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- Re: Multiplex Cross Point 第14話更新中 ( No.613 )
- 日時: 2010/08/21 14:13
- 名前: インク切れボールペン (ID: mCvgc20i)
無限の太刀に、呑まれて消えろ。
星姫 月夜の言葉は、正しく現実として顕現した。
月光に照らし出されたラウンジに、嵐の如き烈風が吹き荒れる。
それは、ただの烈風では無い。
1つ1つが、刀と同等の切断能力を秘めた、斬撃の嵐。
これが、星姫 月夜が死闘の中で忌避し続けた、彼女が手にする最強の魔術。
否、魔術という言葉では陳腐であろう。
これは、
「結界か!!」
捌く事が不可能な空気の一閃を避けながら、荒川 冬丞は叫んだ。
結界魔術、それは『一定の空間に1つの世界を結う』魔術の事である。
星姫 月夜の長刀の魔術的能力は、結界魔術。
その結界魔術の能力こそ、斬撃の嵐である、風の一閃の顕現である。
否、正確に言えば、月夜の長刀の結界の能力は、
一定の空間に張り巡らせた結界内で、空気を己の長刀と同化させる事。
つまりは、結界の効果範囲であるラウンジの空気そのものが星姫 月夜の意のままに操る長刀と化したのだ。
無限の太刀とは、このラウンジの酸素、月夜の長刀と同化した酸素の事であった。
「ははは。圧倒的だな、星姫 月夜ォ!!」
風の一閃が彼の身体を掠め、また1つ彼を赤に染めていく。
彼が愛用していた三度笠は風の一閃に煽られて、既にラウンジの手摺を越えて落下している。
背には、彼女の風の一閃を顕現した際に受けた傷口が、服を朱に染めていた。
対し、兎葉市の激闘で満身創痍のままの星姫 月夜は風の一閃と共に、長刀を振るって来た。
避けるしか無い斬撃に加え、剣士としての技術、才能を充分に秘めた星姫 月夜の斬撃。
圧倒的に不利な状況の中、荒川 冬丞は焦燥すらせず、張り裂けんばかりに爆笑していた。
「実に良い!! これでまた真の死闘に一歩近付いた!!」
響き渡る金属音、それは月夜の長刀の刀身と、冬丞の小刀の刀身が衝突する音だった。
加えて、月夜の斬撃に続く様に、目に捉え得ぬ風の一閃が四方八方から冬丞を襲う。
瞬間的な切断で形成される傷から、血が噴水の様に吹き出た。
それは、まるで荒川 冬丞の身体が独りでに爆発した様に誤認させる。
真っ赤な鮮血の雨が降り注ぎ、荒川 冬丞の膝は最早、崩れる寸前だった。
だが。
荒川 冬丞は一笑し、尚も立ち上がる。
死んでも不思議では無い出血量。
死、という圧倒的な恐怖を前にして、荒川 冬丞の表情にあるのは鮮烈なまでの笑顔。
闘争心を剥き出しにした、ただの笑顔だけ。
月夜の背中に、言い表せない怖気が走った。
「何で。何で立ち上がれるんだ、お前…!?」
「何故? 実に愚問だな。解っているはずだろう、星姫 月夜」
理由なんて明白だ。
彼が立ち上がる理由、それは、
「貴様が俺を殺していないからだ」
死人ならば、動かない。
生者ならば、動く。
それだけだ、ただ単純なそれだけの事実。
「手を緩めるなよ。真の死闘には、まだ至っていない。本気で俺を殺すつもりで来い、星姫 月夜」
「私、は…。私は、人殺しをする為に刀を持ったんじゃない!!」
「甘言を吼えるな!! 甘い考えで刀の柄を手にした貴様でも、その真理を破る事は許されん」
「…ッ!?」
「知っているぞ、星姫 月夜。貴様は、ある男に裏切られ、名家である星姫の家を出奔した」
「なん…で、それを知って…!?」
「後に魔術師となった貴様は刀を振るい続けた。さて、問題だ。貴様は何故、死と隣り合わせの死闘を望んだ?」
魔術師となった星姫 月夜は率先して危険な任務に身を置いた。
幾度と無く死線を往き、精神、身体を痛めつけ、敵と激突した。
その理由は、星姫 月夜にも理解できていない。
全力で当たるべきと判断した、と言うなら鞘を抜かなかった事で矛盾する。
ならば、何故なのか。
答は、本人である星姫 月夜では無く、他人である荒川 冬丞から語られた。
「貴様は寂しかったのさ。故に死闘という形で、敵という人間に関わりを求めていたのだろう?」
心臓が止まるかと思った。
恐らく、それは真実なのだろう。
核心だったからこそ、月夜の心は大きく揺らいだ。
「何で…、そんな事が解る…ッ!?」
「本気と本気の衝突は、本質と本質の激突だ。その程度は知ってるだろう?」
本質と本質の激突、それはヴァンが言っていた言葉だ。
死闘の中で、互いを理解し合う、それが本質と本質の激突。
「貴様の事は理解した。他者との関係を、闘い、という形で求めるか。随分と滑稽な事─────」
嘲笑、が行われるはずだった。
しかし、月夜の言葉がそれを遮った。
「いい加減にしやがれ!!」
吼えた言葉は、天を引き裂く雷の如く。
冬丞を圧し、その言葉を完封した。
「貴様なんかに…。お前なんかに私の何が解る!?」
「被害者のつもりか。実に矮小だな。言葉など要らぬ、殺すつもりで掛かって来い!!」
「冬ォォォ丞ォォォォ────────────ッ!!」
憤怒に任せ、放った無限の太刀が、宙を切り裂く。
その全てが、荒川 冬丞に届こうとした、その直後。
「舞い狂え。荒川式絡繰術百之型─────────、【夜天百騎】」
放たれた無限の太刀は、冬丞の周辺に現れた、何かによって防がれた。
それは、騎馬兵を模した絡繰人形。
100騎という総数を誇る、絡繰人形の騎兵団。
絡繰の騎兵団を周囲に展開し、荒川 冬丞は静かに小刀を構え、月夜に告げた。
「さぁ…。此処からが本番だ。死力を尽くし、俺を滅して見せろ、───────、星姫 月夜!!」