それを完全に捨て去り、錆螺 唄は吼える。
彼が憤怒を露わにしたのは、【創製種】という言葉が要因だ。

「良いねぇ、その表情、その口調。不思議だね、冷静沈着な君が怒ってるのかい?」

「【創製種】…。貴方は本当に人間か!? 神の真似事をするなど…、この下衆が!!」

激昂する唄に対し、ダージスの笑顔は一層深さを増す。
カノンは普段とは明らかに態度の違っている錆螺 唄に戸惑っていた。
彼女は知らないのだ、【創製種】、その言葉が示す意味を。

「おや。自分の事なのに解ってない様だねぇ、カノン」

「…。【創製種】って何の事?」

何も解っていないカノンの疑問の言葉に、ダージスは引き裂いた様な笑みを浮かべる。
狂気を孕んだ、ダージスの笑みにカノンは恐怖し、後退りした。
路地裏に、絶叫の如き、ダージスの爆笑が木霊する。

「くはははは!! 何も知らないんだねぇ、カノン。無垢だよ、君は本当に無垢だ!!」

「喋るな、ダージス!!」

「壊したくなるよ、君の無垢さを見ていると。だから教示しよう、カノン。【創製種】とはねぇ!!」

耳を貸すな、カノン!!
だが、唄の言葉はカノンには届かなかった。
自分の正体である【創製種】。
それだけで、カノンの頭はいっぱいだったからだ。
ただ、ダージスが教示した【創製種】の意味は、残酷なものだった。

「カノン、君はねぇ!! ───────この僕が直々に創造した、人間を模した化物さ!!」

君は、怪物なんだよォ!!
路地裏に響き渡った真実は、カノンの心を静かに、そして明確に打ち壊して行く。