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Re: Multiplex Cross Point 第14話更新中  ( No.601 )
日時: 2010/08/31 22:22
名前: インク切れボールペン (ID: mCvgc20i)

吹き荒ぶ、破壊の風。
紅蓮を思わせる赤々と燃える焔。

「さぁ、どうしたのかね。君達の力は、その程度ではあるまい、魔術師諸君!!」

振るわれた拳は、既に人間に回避可能な速度では無かった。
加えて、重量もあり、直撃すれば如何なる防御魔術を使役しても、防ぎ切るのは不可能だろう。
凶器を思わせる、鍛え抜かれた老獪の拳。
その照準は、兎葉の街で1人の少年を庇った少女に向けられている。

「君の魔術である、【殲滅の裁雷】は非常に危険だ。故に、此処で屍を全うしたまえ。雅依 光星」

爆発的な勢いで放たれる拳。
前衛である者達を一瞬で抜き、【猛火】と呼ばれた男は少女を肉塊に変えるべく、一撃を撃ち放つ。
これで、彼女の命が奪われるのは必然だった。
ただ1人の、少年の邪魔さえ無ければ。

「させ、るかァァァァァァァァァ!!」

本来なら後衛を務めるべき、雅依 光星と同種の拳銃を手にした少年。
彼はセルゲイが前衛を抜いた瞬間に既に行動を開始していた。
疾駆した身で、彼は武器である拳銃を使わず、セルゲイに向けてスライディングを放つ。

「ぬ…ッ!?」

右脚に直撃したスライディングの一撃で、僅かにバランスを崩す、セルゲイ。
この一撃が功を奏し、セルゲイの殺人拳の軌道は僅かに反れ、光星の顔の隣を駆け抜けた。
だが、それだけだ。
光星には傷は無い。
その事象に対し、光星の瞳に映ったのは、懸命に自分を助けた雅依 輝星だけだ。

「輝星ッ」

「言ったろ、盾になるって」

傍から見ると、実に良い雰囲気だと言えるだろう。
微笑ましい光景だが、此処は戦場だ。

「ふははは、青春かね。私も若い頃を思い出すよ!!」

放たれた蹴撃。
次の狙いは雅依 輝星の顔面。
凶器と呼んでも遜色ない速度と重圧を持った一撃が、少年を襲う。
しかし、



その一撃に返って来た感触は、肉を潰す感覚では無かった。



痛みと痺れが、蹴撃を放ったセルゲイの脚に走る。
硬結な物質を素手などで叩いたりした時に返る、反動によって引き起こる独特の痛みと痺れ。
何だ、と顔を顰めるセルゲイに対し、1つの言葉が返って来た。

「くそ爺が。生命保険にでも入って隠居しろ、鬱陶しい」

罵詈雑言。
その言葉を放ったのは、雅依 輝星を庇い、彼の前に現れた青年。
彼の手の前には、朱色の半透明の盾が浮いている。

「威牙…。助けてくれたのか」

「うるせーぞ、ガキが。役に立たないなら後で寝てろ。目の前でチョロチョロされても苛立つだけだ」

毒のある言葉に輝星は俯くも、すぐに顔を上げて、うるせー、と一蹴した。
反論する元気があるなら戦え、と威牙は告げ、

「天国の御迎えだ、くそ爺がッ!!」

直後、セルゲイの蹴撃を受け止めた朱色の半透明の盾が発光した。
燃えるが如き、朱。
そして、



盾からセルゲイに向けて、直線上に朱色の閃光が迸った。



最早、光線と呼んでも過言では無い。
朱色の破壊の光線は、一直線に受け止めていたセルゲイの脚ごと、彼を呑み込んだ。
だが、威牙は解っている。
この程度では、この初老の男を倒せるはずも無い、と。

「聖、ユキ!!」

「はいな、合点承知!!」

「アイアイサー!! 解ってますよ、っと!!」

威牙 無限の言葉に応え、飛び出したのは黒島 聖と冥弛 裄乃。
木製の儀仗を携え、黒島は遠距離から儀仗を叩き付ける様に振り翳した。
刹那、雷鳴が轟き、本来なら雷雲から出現するはずの雷が、杖の先から発生する。
しかも、それは普通の雷では無く、赤黒色の雷だ。
雷鳴を轟かせ、音すらも凌駕し、赤黒色の雷撃はセルゲイに直撃し、一気に爆ぜた。
更に、その爆ぜた先を1人の少女は疾駆する。

「はいはーい。お爺さん、ごめんね。私の一撃は─────────ちょっと痛いかもよ?」

放たれるは、右の拳。
単純な挙動に、何か変わった事は無い。
速度も並の人間でも見切れる程。
ただし、凄まじい威力を除けば、の話だが。

「ぬッ…、ぐ…お、おォォォ─────────ッ!?」

烈風が巻き起こった。
冥弛 裄乃の一撃を受けたセルゲイは弾丸の様に吹き飛び、床に叩き付けられた。
建物が振動するほどの衝撃が周囲を迸った。
それだけで、冥弛 裄乃の一撃が、どれだけ怪物的な一撃が理解できるだろう。
その怪物的な一撃を放った少女は、明るい表情で両手を上げて万歳していた。

「やったー、連携成功。万歳ー、主に私と威牙さん!!」

「おおーい、俺は!? え、ちょ…、無視!? ユキ、俺も頑張ったじゃんよ!?」

「お前は既に死んでいる」

「北斗!?」

「この戦いが終わったら、私は威牙さんと、聖の告別式に行くんだ…。一輪の花を携えて」

「ええ!? 俺、死んでるの!? 扱い酷過ぎるだろ!?」

「諦めないで〜」

「何が!? ダメだ、もうボケが読めねぇ!! 助けて、威牙えもん!!」

「うるせーぞ。俺を何処ぞのドラえもんの如く呼ぶんじゃねぇ!!」

冥弛 裄乃の些細なボケから始まり、遂には威牙も巻き込まれてしまう。
戦場なのに、緊張感の欠片も無い者達だが、それだけ実力の備わった者達である。
こんな愉快なコントが展開される最中、強敵はゆっくりと立ち上がる。

「…見事だ。見事な一撃を喰らったよ。いやはや、若者とても侮れんなぁ」

さて、此処からは少々、本気で行かせて貰おうか。
そう告げると、彼の放つ雰囲気の重圧が格段に増した。
最早、その雰囲気だけで人を殺せるのでは無いか、そう疑うほどの圧倒的な重圧。
鮮烈に君臨する【猛火】と呼ばれた老獪は静かに宣言する。

「怖れるな、諸君。恐怖に打ち勝ち、私に示せ、──────────己が力を」

激戦の第二戦線。
最後の関門を守護する男を打倒する為に、魔術師達は老獪と激突する。