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Re: Multiplex Cross Point 第13話更新中  ( No.560 )
日時: 2010/08/08 18:56
名前: インク切れボールペン (ID: mCvgc20i)

【Child Soldier】事件。
あの事件の最中、月架 蒼天は武装した子供の兵士達と対峙した。
当時、仲間だった魔術師達と共に戦場に臨み、彼は自分達の行為を正義と信じ、剣を振るった。
飛散する血、肉を切り裂く感覚、音も無く倒れる子供達。
鮮明に蘇る記憶を辿り、彼は1人の少女を思い出した。
西洋剣を振るい、仲間達の死を目撃し、憤怒の感情を纏い、月架 蒼天と相対した少女。
激情に動かされ、獣の如き怒濤の声を上げて、彼女は月架の得物と拮抗した。
良く覚えている。
あの時、西洋剣の柄を強く握り締めた両腕は、小刻みに震えていた。
憤怒の溢れていたはずの表情も、月架と拮抗した瞬間、蒼白となっていた。
それは、恐怖故に。
敵と対峙した恐怖でも無く、自分が敵に勝てるのかという不安でも無く、彼女の恐怖は、

相手を傷付ける事、それを心の底から拒絶している、そんな恐怖だった。

闘いたくない相手だ、と拮抗した月架は思った。
罪悪感という良識のある少女と、出来る事なら闘いたくない、と。
だが、戦場に甘い戯言など必要は無い。
迂闊な考えは、己を殺す。
それを知っていたから、月架は彼女との拮抗を一気に破り、彼女の身体を切り裂いた。
赤い雨が降った。
彼女は力無く崩れ去り、戦場の大地を真っ赤に染め上げる。
終わった、そう思った矢先。
何気なく、死んだであろう彼女を一瞥し、月架は驚愕した。

酷く浅い呼吸をしながら、まだ彼女は生きていた。

「助けて」

死に怯える彼女の目尻には涙があった。
浅い呼吸は尚も浅くなっていく。
放置しても、死は確実だったはずだ。
だが、彼は。

「許してくれ」

一閃。
正義と信じて振るった刃は、少女の身に終焉の一撃を与えた。
思い出せば、それこそが始まりだったのだろう。
ミリー・シャルロット、彼女との因縁の。
高層ホテルの第10階層のエレベーターホールで、月架は閉じていた瞳を静かに開いた。
その眼前には、殺したはずの少女が立っている。
助けて、と月架に許しを乞うた、あの時の少女、ミリー・シャルロットが。

「いらっしゃい、私を殺した人」

狂気を含んだ笑顔で、彼女は明確にそう言い放った。
互いに、得物を手にして、正面から相対して。
被害者と加害者は、戦場に臨む。

(彼女は生きていた。…痛みの喪失という1つの傷跡を残して)

それが、彼女に歪みを生んだ。
涙を流す事も無く、恐怖すら抱かない、ただ狂った様に笑い続ける少女を生み出してしまった。
あの時、彼女の小さな願いを受け入れ、剣を振るわなければ、こんな事にはならなかっただろう。
否、そもそも【Child Soldier】事件の真実を、もっと早く理解していれば、もっと多くの子供が助かったはずだ。
だが、結果的に彼は、幾多の子供達の命を奪い、その果ての真実に後悔と懺悔を背負った。
そして今、対峙するのは被害者である少女。
彼女を救済する、その為ならば。



この命、賭す事も辞さない。



行くぞ、と彼は一対の短剣を構えた。
満身創痍、一度は身体に風穴を開けられ、応急処置を終えただけ。
もしかすると、死ぬかも知れない。
だが、それでも。
例え、そうだとしても。



過去の清算の一環を、この場で果たす!!



「この一戦。─────────────君の救済に捧ぐ!!」

罪人は吼える。
かつて、己の成した行為で、狂ってしまった1人の少女を救済する為に。
血に濡れた、咎の剣を両の手に、過去の清算の一環を成し遂げる為に。