コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Multiplex Cross Point 更新中 ( No.777 )
- 日時: 2010/12/16 15:52
- 名前: インク切れボールペン (ID: uUme72ux)
- 参照: Bキー直りました。
常識を越えた破壊力。
紫電一閃の”矢”は、膨大な紫色の閃光の塊となってセルゲイを呑み込んだ。
が、それには停まらず、その余波は壁を破壊した。
朦々と立ち込める煙幕は、余波で巻き起こった爆破が要因となっている。
「…ッ」
がくり、と。
紀和は乱れる呼吸に咳込みながら、片膝を突いた。
紫電一閃。
その魔術は、凄まじい威力を誇っている。
本来ならば、紀和はまだ紫電一閃を扱えるほどの技術を兼ね備えていない。
故に、無い技術の分だけ、身体に反動が来る。
それこそ、負傷をしている状態ならば、死を覚悟せねばならないほどのダメージを与える反動が。
紀和は、セルゲイの一撃を与えられていた時の事を思い出し、
(結月の奴の治癒魔術が無ければ、ヤバかったかもな…)
反動でのダメージを堪え、紀和は呼吸を整えると、静かに立ち上がる。
その視線を、朦々と立ち込める煙幕に向けて。
(これで奴が倒れてなければ、完全に詰めだぞ…)
破壊された壁から、煙幕の煙が外に出て、徐々に煙幕が晴れていく。
そして、消え去ったいく煙幕の中に見えたのは、
依然として其処に立つ、セルゲイ・ディスコラヴィッチの姿。
満身創痍の彼は、頭から血を流し、焦点の合わない瞳で何とか紀和を捉えている。
だが、その瞳の闘志は消えていない。
「く…くくく…。く…は…はははははは…!!」
狂笑。
瞳の内に宿った闘争の色が一層濃くなっていく。
「ははははははは!!!」
まだ、倒れない。
セルゲイ・ディスコラヴィッチは、まだ戦える。
眼前のセルゲイの挙動に、紀和の心に広がったのは絶望だった。
あの一撃で倒れなかったのだ、もう打つ手段は無い。
セルゲイは焦点の合っていない瞳で紀和を捉え、毅然として吼えた。
「見事だ、千堂 紀和。この私を此処まで…、此処まで追い詰めるとは。見事の一言に尽きる!!!」
だが、と彼は言葉を付け加える。
勝利を確信するかのように、紀和に敗北を突き付けるかのように。
不気味な笑顔を一層深くさせ、
「私は耐えた。君の一撃に!! 最早、君には攻撃の術は無いのだろう? 終幕だ、千堂 紀和!!」
反動に蝕まれた紀和の体調を見極め、セルゲイは敗北を突き付ける。
その両手の平から焔が吹き出し、焔の二刀が形成された。
間違いなく、その焔の二刀は紀和の身体を両断する為に形成されたのだろう。
「良く頑張った、千堂 紀和。そして───────────────、さよならだ」
刹那だった。
紀和は次に訪れるのは、痛みだと知っていた。
焔の二刀が自分を引き裂くと。
しかし、その予想は一瞬にして粉砕される。
バキィッ、と何かが殴り飛ばされる、乾いた音が響く。
その音の音源は、紀和の眼前、セルゲイ・ディスコラヴィッチから。
紀和は驚愕に表情を染め、目の前で起きた事象をはっきりと理解するのに数分は懸かった。
何故なら、
唐突に、セルゲイの懐に飛び込んだヴァン・スルメールが、セルゲイの顔面を殴り飛ばしたからである。
紫電一閃で大幅に体力を削られたセルゲイはそれに対応する事すら出来なかった。
反射的に身体を捻って、ダメージを拡散させる事すらも。
顔面を殴り飛ばされ、セルゲイは数メートルも吹き飛び、壁に激突して、やっと動きを停めた。
反応は無い。
今の一撃が、セルゲイの意識を奪ったのだろう。
「ギリギリセーフ、って奴ですね」
ヴァンは傷だらけの顔で、静かに息を吐いた。
それを合図に、周囲の緊張は紐解かれていく。
誰もが安堵の表情を浮かべ、誰もが安堵の息を吐いた。
「いやー、お見事だ。まさか拳打でセルゲイを倒すとはな。本当に見事だ、坊や」
「…ふん。其処のガキの魔術で奴の体力が大幅に削られてたからでしょ」
一人は賞賛を、一人は皮肉を述べながら、ヴァンへ近付いて来た。
突如として戦場に乱入して来た、桂裏 あがさ、一莟 レイヌである。
ヴァンは怪訝そうな表情のまま、
「まず、ご協力に感謝を述べます。…それで? 貴女達は何者ですか?」
真っ当な質疑を述べたヴァンに対し、その質問に答えたのは桂裏 あがさだった。
彼女はざんばらな黒髪を撫でながら、飄々と口にした答は一つ。
「ふーむ。その質疑に関して詳しく述べるとなると時間が懸かる。単調に言えば、私達は坊やの味方だよ」
「…なるほど。ならば、もう一つ問います。──────────────貴女達の目的は?」
その言葉に、あがさは思っただろう。
鋭いな、と。
「目的は一つ。君達の援護だよ。──────────────────ある男の要請でね」
彼女が述べた言葉に、ヴァンの表情が曇る。
ある男の要請。
彼女達は何者かの命令で、此処に来ている。
「ある男とは…。誰ですか?」
最もな質問に、あがさは、君達の良く知っている人物さ、と述べた。
此処にいる誰もが知っている人物である、と。
「”情報屋”。錆螺 唄だよ」