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Re: Multiplex Cross Point 第2部キャラ募集 ( No.691 )
日時: 2010/09/14 22:31
名前: インク切れボールペン (ID: mCvgc20i)
参照: 〆切が近い現状、そう修羅場です。

身体の節々が悲鳴を上げる。
常世 秋兎の斬馬刀の一撃を受けた荒川 琴音の身体に体力など残っていなかった。
それでも、絡繰の巨兵を顕現し、日本刀を構えられたのは精神が折れていなかったから。

「ダージス様の…邪魔はさせない…。貴方を薙払い…、他の連中も私が倒し…ます」

幾度も途中で絶える言葉。
彼女の言動から既に、限界が訪れている事は明白。
だが、琴音の瞳は死んでいない。
その瞳の奥で烈火の如く燃える闘志は、まだ消えない。

「邪魔は…、させないッ!!」

一瞬の挙動。
琴音は床を全力で蹴り飛ばし一直線に秋兎に飛翔する。
其処に、荒川 琴音の可愛らしい容姿に見合った行動は無い。
ただ、敬愛する者の為に戦う、1人の人間が其処には在った。
天地を揺るがせる程の琴音の咆哮。

「…ッ!?」

その咆哮に威圧され、一瞬の隙を見せた秋兎の前に彼女は降り立つ。
強く床を踏み締め、烈火の如く燃える闘争心を宿した瞳が秋兎を捉え、一閃。
速度と重量を加えた一撃は、人間の肉など簡単に引き裂く程の威力を持っている。
だが、その一閃が秋兎に届くかと思われた直前、琴音の腹部に衝撃が走った。

「が…ぁ…ッ!?」

秋兎の蹴撃。
見事に腹部を捉え、放たれた強力な蹴撃は琴音の華奢な身体を空中に吹き飛ばす。
正に一蹴、彼女の身体は空中に投げ出され、力無く床を転がった。
それでも尚、彼女は立ち上がり、口から赤の塊を吐き出しても、秋兎と正面から相対する。

「…無益な戦いだゼ。勝敗は決定的だ。何で、そんな風になってまで戦う?」

憐憫を含んだ紅の瞳が、満身を傷だらけにした少女に質疑する。
既に限界を迎えた身を叱咤して、体力では無く精神で身を支える少女に。
彼女は口の端に残った血を手で拭うと、ただ簡潔に答を述べた。

「命を賭した闘い。それが…、私がダージス様の恩義に報いる為に奉じるべき真心と知るが故に」

その言葉に、秋兎が次の言葉を紡ぐ事は無かった。
それは、1人の士の言葉だ。
主君に忠誠を誓った侍すら連想させる、鮮烈なまでの信念の言葉を聞き、秋兎の下した判断は1つ。
問答など、無用。
妥協も容赦も無い、ただ黙して言葉では語れぬ信念を衝突させるだけ。
それが、士に対する礼節だ。

「…良いゼ。問答無用、妥協も容赦も無ぇ。掛かって来い──────────、荒川 琴音」

言葉の後。
互いに得物を構え直し、万全の体勢を整え、ほんの1度だけ息を吸った。
刹那、息を吐き出すと同時に2人は動く。
秋兎は斬馬刀の柄を持って、器用にも斬馬刀そのものを回転させながら、琴音に振るう。
既に琴音の体力ではそれを日本刀で受け止める事も、回避する事も不可能。
故に、彼女は吼えた。
背に守護神の様に佇んだ、絡繰の巨兵、【不動明王】に。

「剣を振るえ!!」

短調な命令に呼応し、斬馬刀よりも遙かな巨躯を誇る大剣が風を切り裂く。
その音は莫大な音量であり、龍の咆哮を連想させた。
その脅威に対し、秋兎は斬馬刀を縦に構え、その脅威を受け止め様とする。
だが、彼の判断は甘かった。



振るわれた大剣が、秋兎の斬馬刀を両断し、彼の身体を斬り裂いたからだ。



ガシャンッ、と斬馬刀が地に落ちるのと同時に、身体の斬り裂かれた箇所から朱の噴血が宙を舞った。
敵の惨状を鑑み、琴音は飛翔する。
最後の一撃を、常世 秋兎に与える為に。

「終焉です…!!」

強烈な一撃を見舞われて呆然とする彼の眼前に着地し、彼女は凄まじい速度で刺突を放った。
刃先を、彼の心臓に向けて。
終わった、そう彼女は思った。



しかし。



「油断…したゼ。…まさ、か…、俺の斬馬刀をブッ壊すとはなぁ…」

ガッ…、と刺突を放ったはずの日本刀の刀身が秋兎の腕に掴まれた。
爛々と燃える紅の双眼が彼女を見据え、その口は静かに宣言する。

「お前の言葉通り。終焉だ─────────────、荒川 琴音」

直後、琴音の刀の刀身が秋兎の腕によって破壊された。
砕け散った刀身が、スローモーションで彼女の眼に映る。
それが、彼女の終焉だった。
得物を破壊された、その事実を認識した頃には、彼女の瞳には別の光景が映っている。



身を捻って、渾身の回し蹴りを放つ、秋兎の姿。



じゃあな、と簡潔な離別の言葉が秋兎の口から放たれ。
彼女の身は、秋兎の回し蹴りによってロビーを猛烈な勢いで吹っ飛び、壁にぶち当たった。
それ以上の動きは無い。
勝敗は、既に決していた。