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Re: Multiplex Cross Point 第14話更新中  ( No.624 )
日時: 2010/08/31 22:17
名前: Faker (ID: mCvgc20i)

鉄刀は月光に閃き、絡繰の精巧な騎兵はガチャガチャと歯車が軋むような音を鳴らし、剣を振るう。
その総数は約100騎、夜天の下、星姫 月夜に襲い掛かった。

「ッ…、絡繰だと!?」

縦横無尽、結界の術式を以て顕現した、不可視の刃を以て、絡繰騎兵を打ち払う。
だが、頭で不可視の刃を顕現し、命令を告げるまでの所要時間を、襲い来る絡繰騎兵が妨害する。
手数を減らされると同時に、荒川 冬丞は結界魔術を展開した星姫 月夜と拮抗した。
血に濡れた黒髪を揺らせ、冬丞は小刀を振るいながら、天も裂けよ、と大声で笑う。

「はははは!! 驚いたか、星姫 月夜。予想外だったろう、これは!!」

「貴様、絡繰師だったのか!!」

「ふッ…。最早、何年の前に捨て去った生業だがな!!」

生業。
絡繰師。
何年も前に捨てた。
その単語に、星姫 月夜は息を呑んだ。
まさか、と彼女は太刀を交わす強敵に、1つの質疑を投げ掛ける。

「100騎もの絡繰を瞬時に操るほどの技術…。冬丞、貴様は──────」

月夜の驚愕の表情に、冬丞は薄く薄く笑う。
彼女が己の正体に感づいた事を、祝福する様に。
そして、月夜の口から、荒川 冬丞の正体が紡がれた。



「今は亡き絡繰師の名家、荒川の人間かッ!!」



彼女の言葉を荒川 冬丞は小さな頷きで肯定する。
知りたくは無かった、と彼女は悔しそうに歯を噛み絞めた。
高らかに長刀を振り上げ、周囲を囲んだ絡繰騎兵共を薙払い、彼女は叫ぶ。
何故だ、と。
何の前触れも無く、この世から姿を消した絡繰師の名家であった荒川家。
まだ月夜が幼少の頃、幾度か彼女は荒川家が創作した絡繰を買いに行っていた。
彼女は荒川家の人間が造る絡繰が好きで、幾度も両親に願って、荒川の本家を訪れている。
他人を喜ばせる事を目的として造られた絡繰。
星姫 月夜が愛した些細な想いが込められた絡繰人形、それが今は、

「冬丞、貴様はその絡繰を闘争の為に扱うか!!」

冬丞の周囲に展開する100騎の絡繰騎兵には、あの頃の荒川家の想いは感じられない。
誰かに喜んで貰えれば、という些細で偉大な想いは冬丞の扱う絡繰共には…、無い!!

「荒川の名の誇りを捨てたか、冬丞ッ!!」

その質疑に冬丞から返って来た言葉は、ただ明白な一言。
否、という簡潔な否定の言葉だった。
直後、太刀と太刀の交差。
互いに手を緩める事を知らず、激しさを増す闘争に身を委ねて行く。
金属音が連続して鳴り響き、火花が散る闘争の最中、荒川 冬丞は静かな口調で呟いた。

「怖れるな、星姫 月夜」

恐怖。
その言葉に、彼女の心に巣くった過去という闇が彼女を圧し潰さんと、忌まわしき過去を脳裏に再生する。
家柄の縛り、愛した人の裏切り、闘争に身を委ねて死を求める日々。
回想の度に脳裏を過ぎるのは、臆病者、という言葉。
そうだ、私は臆病だ。
家柄の縛りを越える事も叶わず、愛した人の裏切りを忘却する事も出来ず、死という逃げを求めた。
月夜の体が理由も無く震え、脈動が早くなる。
内側から、過去という闇が彼女を呑み込んでいく。
だが、



「怖れるなと言ったッ!!」



一喝と共に、月夜の長刀の刀身に、冬丞の小刀の刀身が衝突する。
鍔迫り合いの形となった2人は、間近に顔を合わせた。
冬丞は恐怖との葛藤に劣勢な彼女を見据え、静かに告げる。

「怖れるなよ、星姫 月夜。貴様は過去を越えられる人間だ。過去を見るな、現在を見ろ!!」

峻烈な言葉が、一瞬にして星姫 月夜の体の内の淀んだ何かを弾き飛ばす。
彼女に纏わり憑いていた重圧が、一瞬で打ち払われた。
体の震えが消え、脈動が元に戻っていく。
呼吸を整え、改めて冬丞を見据えた月夜は、敵である彼から予想外な言葉を聞く事となった。



「質疑する、星姫 月夜。貴様は過去に囚われたままか闘うか。現在を護る為に闘うか!!」



過去か現在か。
彼女の長刀を振るう理由は何処にあるのか。
そんな彼の質疑に、月夜は迷いすらしなかった。
この世界に絶望し、それでも自分を受け入れてくれた現在の仲間達。
自分は絶望から逃げるだけで立ち向かう事はしなかった、卑怯者。
そんな自分を笑顔で受け入れてくれた仲間達、それを、そんな人達を護る為ならば!!

「私の選択は…、──────────────後者だ!!」

鍔迫り合いの体勢を一気に崩し、長刀を振るって冬丞を小刀と共に弾き飛ばす。
ラウンジの床を滑りながら後退する冬丞、その隙を月夜は逃さない。

「術式展開!!」

展開するは、空気を刃に変貌させる結界魔術【滅刀之園】。
その結界を具現した今、星姫 月夜は、



「【滅刀之園】に条件付加。斬撃数を5000に固定。剣に条件術式を固定!!」



莫大な質量の重圧が、星姫 月夜の長刀の先に宿る。
天を刺し穿て、と言わんばかりに、星姫 月夜は長刀の柄を片手で握り、天高く掲げた。
これが、この闘いの終結を決める、一撃となる。

「ならば…。相応の一撃を以て、相対しよう」

冬丞は静かに微笑み、その直後、100騎の絡繰騎兵が冬丞の周囲を円形に囲む。
円陣を展開した騎兵達は、鉄刀を構え、月夜と相対した。
決着、互いの脳裏に、そんな言葉が過ぎった後。

「終わらせるぞ、冬丞ォォォォ─────────────ッ!!」

「終幕だ、星姫 月夜ォォォォ─────────────ッ!!」

絡繰騎兵100騎の100の刃と、荒川 冬丞の小刀の一撃。
そして、星姫 月夜の一撃は5000回分の太刀を集束した、最大の一撃。
一瞬の交差の後。



莫大なエネルギーの激突は、天に昇り、暗黒の夜闇を引き裂いた。