コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Multiplex Cross Point 更新中 ( No.790 )
- 日時: 2010/12/26 15:06
- 名前: インク切れボールペン (ID: uUme72ux)
既に遅し。
屋上に脚を踏み入れたヴァン達が頭に浮かべたのは、そんな言葉だった。
その言葉を連続させるほどの光景が、其処には広がっていたから。
「クロトさん…。椛さん…」
呆然と、彼は眼前の光景の一部となった者達の名を呟いていた。
破壊された屋上で倒れて動かなくなった二人に向かって。
「残念だ。これじゃあ、準備運動にもならないねぇ」
侮蔑を込めた言葉を口から漏らしたのは、その光景の中心に佇む人物。
白衣を纏った、何処か狂気を感じさせる青年。
「ダージス…、シュヘンベルク…」
畏怖と敵意を含ませた言葉を呟いたのは、身の丈を超える狙撃銃を手にするメルだった。
一年前の悲劇を引き起こした組織の首魁を前に、普段から冷静沈着な彼女でも、緊張しない事はありえない。
此処に立ち、ダージス・シュヘンベルクと相対する全ての人間は。
一定の距離を保ったまま、侮辱するような笑みを湛えたダージスとヴァン達の間は膠着に陥った。
どうやって動く、と考える【荒廃せし失楽園】の面々に対し、ダージスはただ見ているだけ。
まるで、興味を唆る観察対象を眺めるかのように。
「…。クロトさん達は、敵わなかったらしいですね」
「残念だけどね。ボクを倒すには至らなかった。いやはや、実に残念だよ」
だが、と。
ダージスは侮蔑を込めた嘲笑を浮かべ、言葉を付け加える。
「君達には礼を述べるよ。実験をする機会を逸したと思っていたが、君達がいるならば、」
漸く、試せるよ。
ダージスが呟いた刹那だった。
カノンの身体が蠢いた。
カタカタ…、と。
まるで糸で操られる人形のように。
何が起きたのか、それを考える間も与えられない。
「あ…ぅ、ぁ。う…ぐ…ぃ…ぁ。あ…ぁ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ─────────────────ッ!!」
悲鳴が周囲に木霊する。
激痛に耐えられなくなったように、破壊された感情が溢れ出すように。
カノンの絶叫は、世界を震撼させる。
「カノン!!」
秋兎が名を呼ぶが、当の本人は何も返さない。
その絶叫が秋兎の言葉を掻き消しているのだ。
両手を広げ、ダージスは天を仰ぎ、高らかに吼える。
「さぁ、至上最大のショータイムの始まりだ!!」
直後、爆音を響かせ、建物の窓硝子が爆散する。
だが、破片が大地に散らばる事は無い。
重力の現象に逆らって、硝子の破片は猛烈な速度で天へと昇る。
バキバキバキバキ!! と歪な音を響かせて。
それらは、ダージスの背中に収束した。
「何ですか…、それ…」
硝子の破片が結集し、それはダージスの背中に、ある物体を形成する。
それを背中に備えたダージスを目撃した誰もが、彼を別次元の存在だと感じてしまった。
神々しさすら感じさせる、彼の姿は、まるで。
「人間が神の座に腰を据える瞬間を、その目で見据えたまえよ」
バキィ…、とダージスの背中に形成された”硝子の翼”が小さく羽ばたく。
天使の翼を連想させる、その姿は、正に。
天上に身を置く、神々と呼ばれる存在、そのものに見えた。