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- Re: Multiplex Cross Point 第14話更新中 ( No.588 )
- 日時: 2010/08/17 18:00
- 名前: インク切れボールペン (ID: mCvgc20i)
笑わせないで。
月架 蒼天の覚悟を、ミリー・シャルロットは、そう一蹴した。
加害者の言葉は、被害者には届かない。
彼女は笑う、ただ狂った様に。
「貴方に残された選択は2つ。貴方が死ぬか、私を殺すか、よ!!」
一閃。
西洋剣の刃が閃き、月架 蒼天の短剣の1つと衝突する。
鳴り響く金属音、拮抗する刃と刃。
ミリーの責める様な言葉に、月架 蒼天は彼女の言葉に揺るがない。
最早、揺らぐ事は無い。
何を言われても、どれだけ責められても構わない。
それでも。
だとしても!!
「君を救済する。何を言われたって、俺の想いは変わらない!!」
振るわれた二刀は、ミリーの西洋剣を弾いた。
火花が散り、追撃に放った二刀の連撃をミリーは西洋剣で相対する。
閃々、と火花が散り、全力と全力で振るった一撃の衝突は、2人を吹き飛ばした。
「ッ!!」
「くッ!!」
吹き飛び、互いの距離が開く。
体勢を整え、攻撃に移ったのは、ほぼ同時。
一閃と一閃が衝突し、摩擦による炎が宙を舞い、互いの剣が弾かれた。
ミリーの表情は、相変わらずの狂笑のまま。
痛みを理解する事も出来ず、狂笑によって自分を誤魔化すしか術を無くした哀れな少女。
その狂笑すらも、偽物。
狂笑の裏に、どんな感情があるのか、自分ですら解らない。
そんな少女を、そんな風に変えてしまった加害者である月架 蒼天。
一度は彼女の血で濡らした剣を振るい、彼は吼える。
「君を解放する!! 無痛覚という地獄から!!」
「地獄? 笑わせないでよ。無痛覚は私から、痛みを忘れさせてくれる。地獄なんかじゃ無い!!」
ミリーは同じく、狂った笑顔で叫んだ。
この無痛覚は、私を苦しみから解放してくれた、と。
「痛いのは嫌い。悲しいのは嫌い。辛いのは嫌い。怖いのは嫌い!!」
だから、無痛覚こそが私の救いなのだと。
月架 蒼天の言葉を、全て否定した。
その否定の言葉を肯定し、全てを噛み砕き、理解した上で、彼は言った。
「本当に?」
予期せぬ言葉だったのだろう。
ミリー・シャルロットの頬が引き吊った。
本来なら、この言葉で月架 蒼天は動揺し、言葉を失うはずだったのに。
明らかな動揺に、月架 蒼天は更に言葉を続ける。
「本当は涙を流したかったはずだ、仲間の死に」
「ッ…、違う」
「本当は憎みたかったはずだ、仲間を殺した俺を」
「違う…、違う、違う!!」
「本当は怖れていたはずだ、誰かを傷付け、殺める事を!!」
「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!! 私は─────ッ!!」
ミリー・シャルロットの心を覆う何かに、亀裂が生じて行く。
狂笑は薄れ、彼女の表情は徐々に泣き出しそうな表情に変わりつつある。
彼女の心を覆う何か、それを完膚無きまでに破壊する為に、月架 蒼天は最後の言葉を吼えた。
「俺は君を解放する。─────────────君の痛みを取り戻す」
彼女の心を覆っていた何かが砕け散った。
漆黒の闇夜よりも深く、暗い何かが。
直後、彼女は西洋剣の柄を持たぬ片手で、頭を押さえた。
そして、絶叫が響き渡る。
「あ、ぁぁぁ。うぁ、ああああァァァァァァァァァァァ──────────────ッ!!」
ミリーを支えて来た何かが、砕け散り、少女に崩壊が訪れたのだ。
狂気に縋り、生きて来た少女は、狂気を破壊され、同時に少女も崩壊する。
だが、彼女は踏み止まった。
ケタケタ、と狂笑が始まり、彼女は月架に叫んだ。
「あはは。あはははは。殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる!!」
最早、少女の目的はそれしかない。
自分の無痛覚を否定した加害者を殺し、全てを無かった事にする。
そうすれば、また無痛覚に縋って生きていけるのだから。
「痛いのは嫌、悲しいのは嫌。辛いのは嫌。怖いのは嫌。私を壊さないで…。消えてェェェ!!!!」
猛撃が、月架を襲う。
凄まじい疾走と共に、彼女は駆けてくる。
避けなければ死ぬ、確実に。
猛撃は彼の肉を裂き、赤の雨を浴びて、狂笑と共に少女の地獄は続く事になる。
彼女は、痛みを知る事の無い、哀れな少女のままになってしまう。
故に、月架 蒼天は彼女の闇を一閃の下に断ち切らんが為に、
己が最強の刃を、此処に顕現する。
「万象の操者。蒼穹の頂に座す王者よ。我が契約の名の下に、汝が威を示せ」
月架 蒼天の周囲を薄色の蒼が展開されて行く。
まるで、それは遙かなる空の如く。
まるで、それは荒々しく猛る荒波が如く。
薄色の蒼は彼を抱擁し、1つの形を造り出して行った。
それは、人だった。
薄色の蒼の肌を持つ魔神。
その身には濃色な蒼の衣を纏い、手には威圧感を感じさせる暗い蒼の大剣を携えている。
何なんだ、とミリー・シャルロットは疾走を止め、その魔神に視界に捉え、唖然としていた。
これこそが、ミリー・シャルロットを救済する為に、月架 蒼天の用意した【切札】。
「絶望の淵に堕とされし者に、真の救済を。──────────、【蒼の法術王】!!」
それは、かつて月架 蒼天が【Child Soldier】事件で生み出した報復の魔術。
破壊の名を冠した、最強の破壊力を誇る術式。
封印したはずの術式を顕現し、ただ加害者は叫んだ。
「君に与えた絶望に終止符を打つ!!」