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Re: Multiplex Cross Point 第13話更新中  ( No.582 )
日時: 2010/08/17 12:44
名前: インク切れボールペン (ID: mCvgc20i)

Multiplex Cross Point─多重交差点─ 第14話

漸く、得物を抜いたか。
月光に照らし出されたラウンジで、荒川 冬丞は、そう呟いた。
眼前の少女、星姫 月夜は遂に抜刀した。
彼女が手にする長刀は、恐らく魔術的な性能を付加された物品だ。
その性能まで考察するのは難しいが、確実な事が1つだけある。

(油断すれば一太刀で俺の命は奪われる、か)

背筋に寒気すら感じさせる、長刀の刃。
冷静な星姫 月夜が、確実な敗北を宣告した事から、その性能は凄まじい物のはず。
だが、今の冬丞の心中には恐怖も何も無い。
ただ、沸き上がるのは、闘争の喜びだけ。

「そうだ。それで良い。それでこそだッ、星姫 月夜!!」

直後。
有無を言わせず、荒川 冬丞の小刀が宙を舞う。
複雑な軌道で放たれた刺突の一撃に対し、月夜は身を捻って避けた。
だが、回避だけでは終わらない。
捻った分の力を利用し、カウンターの一撃を放った。
風を切り裂き、荒川 冬丞の胴体を一刀両断に成すべく、長刀の刀身が彼に迫る。
しかし、

「くだらん。その程度のカウンター狙いの一撃で、この闘争を終焉に導けると思ったか!!」

右足を上げ、靴底を長刀の刀身が通過する寸前。
狙い澄ました如く、靴底が長刀の表面を踏み、彼の右足によって床に縫い止められた。
カウンターを回避すると同時に、これは長刀の柄を手にした月夜のバランスをも崩す。

「くッ…!?」

「詰めが甘いぞ、星姫 月夜」

冷静な一言と共に、バランスを崩した月夜に小刀の一撃が襲い掛かる。
彼女の瞳に映ったのは、月光の反射し、美しく光る小刀の刀身。
避けなければ、その美しい小刀の刀身は赤に染まるだろう。

(どうする…ッ!?)

バランスを整え、回避するには床に冬丞の右足で縫い止められた長刀の柄を離せば良いだけだ。
だが、得物を手放した瞬間、無防備な彼女の体は、冬丞の小刀の一閃で引き裂かれる事だろう。
どちらにせよ、確実に彼の攻撃を受けなければならない。
考えろ、と星姫 月夜は心の中で吼える。
2つの選択肢の中で、自分が選び抜くべき、



──────────────────第3の選択肢を模索しろ、と。



其処で、彼女は気が付いた。
自分はまだ、



─────────────切札を使っていない事に。



己が禁忌とした、長刀に秘められた、とある魔術。
刀を抜く覚悟と共に、彼女は切札を使う覚悟をしていた。
死闘の中で、凄まじい性能を誇り、相手を塵の如く一蹴する、とある魔術。
敗北は許されない。
何故なら、彼女は荒川 冬丞を越え、尚も前に進まねばならないから。
ただ1人の、造られた少女を救い出す為に。
故に肯定する。
故に吼える。



己が手にする、最強の魔術の名を。



「発動を承認す。────────────対旗艦級艦隊結界術式、【滅刀之園】」



言葉を呟き終えた、その直後。
突如として、荒川 冬丞の背中が爆発した。
ズバンッ!! と耳障りな高音と共に、彼の背から噴血が迸る。

「が…ぁ…!? 何だ、今のはッ!?」

激痛。
否、痛みを通り越して、凄まじい熱さが背中を駆け巡っている。
攻撃の手が緩んだ、その時。
月夜の靴先が彼の腹部を蹴り飛ばし、彼はラウンジの端に飛ばされた。
体勢を早々に立て直す頃には、月夜は既にバランスを取り戻し、長刀を構え直している。
そんな彼女に、冬丞は吼えた。
今、俺に何をした、と。
そんな言葉に、彼女が返した言葉は、ただ1つ。



「貴様の敗北だ、冬丞。今、この時より、この空間そのものが、─────私の得物と化した」



覚悟は良いか、荒川 冬丞。
最早、貴様に1%の勝率も無い。

「────────────無限の太刀に…、呑まれて消えろ!!」