コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Multiplex Cross Point ( No.517 )
- 日時: 2010/08/03 13:15
- 名前: インク切れボールペン (ID: mCvgc20i)
どうやら、死に損なった様ですねー。
医療階層の一番奥の部屋、集中治療室と呼ばれる場所で、錆螺 唄はポツリと呟いた。
ベッドに寝かされた身は、大量の出血による所為か、全くと言って良い程、動かない。
(まぁ、腹に風穴を空けられたんですから、生きてるだけで十分に幸運ですが)
だが、動かなければならない、と彼は思う。
一刻も早く、この身を動かし、ダージスの野望を阻止せねばならない。
そして、
(カノン…)
【神へのアクセス権】という特異な能力を持った【創製種】の少女。
彼女はダージスによって、連れて行かれた。
【荒廃せし失楽園】の面々の名前を覚えようとしていた、健気な少女。
あの出会いも、全てがダージスの奸略だったと言う。
全てが、ダージスの計算の範囲だったと言う。
だが、1つだけ奴はミスを犯した。
錆螺 唄がカノンの手で刺され、彼女を伴ってダージスが撤退しようとした間際。
カノンは、涙を流していた。
ダージスは、カノンの心を壊す、と言った。
確かに、自分に温情を懸けてくれた唄を不本意に刺す、という事は彼女の心を抉ったに違いない。
事実、去り際の彼女の瞳は機械の様に光を無くしていた。
表情も無く、本当の機械に見えた。
あの涙を除いて。
まだ機会は完全には奪われていない。
あの少女の涙は、まだ彼女の心が残っている事を示している。
(だったら、私達が起こす次の行動は決定的です)
唄の脳裏を、カノンの涙が再生される。
それを思い出し、錆螺 唄は笑った。
ありがとう、カノン、と。
彼は、1人の少女に礼を言った。
(久しく忘れていた何かを、思い出せましたよ)
神と同位の能力を得る。
途方も無い野望だが、成就されれば世界が震撼する事は間違いない。
だが、カノンを取り戻せば、それは阻止できるだろう。
しかし、彼の計画が最終段階に入っていると予測すると、神の力を得たダージスと相対する可能性はある。
人類の歴史上、人が神に刃向かって勝利したなどという事例は存在しない。
けれど、
(関係が無いですね。神? 実に矮小です)
人間とは本当に愚かだ、と唄は思う。
今の状況、彼はカノンを取り戻す為に神と相対する可能性を考えて、何の恐怖も湧かなかった。
それよりも、1人の少女の心が崩壊する方が、遙かに怖ろしかった。
だからこそ、重傷を負い、絶対安静の言い渡されて尚、彼は立ち上がる。
「待っていて下さい。カノン」
すぐに行きます。
敗北を経て尚、魔術師達は止まらない。
それぞれの決意を胸に、物語は動き出す。