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- Re: Multiplex Cross Point─S1─ ( No.760 )
- 日時: 2010/12/12 20:46
- 名前: インク切れ (ID: uUme72ux)
- 参照: 猫に手痛い反撃を受けました。
滅茶苦茶な戦術だ、とセルゲイは魔術師達と戦いながら、冷たい汗を流していた。
自分が相手に圧されている、それを明確に感じながら。
公孫樹の言葉を合図として、戦いを開始した魔術師達の戦いは、最早、戦術と呼べる物では無かった。
否、正確に述べるならば、”戦術とは呼べない戦いを展開する戦術”、それこそが、魔術師達の戦術だったのだ。
「ふッ!!」
息を吐き、ヴァン・スルメールは銀髪を揺らして、両手に持った西洋剣を以てセルゲイと相対する。
が、彼の得物である西洋剣と、セルゲイの焔の巨槍では威力が違う。
互いに得物を衝突させ、その結果、威力の勝っている焔の巨槍は、ヴァンの二本の西洋剣を別々の方向へ吹き飛ばす。
自分の得物を吹き飛ばされ、丸腰となったヴァンは、
動揺を全く見せず、寧ろ、彼はただ笑って見せた。
「ヴァン君の得物ゲーット!!」
「ヴァン、お前さんの剣を拝借するぞ!!」
空中に吹き飛ばされた二本の西洋剣を、飛翔した冥弛 裄乃と公孫樹 雅が一本ずつを手に取る。
軽快な動きで二人が、軽い挙動で床に着地した瞬間、ヴァンと代わってセルゲイに突っ込んでいく。
「…ッ!!」
ヴァンと交代して自分に挑戦する二人に、セルゲイは共に新たなる敵と相対する。
元々、戦いの方法に形式などは考えない冥弛 裄乃、個性と奇抜さに富んだトリッキーな戦いをする公孫樹 雅。
普段ならば、冥弛は魔術で強化された拳を、公孫樹は円形の五円玉に似たリングブレードと呼ばれる剣を使う。
『Child Soldier事件』で一度は相対した公孫樹、この場所で魔術強化を施した拳を振るった冥弛 裄乃。
どちらも、一度は戦い、その得物を使っている時の射程、攻撃時のモーション、本人の癖…、その全てをセルゲイは覚えている。
だが、今は違う。
冥弛と公孫樹は、普段とは違う武器を手に、普段とは違う戦術でセルゲイに向かってくる。
それこそ、一度は捉えたと思っていた全てを変貌させた二人の動きにセルゲイは付いて行けない。
捉えていた全てに対応する動きを、セルゲイは反射的に身体に染み込ませている。
だからこそ、全く違う攻撃パターンに、彼は対応ができないのだ。
「…ええいッ!!」
全く違っている攻撃パターンに対応が遅れる。
西洋剣の刃先はセルゲイの頬を掠め、肩を掠め、彼を徐々に圧していく。
状況を打開する為に、焔の巨槍を横一線に振るう。
それに反応し、公孫樹と冥弛は焔の巨槍の射程外ギリギリまで距離を取った。
トンッ、と二人が射程外ギリギリまで退き、床を足を踏んだ瞬間、
「反撃の隙なんか…与えないからねッ!!」
「あんたの強さを俺達は充分に知っている。だからこそ、攻撃の隙は絶対に与えない!!」
声が聞こえた。
まだ幼い、少年と少女の声。
それが、雅依 輝星と雅依 光星の声だと判断した頃には、既に遅い。
二人の武器、魔術武装としての機能を有した”拳銃”の銃口は”雷光の弾丸”を放つ。
風の属性に属する系統魔術”雷”。
銃口から、銃弾の代用として放たれるのは、系統魔術”雷”を凝縮した弾丸、すなわち”雷光の弾丸”だ。
唐突な攻撃に、セルゲイの思考は避けろと訴えるも、身体に命令が伝わり切らない。
結果、
爆音を響かせ、セルゲイの身体に衝突した”雷光の弾丸”は彼の身体に甚大なダメージを与える。
「ご…ぉ…!?」
激痛に身を捩らせる暇すら無い。
刹那、吹き荒れた暴風がセルゲイの身体を強引に吹き飛ばし、空中で強引に掻き回し、床へと叩き付ける。
「…まだ私の攻撃は終わってないけど?」
勝ち誇った微笑を湛え、如月 琉那は風の魔術で更に猛威を振るう。
視界に捉える事の無い、不可視の”空気の鎚”を形成し、それを一気に振るった。
直後、爆音と共にセルゲイの叩き付けられている床が彼の身に落ちた”空気の鎚”の一撃に耐えられず凹んだ。
「ぐぉ…。お…のれ…!!」
反撃の糸口が見つからない。
今の魔術師達に、隙は無いのだ。
戦いに勝利する為、魔術師達は確かに”本気”で戦っている。
肌に感じる闘志、一撃に籠められた気迫、その全てがセルゲイを圧していく。
何かが魔術師達に尽きぬ闘志を、気迫を与えている…、それをセルゲイは確かに感じ取っていた。
それは、”此処に立っている理由”だった。
誰もが”愛される為に産まれた存在”では無く、”利用される為だけに産まれた”、一人の少女を助ける為。
その為に、魔術師達は此処にいる。