コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Multiplex Cross Point ( No.516 )
- 日時: 2010/08/02 23:23
- 名前: インク切れボールペン (ID: mCvgc20i)
本部の医療階層。
名前の如く、医療器具や治癒魔術に関連した道具が置かれた階層の病室。
備え付けのベッドで安らかな寝息を立てる少女の手を握り、雅依 輝星は歯を噛み締めていた。
今、彼の心を支配するのは、後悔という名の感情。
守らなければならない少女が傷つく様を、見ているしかなかった自分に対する憤慨。
それが後悔に代わり、輝星は苦悶の表情を浮かべていた。
(俺が…守らなきゃダメだったのに)
この組織に参入する前、輝星は少女、雅依 光星に1つの誓約を立てた。
それは、何が遭っても彼女を守り抜く、という事。
組織に参入し、魔術師となる事を決意した日。
彼女は、それを頑なに拒んでいた。
知っていたからだ、魔術師になれば自身が傷つく事になり、相手を傷つける事になる事を。
彼女は平和主義者だから、闘争を好まない。
だから、何が遭っても君を守る、と。
どんな害意からも君を守って見せる、と。
組織の構成員として忙しい日々を送り、忘れそうになっていた言葉が、輝星の胸を締め付ける。
(何でだよ。何で、光星の奴がこんな目に遭わなきゃダメなんだよ…!!)
【猛火】のセルゲイ・ディスコラヴィッチ。
怪物、と呼んでも染色の無い相手だった、と彼は思う。
攻撃を受けようが、一切合切を気にも止めず、あの男は迫撃して来た。
仲間全員が倒れ、メルの手で撤退の合図が掛かった頃。
セルゲイは残った輝星に対し、最後の一撃を与えんと迫って来た。
終わった、そう思った。
なのに、
1人の少女が、セルゲイの前に立ち塞がった。
頭からは血を流し、不規則に乱れた呼吸のまま。
雅依 光星、彼女は圧倒的な実力を持った相手に立ち塞がったのだ。
雅依 輝星、彼を守る為に。
彼ほどの実力者ならば、一撃をして2人を一瞬にして、ただの肉塊に変えるも造作は無かったはずだ。
だが、彼は一言、天晴れな心意気だ、と一笑し、その場から去って行った。
去って行く背中を、追う事は出来無かった。
光星は満身創痍の身のまま、後に立った輝星に振り向いて、微笑んだ。
もう、大丈夫。
そんな事を言って、彼女は倒れた。
最後まで、輝星の事を考えて。
(次は、今度こそは)
約束を、違えてなるものか。
この命を賭して、身が粉になるまで。
(彼女の盾となる)
少女は、命を懸けて少年を守った。
【猛火】と呼ばれた相手を前に、恐怖はあったはずなのに。
それでも、立ち塞がった。
それは、輝星を守りたい、ただ単純明快な意志の下の行動だった。
次は、俺の番だな。
「守って見せる。今度は絶対に。だってさ、俺は───────────お前の盾なんだから」
強く、力強く、静かに眠る少女の手を握った。
そして、小さく、本当に小さく、少女は彼の手を握り返して来た。
「輝星…」
寝言かも知れない、聞き取るのも難しい小さな言葉。
それでも、少年は確かに聞いた。
自分の名前が呼ばれた事を。
その言葉が、何の意味を持っているかを。
解ってる、そう言って、彼は彼女の頭を優しく撫でた。
「…早く元気になれよ?」
1人の少女の為。
少年は盾となる。
幾千の害意、圧倒的なる強者から1人の少女を守護する為に。
過去に誓った誓約の名の下、少年は動き出す。