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Re: Multiplex Cross Point  ( No.497 )
日時: 2010/08/01 15:28
名前: インク切れボールペン (ID: mCvgc20i)

Multiplex Cross Point─多重交差点─ 第12話

夜。
【荒廃せし失楽園】本部。
普段なら明朗な雰囲気を崩さぬ組織の魔術師達も、今回ばかりは別だった。
兎葉市での【灰燼の風】との衝突は、【荒廃せし失楽園】の面々に多くの怪我を負わせた。
体に傷の無い者は何処にも無い。
そんな中で、負傷した1人である結月 采音は忙しく動き回っていた。
組織で1番の治癒魔術を使う彼女は痛む体を無理に押し、負傷した者達の治療に当たっている。
彼女自身の傷も、浅くは無いのにも関わらず。

「おい、結月!!」

その行為を続ける中、彼女を制止を呼び掛けた者がある。
彼女が指揮する小隊、【鉄の十字架】の構成員である千堂 紀和だ。
彼もまた頭に包帯を巻き、随分と痛々しい姿をしている。
彼女は疲労困憊の表情のまま、無理に明るい笑顔を作り、

「何?」

と、問い掛けた。
彼女の疲労に満ちた表情から、無理をしているのは一目瞭然だ。

「もういい。お前も休め。他の奴らの事は俺が何とかする」

「ダメだよ。紀和は治癒系の魔術は使えないでしょ。だから、私が…」

「うるさい。いいから、もう休め」

見ていられない。
今にも倒れそうな覚束ない足付きに、疲労困憊の表情。
それを周囲に悟らせまいと無理に笑顔を作り、結月 采音。
そんな彼女を、これ以上黙って傍観するなど、千堂 紀和には出来無かった。
だが、

「ダメだよ。皆、怪我してるから。苦しんでるから。早く、何とかしなきゃ」

「ッ、この分からず屋が!!」

「ごめんね。怒ってるよね。でも、私が何とかしなきゃ」

彼女に吼えるのが間違いなのは解っている。
それでも、吼えずにはいられなかった。
誰にも頼らず、ただ1人で無茶をしようとする彼女に対して。

「結月。俺は、そんなに頼りにならないのか?」

「…違うよ。そんな訳ないよ。ただ、今は…」

「今は…? 違うな、今だからこそ、俺は言うんだ。休んでろ、と」

「紀和…。でも、私は…」

「貴様だけに、無茶はさせんぞ」

真っ向から、彼はそう言った。
お前だけが、この状況で無茶をする必要は無い、と。
お前が無茶をするなら、俺も一緒に無茶をしてやる、と。

「結月。俺達は仲間だろう!! 仲間が無茶をしているのを傍観し続けるなど、俺には出来ん!!」

お前が、仲間だから!!
お前が、友だから!!
真っ向から、ただ真っ直ぐに述べられた真摯な言葉に結月は俯いた。
ふと、そんな彼女の肩に、ポン、と手が置かれた。

「1人で背負う事なんて無い。仲間なんだから、皆で背負えばいい」

彼女の肩に手を置いた人物は、そう言った。
黒雅 誡、彼はその手に救急箱を手にしている。
彼もまた、体に包帯を巻いており、怪我しているのは見て取れた。

「結月だけ無茶をするなんてダメだ。俺も紀和も、一緒に付き合うよ」

「当然だ、この馬鹿が無理を押して無茶をし続けるのは見てられんからな」

そんな言葉を残し、2人は早々と負傷した者達に自分達が出来る事を始めた。
傷に消毒液を塗ったり、包帯を替えたり、言葉で励ましたり。
誰もが、ありがとう、と。
誰もが、助かった、と。
そう言った。
結月もまた同じだ。
俯いたまま、彼女は瞳から流れ落ちそうになった水滴を拭い、ありがとう、と呟いた。
そして、

「じゃあ、一緒に頑張ろっか。紀和!! 黒雅くん!!」

まだ、頑張れるよ。
だって、2人が私を支えてくれるから。