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Re: Multiplex Cross Point 更新中 ( No.767 )
日時: 2010/12/13 21:25
名前: インク切れ (ID: uUme72ux)
参照: 猫に手痛い反撃を受けました。

”アイギスの盾”は一瞬にして砕かれた。
”模倣神器”。
伝説などに登場する武装、防具の類を魔術で模倣して現出させた物は、魔術師の間ではそんな風に呼ばれる。
並の武器や魔術では破壊は不可能。
例え模倣であろうとも、神話に登場する武装や防具は並の武装や防具とは格が違う。



なのに、セルゲイ・ディスコラヴィッチは威牙の”模倣神器”を容赦無用に破壊した。



破壊音と共に砕け散る、”アイギスの盾”の破片。
驚愕に表情を染める威牙は一瞬遅れで、腹部に鈍痛が走ったのを感じた。
見れば、腹部にセルゲイの拳が突き刺さっている。
”アイギスの盾”を素手で破壊した、その拳が。

「くそ…が…。”模倣神器”を素手でぶっ壊すなんざ…、どんだけ常識外れなんだ、てめぇ…!!」

それだけだった。
鈍痛は威牙の肺から強制的に空気を吐き出させ、一時的に行動不能に陥らせる。
膝を崩し、肺から強制的に空気を吐き出させられた影響か、荒く咳込んでいる彼を一瞥し、セルゲイは前へ進む。

「次だ。私を愉しませてくれたまえ」

隙だらけの威牙に一撃を見舞わなかったのは、この闘争を愉しむ為か。
戦いを長く、長く、可能な限り、長く続ける為に。

闘争の鬼に変貌を遂げたセルゲイ・ディスコラヴィッチの戦いの理由は、”戦う”為だけにある。

それが、それだけが、それこそが。
本来の彼が望んでいる、戦いだ。

「往くぞ。魔術師!!!」

尋常では無い速度だった。
ただ、床を蹴って前へ跳ぶ、それだけの挙動が人間のそれを超越している。
視界に捉えるのがギリギリで、その動きには対応できない。
セルゲイの猛攻に対し、残った魔術師の誰もが動こうとした。

だが、思考はセルゲイの動きにギリギリ対応できても、躯は反応し切れない。

ヴォッ!!! と、空気が引き裂かれた。
セルゲイが焔の巨槍を片手に、ただの薙払いを行っただけ。
それだけで、残った魔術師達は気が付いた頃には躯を吹き飛ばされていた。

悪夢だった。

今までの行っていた反撃は夢だったのか、そんな風に考えさせられるほどに。
ダァンッ、と魔術師達は床に躯を叩き付けられ、この敵が、自分達では勝てない、と思った。
こんな圧倒的な敵に勝てるはずが無い、と思わさせられた。
そう考えると、躯を起こす事は叶わない。
セルゲイは、依然として闘争心を剥き出した微笑を湛え、

「休憩かね。まだまだ戦えるだろう、諸君。これでは私はまだまだ満たされんよ?」

無理だった。
敗北は必須の戦いに、魔術師達の躯は動かない。
一度は全員を立たせた公孫樹も、この圧倒的な敵に、彼の戦う意志は揺らいでいたのだ。



だが、まだ彼に挑む存在は残っている。



「そんなに戦いたいってんなら、俺達が相手になってやるゼ?」

下階に続いている階段から三人の人物が現れる。
それぞれが自分達の戦いに決着を付けた者達だ。
星姫 月夜、月架 蒼天、常世 秋兎。

セルゲイの前に立ち塞がった三人は、それぞれに武器を構え、圧倒的な相手と相対する。

セルゲイは果敢で、そして無謀なる挑戦者に向かって、歓迎の意を示す。
無謀な突撃だろうが、何か策があるのか、そんな事はどうだって良い。

まだ、自分の闘争心を満たしてくれる相手は存在する。

「結構。果敢な挑戦は受けて立とう。さて、諸君」

─────────────────是非、この私を愉しませてくれたまえ。