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- Re: Multiplex Cross Point─S1─ ( No.757 )
- 日時: 2010/12/12 15:26
- 名前: インク切れ (ID: uUme72ux)
- 参照: 猫に手痛い反撃を受けました。
Multiplex Cross Point─SeasonⅠ─ Episode17
Part1
禍根は断つに限る。
一度だけ外したサングラスを再び掛け、常世 秋兎は傍に倒れている少女を一瞥する。
荒川 琴音。
その言動から組織に対する忠誠の篤さは高いと予想される。
それは、危険だと秋兎は思う。
(仮に、俺達がこの戦いに勝利すれば、彼女は俺達に対して復讐を考えるだろう。…その忠誠心故に)
だからこそ、禍根は断つべきではないのか、と秋兎は考える。
今、彼女は”倒れている”のであって、”死んでいる”訳では無い。
恐らく、戦うだけの力は残っていないはずだ。
だが、
例え、彼女を此処で見逃してとして、復讐に走らない保証は無い。
ならば、禍根は此処で断つ。
彼女が復讐に走る保証は無いが、それでも彼女が復讐に走らない保証は無いのだ。
秋兎の斬馬刀の刃先を、彼女の首筋に向ける。
後は、首筋に刃先を突き立ててれば、彼女の命は灯火は完全に消え去る事だろう。
「…祈れ。汝が信じる神に。幾千の神々よ、逝かれる者を寛大なる御心で容れたまえ」
述べられたのは、”贖罪の街”譜条市に伝わる”聖職者”が口にする言葉。
死に瀕した者達に、安堵の心を起こさせる”聖職者”の言葉を秋兎が述べたの事象から解ることは唯一つ。
かつて、秋兎が”聖職者”だった事を示している。
秋兎からすれば、その過去は忌避すべきものだ。
神を信じ、隣人を慈しんだ果てに、秋兎は大切な人間を失った。
だから、”聖職者”としての過去を棄て、”魔術師”になったのだ。
「さらばだゼ、荒川 琴音」
刹那。
刃先は何の躊躇も無く、振るわれた。
だが。
『誓ったんだ。私は…死に瀕した人が目の前にいたのなら、どんな時でも手を差し伸べるって』
脳裏に響き渡ったのは、彼が失った大切な人間の、大切な少女の声だった。
”聖職者”としての生き、最後まで”聖職者”として死んでしまった一人の少女の声。
その声に、秋兎の振るった斬馬刀の刃先は、琴音の首筋に突き立てられる寸前で停止していた。
かつて、彼も少女のそんな言葉に救われた人間だったから。
「…」
自然と、斬馬刀の刃先は琴音の首筋から離れていった。
気が付いた頃には、彼は斬馬刀を影に収納し、気を失っている琴音を視界に捉えると、
「お前が復讐に走らない保証は無い。だが…、──────────────あいつの言葉を反故にする訳には行かないんでな」
その命、お前に預けるゼ。
言葉を言い残し、彼は視界を上へと続く階段へと移すと、颯爽と歩いていく。
新たなる戦場へと。
「願わくば、お前が復讐鬼にならんことを。───────────────俺と同様の、復讐鬼には、な」