コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Multiplex Cross Point ( No.502 )
- 日時: 2010/08/01 19:29
- 名前: インク切れボールペン (ID: mCvgc20i)
お前の選択は間違ってなかった。
本部の居住階層にある柚葉 クロトの個室。
備え付けのソファーに寝かされた柚葉 椛は、ぽつり、と呟いた。
彼女の隣では、柚葉 クロトが優しそうな柔らかい表情を浮かべ、彼女の頭を優しく撫でていた。
その身は包帯に巻かれ、包帯からは赤々として血が滲んでいる。
彼は撤退を命じた後、重傷者の3人を回収する為に兎葉の街で死闘を繰り広げたのだ。
幾多の騎士達と闘い、3人を器用に背負い、脇に抱え、敵の得物に身に攻撃を受けながらも退いた。
その御陰もあり、死傷者が出る、という最悪の結果は免れたのである。
「馬鹿だよ、お前は。自分が無茶をしてまで、仲間を助けるなんて…」
「誰かが傷付けば、椛ちゃん、君が背負っちゃうでしょ。そんなん、俺は勘弁だよ」
それを背負ってしまえば、きっと椛ちゃんは二度と笑えなくなるでしょ。
彼の言葉に、椛は目尻に涙を浮かべた。
「…あ、あれ〜? も、椛ちゃん?」
「阿呆め。この阿呆…ッ」
「…椛ちゃん」
「私は副隊長だ。組織を、仲間を、守らなきゃダメなのに。私は…ッ!!」
だから、最善の選択をしたと彼女は思っていた。
カノンの暗殺を企て、成功させる事で全ての仲間を守れると、信じていたのだ。
だが結果は、カノンに気を取られた為に、負傷者の存在に気が付かなかった。
仮に、クロトが椛達を止めなければ、【灰燼の風】の騎士達によって確実に死傷者が出ていたはずだ。
「私は…まだ未熟だ。努力をして来たつもりだったけど、まだ…」
これでは、この手で守りたいと願った人も守れない。
これでは、あの時と同じようにクロトに置いて行かれてしまう。
「今のままじゃ、ダメなんだ。私は…強くなりたい。皆を守れる位に頑張らなきゃダメなんだ…!!」
瞳に涙が溢れ、頬を伝って落ちていく。
副隊長として、組織の構成員を守り抜かねばならない責任。
それは、きっと椛にとっては大きな重圧となっていただろう。
何より、人徳を知る椛にとって、カノンを暗殺する、という事が最も彼女の心に圧を与えていたに違いない。
泣いている彼女の頭を、クロトは優しく撫でながら言った。
「本当に、賢いのに馬鹿な奴だな。…抱え込むな、自分だけで。俺は、お前を大切に思ってるんだから」
だから、誰かに相談しろよ、辛いなら。
俺は誰の悲しむ顔も見たくないんだ。
もう、二度と。
「…、うん。ごめん。ごめんさない…、義兄さん」
袖に縋り付き、ただ泣き続ける柚葉 椛。
辛いなら、その辛さを俺に背負わせて欲しい、クロトはそう思った。
彼女に、笑顔でいて欲しいから。
(…ったく、義妹を泣かすなんざ、俺って最悪の奴だよな、ホント)
今度こそ、泣かせちゃダメだな。
だったら、決まってるだろ、柚葉 クロト。
この状況で、多くの仲間が傷付き、カノンが【灰燼の風】に連れて行かれた、最悪の状況で。
自分が何をすべきなのか。
(決まってるだろ、柚葉 クロト。俺がすることなんざ、単純明快じゃないか)
既に、その目は先を見据えている。
今、自分が成し遂げる事の為。
柚葉 クロトは颯爽と動き出す。