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- Re: Multiplex Cross Point 第2部キャラ募集 ( No.634 )
- 日時: 2010/09/02 20:17
- 名前: Faker (ID: mCvgc20i)
願ってしまったのだ。
真っ赤な液体が濡れた腕で、1度は殺した少女を救えるのならば救ってみたい、と。
それは、傲慢なのかも知れない。
それは、自己満足に過ぎないのかも知れない。
だが、そうだとしても。
贖罪という言葉の下、月架 蒼天は傲慢も自己満足も、その全てを肯定する。
(傲慢。自己満足。構わない、例え自分本位な野郎と思われても。それで、彼女が助けられるなら)
【Child Soldier】事件以後、罪の意識に苛まれ、幾度も死を考えた。
我が身の死を以て、贖罪を成す。
そんな事を考え、幾度と無く己の身を傷つけ、ひたすらに死を求め、罪悪感に心を潰される日々。
その日々を越えて、月架 蒼天は、この場に君臨する。
そうして、眼前のミリー・シャルロットと相対して、彼は漸く気が付いた。
ああ、そうか…、と。
自分は、この日の為に生きて来たのだ、と。
死は安易な逃走だ。
そう気が付くまで、どれだけが懸かったか。
満身創痍になって、心は壊れそうになって。
それでも生きて来たのは、この日の為だ。
故に、彼は吼えた。
「往くぞ、【蒼の法術王】」
両の手に携えた短剣が虚空を斬り裂く。
1歩、1歩、1歩、また1歩とミリー・シャルロットに歩みを寄せる月架 蒼天。
狂笑だけを許された哀れな少女の表情には最早、普段の異常とも思える狂笑は、無い。
ただ、今にも泣き出しそうな表情で、憤怒が混じった言葉を吐き捨てる。
「救えるか…。救えるもんか…。お前なんかに私がァァァァァァァ─────────────ッ!!」
刹那、それは顕現する。
虚空を撃ち破り、ミリーの周囲にそれは展開された。
2mはあるであろう、無数の黒の釘。
ミリー・シャルロットの魔術。
召喚魔術か、と月架 蒼天は瞬時に判断する。
ミリー・シャルロットの魔術である2mの黒釘は数えるのが難しい程の数を誇り、彼女の傍の虚空に並列した。
攻撃手数は圧倒的だな、と月架 蒼天は自嘲気味に笑う。
【蒼の法術王】は攻撃性能を極限に高めた最強の矛だが、一方で防御性能では心持たない。
恐らく、ミリー・シャルロットの魔術を完全に防ぐのは不可能だろう。
だとしても、彼はミリー・シャルロットを正面に捉え、動こうとはしなかった。
「消えて、月架 蒼天!!」
ミリーの咆哮が戦場であるエレベーターホールに響く。
直後、無数の黒釘は月架 蒼天を穿たんと銃弾の如き速度で虚空を走り抜けた。
契約者の危機に、【蒼の法術王】が月架 蒼天の前に盾として立ち阻もうとする。
しかし、月架 蒼天は、片手でそれを制止し、真っ向から無数の黒釘の雨を身に浴びた。
短剣を全身全霊を懸けて振るい、黒釘を打ち落とす。
火花が散り、黒釘の雨に晒される月架 蒼天の短剣に焔が宿ったように錯覚させる。
だが、ミリー・シャルロットの放った魔術、黒釘の雨は人間が完全に防ぎ切れる代物では無い。
ズンッ!! と月架の脾腹に黒釘の1つが突き刺さる。
口の端から血が流れ落ち、痛みに顔を顰めた直後、一瞬の隙を突いて彼の身に黒釘が次々と突き刺さった。
腹、右腕、左腕、右脚、左脚、膝、肩…。
次々と撃ち刺さる黒釘の雨に、月架は口から血の塊を吐き出した。
彼は、この黒釘の雨に晒されて死ぬ。
なのに、ミリー・シャルロットの表情は恐怖で染め上げられていた。
理由は明白、何故ならば。
彼の死を実現するであろう黒釘の雨に晒されて、体を朱に染めた彼は、笑っていたからだ。
それもまた、理由は明白。
この黒釘の雨を踏み越えれば、彼女を救済する事が出来るのだから。
それを考え、自然と月架 蒼天の表情に壮絶な笑顔が宿る。
ミリー・シャルロットにも負けず劣らぬ、狂気を含んだ笑顔が。
黒釘の雨の中、月架 蒼天の笑いが響く。
血を吐き零し、満身の傷口からは朱が噴き出し、彼の身を真っ赤に染める。
それでも、
「くくく…。ははははははははははははッ!!」
凄絶、壮絶、そんな言葉を連想させる笑い声にミリー・シャルロットは言い表せぬ恐怖を感じた。
自然と膝が崩れ、彼女は床に平伏す。
あまりにも壮絶な相手の行動に彼女の戦意は喪失し、攻撃の意志を無くした魔術は存在を失う。
黒釘の雨が停止し、静寂が周囲を抱擁する中。
カツン、という靴音がミリー・シャルロットの耳に鮮明に響いた。
連続する靴音が終焉を迎えた時、ミリー・シャルロットは平伏したまま、前を見上げた。
其処には、背に蒼の巨人を伴った、身を真っ赤に染めた青年が立っている。
彼は静かに、明確に、彼女に向けて言葉を紡ぐ。
「終わりだ。────────────────ミリー・シャルロット」
瞬間。
月架の命令に、【蒼の法術王】が手にする蒼の剣がミリー・シャルロットを斬り裂いた。
体に傷は無い。
彼が斬り裂いたのは、彼女を狂わせてしまった、──────────無痛覚という名の闇。