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- Re: Multiplex Cross Point─S1─ ( No.743 )
- 日時: 2010/11/20 16:48
- 名前: インク切れボールペン (ID: 3JS.xTpI)
反撃の狼煙。
突然に復活を遂げ、黒雅の危難を救った男はそんな言葉を高らかに口から吐いた。
圧倒的に不利な状況で、敢えて敗北を予期させる『抵抗』という言葉では無く、勝利を確信した『反撃』という言葉を。
緋色の瞳は、圧倒的な敵を目前に確かに『勝利』を捉えていた。
「…随分と滑稽な幻想を吼えるではないかね。その勝利の確信は己が抱いた儚い幻想だと身を以て教えてやろう」
『猛火』の異名を持った初老の魔術師は、静かな挙動で焔の巨槍を構えた。
轟々と燃える焔が形成する巨大な槍は、彼が魔術を以て顕現させた『武器』という名の『幻』だ。
魔術に於いて、想像に過ぎない『幻』は強大な力を持つ。
脳裏で骨格を構築し、外装を施し、精巧に造り上げた『幻』は魔術を以て『現在』と為る。
それが、セルゲイが手に持っている『武器』の正体だ。
加えて、それは並の魔術師が造り上げる『武器』を遙かに凌駕する。
彼が現在まで育んできた才能と培ってきた経験が結集し、想像し、創造した『武器』こそ、焔の巨槍。
まず、彼から勝利を奪い取るには、その『武器』と拮抗する程の威力を誇る武装で相対せねばならない。
セルゲイは、それが気懸かりだった。
公孫樹 雅が勝利を確信する理由、それは自分の武装を凌駕するほどの『武器』を隠しているのではないか、と。
だが、彼の予想はすぐに打ち破られる事となる。
「残念だが、お前さんの想像は間違いだ。───────────俺には、お前さんの『武器』を越える武装は造れない」
本当に残念だがな、と。
公孫樹はセルゲイの胸中の疑問を完全に読み切って、一言を以て彼の疑念を払拭する。
己の発言が、己の不利を招いている事を知りながら。
「それでも、勝利を確信しているのかね?」
無論だ。
一切の迷いの無い、依然として勝利を確信する公孫樹にセルゲイは真っ向から告げる。
最早、勝利など不可能だ、と理解させる為に。
「これが現実だ、公孫樹 雅」
一閃。
焔の巨槍の矛先が虚空を裂き、焼き、公孫樹の首を狙って放たれる。
公孫樹に、回避するような挙動は見られない。
次の瞬間に待っている悲劇に、結月は思わず両目を閉じ、黒雅は『反撃の狼煙』と吼えた男の姿を捉えたままだった。
結局、公孫樹が述べた言葉は、本当に滑稽な幻想だったのか?
そして、その疑問の答は次の瞬間に待っていた。
突然に迸った白と青の雷撃が、セルゲイの焔の巨槍を弾く。
「何…ッ!?」
突然の事象に、セルゲイは驚愕を隠せない。
この事象を前に、彼は公孫樹の『勝利の確信』が何なのか理解する事が出来たからだ。
同様に、黒雅も結月も、その事象を前に驚いていた。
何故なら、
白と青の雷撃、それは雅依 輝星と雅依 光星の魔術によって発生する魔術の余波だからだ。
セルゲイの攻撃に倒れたはずの、二人の。
公孫樹は言う。
唖然と、呆然と驚愕する老獪へ。
「ああ、お前さんの言葉通りだ。───────────────これが現実だ」
刹那。
公孫樹 雅の『勝利の確信』は現実に顕れる。
銀髪碧眼の魔術師は、西洋剣を手に。
金髪碧眼の魔術師は、自分の身の丈を超える巨大な狙砲を両手で構えて。
「反撃の狼煙。お前さんは俺の言った言葉の真意をもっと早くに理解すべきだった」
黒の長髪を靡かせ、赤と黒の混じったマントを羽織った魔術師は『朱色の盾』を虚空に展開させて。
黄色の髪と瞳の派手な服を纏った魔術師は木製の儀仗を手に。
ピンク色の髪を後と左右の三方向で結った、髪色と同色の瞳の魔術師は己の拳を強く強く握り締めて。
「我々を侮った。それが、お前さんの唯一の失策だ」
海を連想させる青の瞳の美麗な容姿の小柄な魔術師は面倒臭そうに頭を掻いて。
甘いピンク色の髪をツインテールに結い、ピンクと水色を基調とした服装の魔術師は、黒色に塗装された拳銃を手に。
癖毛の水色の髪に明るい黄色の瞳の魔術師は、同様に似通った型の拳銃を手に。
魔術師達は立ち上がる。
「行くぞ、セルゲイ・ディスコラヴィッチ」
此処に立った魔術師の全員を代表して、公孫樹は告げる。
ヴァン・スルメールに、メル・ヴァートンに。
威牙 無限に、黒島 聖に、冥弛 裄乃に。
如月 琉那に、雅依 光星に、雅依 輝星に代わって。
眼前の老獪に、
反撃を開始する、と。
「刮目せよ。今、この時より、お前さんに教えてやろう」
【荒廃せし失楽園】の、真の戦いを。
不屈の魔術師達は立ち上がった。
『猛火』を前に、若き魔術師達は屈さない。
その心に、負けないという不屈の闘志が尽きぬ限り。