コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Multiplex Cross Point 第13話更新中 ( No.532 )
- 日時: 2010/08/03 15:42
- 名前: インク切れボールペン (ID: mCvgc20i)
【灰燼の風】の本部である高層ホテルの入口の手前で、白い甲冑を纏った騎士は並列している。
その手に握られているのは近接戦の為の鉄槍では無く、遠距離戦用の鉄製のボウガンが握られていた。
静寂と共に、夜風が吹き荒ぶ。
顔の防護用に装着した仮面の隙間から、瞳の角膜に施した探査術式が迫り来る存在を確かに捉えていた。
(数は17。距離は約5km。我々と奴らが激突するまでの時間は、奴らの速度から換算して…5分後か)
何故、と騎士の1人は敵達の行為に対して率直な疑惑を抱いた。
その身が満身創痍になり、朱に染められて尚、どうして戦い続ける。
それは、たった1人の少女の為だと言うのか。
(まだ、総帥の野望を阻止する、の方が現実的だと思うが。…否、我々魔術師に常識は通じんか)
顔を覆い隠す防護仮面の奥で、騎士は皮肉な微笑を浮かべた。
魔術師である我々は、常に常識の更に上、非常識を往く。
現実的で常識、それを踏み越えて尚、非常識として君臨する、それが魔術師だ。
(魔術師として奴らの選択は見事だと言える。我々の常識は完全に崩された)
満身創痍の傷を負って、それでも果敢な特攻作戦を敢行した【荒廃せし失楽園】。
あれだけの傷を負ったのだから、誰もが奴らが組織の構成員の回復に努めると思っていた。
そんな常識を、完全に打ち破り、魔術師達は距離を縮めてくる。
(激突まで約1分、か)
総員、斉射準備。
騎士の号令と共に、残る幾多の騎士達がボウガンを構えた。
射出速度を魔術で強化したボウガンに、魔術によって凄まじい突破力を得た鉄矢。
ダージスの手で直接の改造を受けたボウガンは、騎士達の手で構えられた。
(…来るか)
夜風が制止する。
夜の漆黒の闇を縫い、17の人影が闇の中より現れる。
赤毛の青年を筆頭に、戦う前から傷だらけの魔術師達は騎士達に切迫する。
突撃だ、という青年の号令と共に、魔術師達は天をも引き裂かん程の咆哮を上げた。
見事なる気迫、と騎士達が魔術師達の意気に答え、ボウガンの照準を魔術師達に向ける。
いざ、決戦の火蓋を切らん。
「総員斉射ァ!!」
最早、騎士達のボウガンから放たれた鉄矢は弓の速度を遙かに凌駕していた。
過剰な速度を得た鉄矢は、黒色の閃光と化し、魔術師達と交差する。
次弾装填、と騎士の1人が更なる号令を掛け、騎士達は次の矢をボウガンに番えた。
魔術師達は、
黒色の閃光の間隙を縫い、騎士達との距離を縮めている。
さも、当然の如く。
ある者は飛翔し、ある者は屈み、ある者は身を捻って、鉄矢を完全に回避していた。
騎士は笑う、顔を防護する仮面の奥で。
ただ、寂しそうに。
(見事だ。1人の少女を取り戻す為に敢えて無謀を成す、その姿勢。尊敬に値する!!)
何という、美しい戦いか。
無謀を通り越し、【荒廃せし失楽園】の面々の戦いを、騎士は美しいと感じた。
大義も何も無い、無謀で無茶な戦い。
その果てに手にするのは、1人の少女。
道具として造られ、そして生まれた1人の少女。
彼女の為に、魔術師達は吼える。
其処を退け、と。
それは、騎士達も同じ。
退けぬ、と大地に固く踏み締め、装填し終えた次弾を放つ。
瞬く間に、鉄矢は黒色の閃光と化し、風を、闇を引き裂いていく。
騎士達は、一種の羨望と主君であるダージスへの忠節を胸に、魔術師達と対峙する。
「鉄壁に覚悟を示さん!! 諸君、この身を盾とし、ダージス様の願いの成就に尽力せん!!」
主君に対する忠節を示す戦い。
一方で、この戦いは1人の少女を不条理の淵で見殺しにする戦いでもある。
彼らには、主君に尽くす勇気はあっても、主君に逆らってでも1人の少女を救う勇気は無い。
故の羨望、故の忠節。
騎士と魔術師は激突する。
それぞれの想いを胸に。