コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Multiplex Cross Point 執筆再開 ( No.706 )
- 日時: 2010/10/05 00:17
- 名前: インク切れボールペン (ID: 4I.IFGMW)
- 参照: 執筆再開ー。
交差するは、紅蓮の焔と幾多の魔術。
数でセルゲイ・ディスコラヴィッチを圧倒しながらも、【荒廃せし失楽園】の面々は彼を圧し切れない。
それは、セルゲイが現在まで培ってきた経験と戦闘の技術の賜物だと言えるだろう。
どれだけ天賦の才を持っていようが、その才も経験があってこそ活かされるものだ。
故に、魔術師達は類稀な才覚を持ちながら、セルゲイの培った経験を依然として越えられない。
その程度かね、と魔術師達の包囲戦に悠々と加減すら加え、セルゲイは戦い続ける。
「いい加減に倒れろや、くそ爺が!!」
「カノンが待ってるんだ。さっさと倒す…!!」
虚空に魔術によって形成された朱色の盾を展開し、魔術による砲撃をセルゲイに向けて放つ威牙 無限。
砲撃に紛れ、魔術によって顕した鉄槍の柄を握り、黒雅 誡は砲撃の直撃と同時に、セルゲイに刺突を放とうと前に進む。
互いに、言葉による合図も、アイコンタクトも必要としない、見事な連携。
だが。
「良い連携だ。だが、君達は実に短慮だ。────────────たった二人で私に挑むとは」
その言葉が放たれると同時だったか。
セルゲイは放たれた朱の砲撃に対し、身を屈めて、弾丸の如きスピードで飛んだ。
横でも無く、後ろでも無く、ただ前へ。
頂頭部スレスレに朱の砲撃が駆け抜け、朱の砲撃が駆け抜け終えた刹那、彼は身を屈めていた起こし、拳を前に放つ。
威牙との距離は軽く十メートルは離れていたはずだった。
だが、非常識の中で生きる魔術師に、互いの距離など些細な問題だ。
互いの距離という空白など、
「魔術を以てすれば、どうだってなるものなのだよ」
凄まじい勢いで突き出した片拳が烈火を纏う。
魔術的な記号を脳裏で組み合わせ、繊細なバランスを保ったまま、魔術の基盤である【術式】を構築する。
往け、というセルゲイの一言で、片拳が纏った烈火は一直線に威牙に飛翔し、爆ぜた。
「が…ぁ…!?」
満身に走った膨大な熱は痛みを誘発し、一気に彼の身体の水分が奪われ、意識が消える。
ぐらり、と倒れる威牙に、黒雅は思わず眼を向けていた。
それが、自分の命数を縮める事になるとも知らず。
「ふむ。余所見とは随分と余裕な様子だな、黒雅 誡」
声は、耳元が聞こえてきた。
敵である、セルゲイ・ディスコラヴィッチの声が。
振り向いた時には、焔を纏った彼の拳が、黒雅の身体を叩き潰さんと、彼の腹部に向けて放たれていた。
くそ…ッ、と彼が呟き、額から冷たい汗が零れ落ちるのと同時だったか。
咄嗟に彼を庇った千堂 紀和の身体が吹き飛ばされたのは。
「…、紀和…?」
呆然と、口から血の塊を吐き出したまま宙を吹っ飛ぶ紀和の姿を捉えた時、黒雅の身体は反射的に動いていた。
即座に吹っ飛ぶ紀和の軌道に割り込み、彼を受け止め、
「紀和…ッ!!」
「ふん…。結月以上じゃないが…、お前も随分とバカだな…。油断するな…、まだ俺達は戦わなきゃダメなんだからな…」
苦悶の表情のまま、口を血で濡らしたまま、彼は黒雅に、弱々しい口調で彼に呟いた。
ただそれだけを告げた後、紀和は静かに眼を閉じ、その言葉は途切れる。
「紀和ッ!!」
彼の名を呼んで、黒雅の傍に駆けて来たのは結月 采音。
その表情を真っ青にし、結月は黒雅に抱えられた紀和の傍に片膝を着いて、彼の容態を確かめた。
依然として表情を真っ青にし、今にも泣き出しそうな結月を見据え、黒雅は彼女に質疑を投げ掛ける。
「紀和は…?」
「息はしてるけど…。すぐに治療しなきゃ…紀和は…ッ」
泣き出しそうになっているのを必至に堪え、彼女は言葉を振り絞った。
すぐに治療をしなければ、紀和の命が危ぶまれるのは必至。
だが、結月は治療には踏み切れない。
理由は明白、
「彼の命を救わんとする美しい評議をしている様だが、敵にそんな余裕をやる程、私は甘くないのだがね」
魔術による治療を始めれば、その隙を突いてセルゲイは一気に攻めを行うだろう。
しかし、残された時間は少ない。
刻一刻と経過する時間は、徐々に、そして確実に千堂 紀和の体力を奪って行っている。
それでも、結月は治療を行えない。
セルゲイ・ディスコラヴィッチの猛攻を恐れるが故に。
一切の隙も無く、真っ向から戦っても、奇道から戦っても、一方的に圧される相手に、他の者達も彼の前に立ち塞がれない。
ただ一人の例外を除いては。
「結月。紀和の事を頼むよ」
ザンッ、と鉄槍を縦に構え、黒雅 誡はセルゲイの前に立った。
表情は相変わらずの何処か気力の無い表情のままだが、その瞳だけは違う。
己の不甲斐なさの所為で仲間が傷ついた事に、その瞳には静かながら、憤怒が宿っている。
誰もが挑戦を躊躇する難敵を前に、黒雅 誡は対する事に一切の迷いを見せない。
ただ、その背中は結月に語った。
時間を稼ぐ、と。
「黒雅くん…ッ!!」
ダメ、と静止しようとした声は間に合わない。
相手は格段に実力が上の相手なのに。
何の算段も無く、黒雅は槍を舞わし、一気にセルゲイ・ディスコラヴィッチに攻め掛かる。
無謀、そんな事は解っていた。
それでも、ただ一人の仲間の為に。
彼は無茶も無謀も、肯定する。
「行くぞ。セルゲイ・ディスコラヴィッチッ!!」
「なるほど。敢えて、その身を犠牲駒として捧げるか…。良い覚悟だ、黒雅 誡!!」
刹那、烈火の拳と鋭利な鉄槍が激突し、周囲に凄まじい衝撃波を振り撒いた。