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Re: Multiplex Cross Point  ( No.490 )
日時: 2010/07/30 22:32
名前: インク切れボールペン (ID: mCvgc20i)

目的。
ダージス・シュヘンベルクが語った目的を聞き、錆螺 唄は唖然としていた。
【神へのアクセス権】、それを持つ個体、カノン。
彼女を利用し、ダージスは自らが神となろうとしているのである。

「彼女の【神へのアクセス権】の能力は不安定だった。だが、君らの御陰で問題も解決した」

「不安定…? 解決…?」

「ああ。君の偽者がカノンを殺そうとしただろう。あの動きはイレギュラーだったが、今となっては良かったよ」

「どういう意味です、それは…?」

「どうやら、カノンの能力が巧く作用するのは感情が極端な起伏を見せた時らしいんだよ」

極端な感情の起伏。
人伝に聞いた話だが、思い当たる節はある。
それは、偽者にカノンが銃殺されんとした時、クロトが彼女を庇い、怪我をした時の事。

(あの時…、【神へのアクセス権】が発動した…?)

あの時、カノンは極端な感情の起伏を見せ、白色の闇を展開した。
それは、目の前で自分に優しく、好意的に接してくれた人が傷付いたからだろう。

あの白色の闇が、あれこそが、【神へのアクセス権】を行使した事を示していたと言うのか。

「白色の闇はね、ゼロの術式とは関係ないよ。あれは【神へのアクセス権】行使に発生する余波に過ぎない」

「では…神の力、【絶対】の力は既に…ッ」

「ああ、既にカノンが体内に内封しているよ。残念だったねぇ、後は最後の詰めを行うだけさ」

「最後の、詰め…?」

ああ、とダージスを両手を広げ、引き裂くような笑みを浮かべた。
その表情から感じられるのは、狂気。
愛しい人を胸の内に招き入れるように両手を広げ、高らかに叫んだ。



「カノンに君を殺させ、完全なる道具にする為に彼女の心を徹底的に破壊する」



その言葉に、カノンは肩を大きく振るわせた。
カノンの表情に、明らかな恐怖が宿る。
そんな彼女を見据え、ダージスは狂気の笑顔のまま命じた。

「さぁ、カノン。今こそ、錆螺 唄を滅殺し、その心を潰すが良い!!」

「何を馬鹿な事を…。カノンがそんな事をするはずが無いでしょう!!」

そう、そんな事が出来るはずが無い。
彼女は武器も持っていないし、第一、カノンは人を傷つけるような冷酷な性格はしていない。
だから、そんな事が起こるはずは無い。

「逃げなさい、カノン。彼は私が相手をします。その隙に君は───────────」

だが、言葉は最後まで続かない。
口が、言葉を紡げない。
ごぼり、と何かが口から零れ落ちた。
ふと、胸に違和感を感じた。
見れば、胸から何かが生えている。
それは、



白色の刃が、背中から突き立てられ、胸まで貫いていた。



服に、朱が滲んだ。
後には、1人の少女が立っている。
綺麗な金色の短髪を持つ、表情に乏しい少女。
彼女の右腕には、白色の闇を纏っており、白色の闇が剣の形を成している。
今、少女の表情は唖然としていた。
自分が、何をしているのか分かっていないかのように。

「カ、ノン…、どうし、て…?」

ズブリ、と白色の闇で形成された刃が引き抜かれ、唄は地に倒れた。
傷は深い、出血も多い。
ダメだ、動けない。

「何を馬鹿な事を、か。馬鹿は君だ。彼女の創造主たる僕が、彼女を好き勝手に動かせないとでも?」

「う…ぁ。何、で。私、何で…」

ふらふら、とカノンはダージスの傍に歩み寄った。
身体が、何かの力に操られている。
そして、ボロボロと、カノンの中で何かが崩れ去っていく。
私が、刺した。
唄を、私が。

「錆螺 唄。君が死ねば、カノンの心は死ぬ。彼女は僕の道具になる。はは。あはははははは!!」



だが。



「何、を。ふざけた事を言って、るんですか」

倒れ伏している唄の方から、声が聞こえた。
その声は、瀕死の傷を負った、錆螺 唄のものだ。
彼は今にも絶えそうな呼吸を繰り返しながら、顔を動かしてダージスとカノンを見据えた。

「カノン。大丈夫、です。私は、死に…ませんよ」

「はッ。随分と面白い事を言うじゃないか。なら、其処で倒れて、惨めに路地裏で死んでいろ」

行くぞ、カノン。
呼ばれたカノンは、何かの力に引かれるように、路地裏から去って行くダージスに付いて行った。
一度だけ。
カノンは、唄の方を振り向いた。
最早、息が絶えそうになっている唄の方を。
その瞳は、虚ろになり、機械を連想させる。
ただ、


その瞳からは、静かに涙が零れ落ちていた。