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Re: Multiplex Cross Point  ( No.474 )
日時: 2010/07/29 19:56
名前: インク切れボールペン (ID: mCvgc20i)

閃々。
得物と得物の衝突は火花を散らし、天地を揺るがす轟音を鳴り響かせる。
星姫 月夜の鉄拵えの鞘に納刀した長刀、荒川 冬丞の小刀。
2人の間に言葉は無い。
ただ、振るわれる得物が言外に己の正義を語る。
身体を朱に染め上げ、互いに相手の隙を見つけては得物を叩き込んでいく。
一撃で葬る。
その言葉が相応しいであろう星姫 月夜の一撃は、刹那という時間に隙を見せた冬丞の腹を抉る。
ズンッ、と周囲に衝撃と共に凄まじい音が響き渡った。

「…はッ。惰弱ッ!!」

一撃を受け、口の端から赤の液体を零す冬丞は、そう吼えた。
弱い攻撃だ、と。

(肋骨の2〜3本を折っても、これか)

闘争の炎は絶えない。
烈火の如く、激しさを増す闘争の炎は2人の剣士の視線が交わった瞬間、大きく爆ぜる。

「闘争の再開だ、星姫 月夜!!」

「来い。一撃で幕を降ろしてやる」

交差。
鉄撃の一旋、小刀の一閃。
冬丞の一撃は月夜の額を裂き、月夜の一撃が冬丞の顔面を殴り飛ばす。
それでも、2人は後に退がる事は無い。
ただ、前に。

「くっ。…は、ははははは!! 良いぞ、星姫 月夜おおおォォ!!」

「まだ、この程度で…。私を倒せると思ったか、冬丞ォォ!!」

風が、爆ぜた。
放たれた斬撃と鉄撃は一瞬という時間の間に幾多と交差する。
そして、


幾多の鉄撃は冬丞の身を打ち砕き、幾多の斬撃は月夜の身を引き裂いた。


一瞬の間。
音が消え、冬丞と月夜は同じくして、ごぼり、と血の塊を吐き出した。
吐血した赤色の塊を一瞥し、月夜と冬丞は息を荒くしながら互いを見据えた。
どちらも、満身創痍だ。
冬丞は身体の全身に月夜の鞘の鉄撃を受け、鉄撃を受けた部分は紫色に変色している。
月夜も同じく体中に冬丞に受けた斬撃の痛々しい切傷が残っており、額からは血が流れ出していた。
しかし、互いにその瞳に宿った闘志だけは尽きていない。
次の一手。
それで決着は着く。
勝者は生を、敗者は死を。
満身創痍の身を無理に動かし、2人は得物を構える。
勝者は、月夜か、冬丞か。
相討つ、その可能性の否定は出来ない。
刹那の静寂の後。



2人は、動いた。



「…惜しい」

静寂の中、そう呟いたのは冬丞だった。
闘争心剥き出しだった笑顔を引っ込め、真摯な表情で彼は星姫を見て、そう呟いた。

「惜しい。惜しいぞ、星姫 月夜。こんな愉しい死闘は久しいのに、もう決着とは」

「…詭弁は必要無い。掛かって来い」

「…。なぁ、星姫 月夜。この死闘の勝敗、次に預ける気は無いか?」

「ふざけるな。貴様は私が───────────…!!」

「無理だな。──────────────鞘から剣を抜けぬ、貴様では」

冬丞の言葉に、月夜は凍り付いた。
互いに剣を交わせていた彼女にとって、最も痛い所を突かれたからだろう。
真剣の相手に対し、真剣で挑まない事は礼儀を損ずる。
彼女は敢えて、礼儀を損じていると知りながら、刀を抜かなかった。

「…それは」

「礼儀を知らぬ貴様では無いだろう。…その刀、魔術によって強力な能力を有していると見るが?」

「この刀は。この刀の性能は相手との闘いを一瞬で終わらせてしまう。だから…」

「笑止!! そんな理由で礼を損じたか。星姫の名が泣くぞ、星姫 月夜」

「…」

「全力を尽くさぬ貴様には興味が無い。故、俺は退くのだ。次の死闘までに刀を抜く覚悟を決めておけ」

そう言って、彼は月夜に背を向けた。
去って行く、彼の姿を彼女を追う事は出来ない。

(刀を抜く…覚悟。私は─────────────)

思考は停止する。
出血の所為か、身体に巧く力が入らない。
膝から崩れ、前に倒れる。
浅い呼吸の中、倒れた衝撃が身体を襲い、意識を薄れさせた。
ただ、彼女は刀だけは離さなかった。
鞘に納刀されたままの、その刀を。
消えて行く意識の中で、月夜は冬丞の声を聞いた。

「我は剣に狂った獣、荒川 冬丞。また会おう、星姫 月夜。──────────好敵手よ」

直後、月夜の意識は深淵に落ちた。