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Re: Multiplex Cross Point  ( No.520 )
日時: 2010/08/03 13:20
名前: インク切れボールペン (ID: mCvgc20i)

錆螺 唄が失踪した。
そんな言葉が椛から語られ、一同は騒然とした。
最も怪我が深く、絶対安静を言い渡されていた唄。
それが、目を離した隙に集中治療室から逃走し、【灰燼の風】の本拠地に向かったらしい。

「奴の病床には、これが残されていた」

椛がポケットから取り出したのは1枚の紙切れ。
その紙切れには、震えた字で、カノンを助けに行きます、と書かれている。

「あ〜…。俺と被ってる」

「正確には、お前の行動が錆螺 唄の行動と被ったんだ。全く、奴め。賢いくせに、何て馬鹿な真似を」

だが、ぶつぶつと文句を言い続けている椛の表情には薄い笑みがあった。
既に明朗な彼女の脳裏には次の算段が出来ているのだろう。

「んじゃ、行きますか。椛ちゃーん、出撃前の前口上を頼んだよ〜」

だが、クロトの言葉は一瞬にして否定された。
椛の、嫌だ、という言葉によって。

「何故によ、椛ちゃん」

「は、は…」

「は?」

「は、恥ずかしいんだよ、あれはッ!!」

顔を真っ赤にして吼える彼女に、クロトは、なるほど、と手を打った。
確かに、見知った面々を前にしても、大声で演説するのは恥ずかしいのであろう。

「え〜。でもさ、だったら誰が前口上を…」

「無茶する奴を代表して、お前がやれ」

実に正論である。
反論する事が出来ないクロトは、ごほん、と1度だけ咳をした後、

「皆は失楽園って物語を知っているかい?」

失楽園。
神に対し、叛逆を企てた天使ルシフェルの物語だ。
人間に嫉妬し、神に反旗を企てた、堕天となった天使。
ふと、この物語に一同は1つの事実に気が付く事となる。
【荒廃せし失楽園】、神に成らんとするダージス。
そう、この状況。



失楽園の物語に、良く似てはいないだろうか?



ダージスを神と例え、【荒廃せし失楽園】の者達を堕天使と例える。
今、神の君臨する本拠に乗り込まんとする現状は、まさしく失楽園のルシフェルの叛逆の時。

「だが、俺たちはルシフェルとは違う。戦いに赴く共通の理由は1つ。そうだろう?」

一同の脳裏を掠めたのは、綺麗な金色の短髪の少女。
表情は薄いが、【荒廃せし失楽園】の者達とも関わりで、確かに感情を豊かにして行った少女。

「取り戻すぞ。例え、相手が圧倒的な神の力を振るうとしても!!」

不条理の中に呑まれんとする少女を。
俺たちの手で。

「カノンを奪還する。んで、最高の笑顔で迎えてやろう。彼女が心の底から笑えるように」

さぁーて、無謀な突撃タイムと行こうか!!
その言葉に、オオオォォォォ─────ッ!! という叫びが上がる。
誰もが、傷だらけ。
しかし、誰もが闘争の覚悟は揺らいでいない。
闘おうとしている、1人の少女の為に。
魔術師達は動き出す。
漆黒の闇を斬り裂き、不条理に呑まれた少女を救い出す為に。


【荒廃せし失楽園】の者達による、神への叛逆戦が、今、始まる───────────。