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Re: Multiplex Cross Point  ( No.491 )
日時: 2010/07/31 14:20
名前: インク切れボールペン (ID: mCvgc20i)

神と同位の力を得る。
それが、ダージスの目的だった。
愕然とする椛だったが、彼女はすぐに明瞭な判断を下し、後で待機する3人に指示を投げ掛けた。

「威牙、聖、裄乃。探査魔術でカノンを探せ。ダージスの手にカノンが渡れば、奴の野望が現実になる!!」

了解、という言葉が聞こえた矢先、その命令そのもの打ち消す様に、クロトは1つの事実を告げた。
無駄だよ、という前口上を述べた上で。

「ダージスは既にカノンを確保した後だよ」

「何…だと。何で、そんな事が解るんだ?」

「俺にも独自の情報源があるんだよ。椛ちゃんが俺に内緒で組織に編入した、マミヤ・メグカみたいな奴が、ね」

その言葉に、椛は肝を抜かれた。
マミヤ・メグカは椛の判断で他の構成員に黙って、組織に編入した魔術師だ。
彼女の存在を知っている者は椛を含め、錆螺 唄と【荒廃せし失楽園】の総帥である男だけのはず。
そもそも、マミヤに関しての情報は誰にも漏らしていないはずなのに。

(…錆螺 唄も自身の情報能力でマミヤの存在を掴んだ。その情報源とやらも同じ、か)

だとすると、その情報源とやらの情報能力は侮れない。
加えて、マミヤの存在を掴むほどの情報能力だ、カノンは彼の言葉通り、ダージスの手の内だろう。
ならば、

「聖。カノンの居場所は解るか?」

「はいはい、っと。探査術式で検索中ッスよ。…お、出ました。此処から2km先の裏路地ッス」

結構、と椛は不敵な笑みを浮かべると、3人に目配せをした。
その直後、椛の真意を解した3人はすぐに動きを始めた。
ただ、

「ちょっと待った」

クロトの言葉が3人の行動を停止させる。
何をしようとしているのか訝しんだクロトは椛に対し、率直に諮問した。
何をするつもりだ、と。
答は、単純明快なものだった。


「カノンを殺す。場所は解ってる。威牙、聖、裄乃の3人ならカノン程度、一瞬で抹殺できるだろう」


それは恐らく、ダージスの野望を妨害する最も有効な手段だろう。
椛の選択は、間違っていない。
ダージスが神と同等の力を得れば、どんな魔術組織の力を以てしても勝つことは出来なくなる。
単独で世界を席巻する事すら可能となるだろう。
それだけは防がねばならない。
例え、何の咎も無い、1人の少女を犠牲にしてでも。
邪魔をするなよ、クロト。
彼女は、静かにそう言った。
だが、

「断る」

「な…ん、だと!?」

「馬鹿かよ、椛ちゃん。俺がそんな非人道な行為を許すとでも?」

「貴様…。ダージスの野望が成就すれば、一体どうなるか解らんのか!?」

「解ってるさ。だけどな、義妹が非人道な行為を行うのを黙って見過ごすと思うのか。この俺が」

「…何なんだ。お前は何が言いたい。何がしたいんだ、クロト!!」

「やめろ、と言いたい!! 義妹に非人道な行為をさせたくないッ!!」

ただ、真っ直ぐに。
真っ正面から告げられた、その言葉。
そこには、義妹である椛を想う、クロトの真摯な気持ちが感じられた。
だけども、

「うるさい…。私は【荒廃せし失楽園】の副隊長。私情に囚われはせん!!」

邪魔をするなら、お前を倒してでも私は進む!!
非人道と罵られても、無情と恨まれても!!
仲間を、友を、組織を、譜条の街を、

「お前を守る為ならば!! 守るべきお前すら倒してでも、前に進む!!」

直後、3人は動く。
威牙 無限。
黒島 聖。
冥弛 裄乃。
組織でも実力の高さで知られる3人が、柚葉 クロトに迫る。

「椛の邪魔をするなら、容赦はしない。覚悟は良いか、クロト!!」

「あーあ。何でこんな事になっちまうんだか。ま、恩人の為か。覚悟を決めてくれよ、クロト!!」

「邪魔しないでよ。邪魔するなら、クロトでも倒しちゃうんだからね!!」

魔術師は、静かに襲い来る。
忠誠を誓った、柚葉 椛の為に。
だが、柚葉 クロトは臆さない。

「人道を踏み外させられねーのよ。だって、椛ちゃんは俺の義妹だし」

道を踏み外す人間は、俺だけで良い。
卑怯者は、俺だけで良いんだよ。
だからさ、椛ちゃん。
俺は、君の外道を往くなら、何度だって手を引っ張って元の正道に戻してやる。
その為なら、どんな奴だろうが、踏み越える。
さぁ、行くぜ?

「歯を噛み締めろ。俺の魔術は───────────ちょっとばかし、身体に響くぞ?」