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Re: Multiplex Cross Point  ( No.471 )
日時: 2010/07/29 18:20
名前: インク切れボールペン (ID: mCvgc20i)

何もかも、全てが僕の計略だったんだ。
ダージスの口から語られたのは、あまりにも残酷な真実だった。
【創製種】、魔術によって生み出された人間に類似した、人間より遙かに優れた力を持つ生物。
容姿は人間だが、その能力は人間という概念を完全に超越している。
かつて、魔法世界と呼ばれる異界、シュヴァリエで勃発した【創製種】の大量虐殺。
人間達が身勝手に生み出し、身勝手に殺戮された【創製種】は、既に世界には亡い。
残された技術は、失われたはずだった。
誰もが怖れ、その恐怖故に葬られたはずの技術。

「人間が人間に類似した者を生み出す…。ダージス、貴様は神に対する冒涜を犯したというのか!!」

「神に対する冒涜? 人間の生み出した愚かな偶像に敬意を払うとは…。律儀だねぇ、錆螺 唄」

「貴様…ッ」

「まぁ、落ち着けよ。カノンが怖がってるだろう?」

見れば、唄の傍に佇むカノンは困惑した表情のまま固まっていた。
事態を完全に理解し切れていないのだろう。
その中、彼女にとって最も重要な事は。

「私…、人間じゃないの…?」

「ああ、そうさ。君の経験の記憶も、常識も、言語も、容姿も、僕が与えたんだ。無知で無垢な化物の君に」

ふと、錆螺 唄はダージスの言葉に妙な引っ掛かりを覚えた。
彼女に全てを与え、造った。
ならば、何故。


カノンは最初に【灰燼の風】の者達に追われていた?


「何で、君がカノンと出会った時、彼女が我々の組織の魔術師に追われていたか」

「ッ!?」

「解らなそうな顔をしてるねぇ。解らないかい、彼女が追われてた理由」

「彼女が組織から逃げ出したから、ですか…?」

違うね、カノンの場合はそんなスタンダードな理由じゃないよ。
ダージスは引き裂く様な笑顔で、そう言った。

「彼女の記憶は、魔術師に追われる時から始まっている。こう言えば、意味が解るだろう?」

生命活動の始まりと共に、人間の記憶の記録は始まる。
なら、彼女は。

「魔術師に追われる前までは、生命活動が行われていなかった…?」

「正解〜。彼女はね、体を造った後は意図的に僕が生命活動を停止させてたのさ」

「…その後に、生活活動に必要な経験の記憶を与えたんですか」

「ああ。その後は仮死状態にまま、譜条の街に置いて来た。」

「…置いて来た? …何の為にです?」

「決まってるだろ。──────────────────君と出会わせる為さ」

後は、遠隔で生命活動を開始させたのさ。
直後、錆螺 唄はダージスの言葉に、言葉を失った。
あの邂逅も、仕組まれていたというのか。
眼前の、ダージス・シュヘンベルクによって。

「なら、あの追っ手の魔術師達は…!!」

「ああ、時限式の致死毒の術式で死んだ奴ら? 決まってるじゃないか、アイツらはね」

僕の計画を遂行する為の駒。
恐らく、あの魔術師は何も知らず、ダージスにカノンの捕縛を命じられたのだろう。
駒として捨てられる事も知らずに。

「君の御陰で、カノンは【荒廃せし失楽園】に合流する事が出来た。本当に、助かったよ」

「元々、カノンを組織に合流させる事が目的だったんですか」

「そう。それに、本部を君の偽者で強襲し、ある能力を発現させる事が目的だったのさ」

ある能力。
それは、白色の闇の事だろう。
ゼロの術式、【Child Soldier】事件で猛威を振るった殺人術式。

「貴方の目的は、カノンに【ゼロの術式】を発現する事だったのですね」

その言葉にダージスは、にやにやと笑った。
眼前の唄を馬鹿にする様な、そんな笑み。

「恐らく、貴方は将来的に【ゼロの術式】を使役する者を量産しようと考えたのでしょう」

「…ふふ」

「カノンは実験体ですね。貴方は【ゼロの術式】を持つ存在を、もう一度、手中に収めようと画策している」

この推理に、唄は自信があった。
殺人術式を畏怖された【ゼロの術式】が復活したなら、【灰燼の風】の戦力は格段に上昇する。
率直な話、その力を以てすれば【灰燼の風】が魔術組織の頂点に君臨する事も可能だろう。
それほどに、【ゼロの術式】の価値は稀少で重要なものだ。

「そうでしょう、ダージス」

確信を持って言葉を投げ掛けた、錆螺 唄。
その言葉に対し、ダージスが返した言葉は、

「残念。不正解だよ」