コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Multiplex Cross Point 更新中 ( No.791 )
- 日時: 2010/12/26 21:34
- 名前: インク切れボールペン (ID: uUme72ux)
「隙を与えるな!! 間隙無く攻め立てろ!!」
変貌を遂げたダージスを前に、公孫樹の号令が木霊する。
天上の神を連想させる様相と化したダージスの力は解らない。
だが、彼から感じる胸を圧迫されるような正体不明の感覚。
それだけで、彼は次元を異にする存在となった事だけは理解できた。
離れているだけの実力なら、まだ対処は可能だが、これはそんな陳腐な問題では無い。
最早、この相手とは次元そのものが違うのだから。
しかし、此処まで来て諦めるという選択肢は無いのだ。
故に、魔術師達は猛攻を仕掛ける。
近距離の武装を手に、ダージスへ猛撃を掛ける者達。
遠距離から己が体得した魔術を、担う武装を以てダージスに攻撃を放つ者。
轟音、爆音、斬撃、咆哮。
戦争で扱われる戦術兵器の威力を思わせる猛攻を前に、ダージスは、
「届かないよ」
その口から吐き捨てられた言葉は簡潔だった。
侮蔑を含ませた嘲笑。
蠢く”硝子の翼”が、飛翔を予兆させるほどに、激しく動く。
刹那、”硝子の翼”は一瞬の間に、砕けた。
否、正確には”分離した”、か。
「無駄だね、本当に。君達はボクとの間に空いた決定的な実力の差が解っていない」
故に教えるよ、と。
”硝子の翼”が分離し、鋭利な切っ先を持つ幾百の硝子の欠片はダージスの周囲に規律良く並ぶ。
まるで、指揮官の命令を待つ兵士達の如く。
往け、とダージスの口から単調な言葉が吐かれた後、幾百の硝子の欠片が、射出された。
猛烈な勢いを以て、破竹の勢いの軍勢のように破壊的突破能力を持った幾百の硝子の欠片は、
ダージスに切迫する魔術師達を刺し飛ばし、接近する魔術を破壊し、術者達を襲う。
悲鳴と鮮血。
赤は飛び散り、声は漆黒の空に木霊する。
凄まじい反撃を前に、接近戦の一人に加わっていた公孫樹は思わず息を呑んだ。
硝子の欠片が身体に突き刺さっている痛みも忘れて。
(駄目だ。こいつは…、セルゲイ・ディスコラヴィッチ以上の怪物だ…!!)
カノンの”神へのアクセス権”を行使し、身体に神の力の一端を取り込んだダージス。
その実力は最早、別次元だった。
まだ、セルゲイとの戦いでは相手に一撃を与えられていたが、この戦いでダージスに一撃を与える事も敵わない。
それほどに、神の力の一端を取り込んだ彼と、自分達の実力には開きがあるのだ。
「さぁて、解ってくれたかな? ボクと君達の実力の差を」
答える者は無い。
ただ、誰もが立ち上がる事に必死で、答える余力など無かったから。
ダージスは懸命に身体を叱咤する魔術師達を一瞥し、侮蔑の言葉を口にする。
諦めろ、君達ではカノンは救えない、と。
残酷な宣告と共に、ダージスの背中に硝子の欠片が集束し、再び”硝子の翼”は形成される。
「次に先程と同様の一撃を与えれば、確実に君達は死ぬ。さて、負犬は負犬らしく尻尾を巻いて消えてくれ」
実験は完了だ、と。
ダージスは魔術師達に背を向け、カノンの方を向いた。
神の力をダージスの体内に取り込むという行為を成就させる道具として機能する少女の方を。
激痛から絶叫する少女を見て、ダージスの内に浮かんだのは同情などという善意に満ちた感情では無かった。
「君を利用し、世界に我々の力を思い知らせる」
その為に君は生き、その為に君は死ぬ。
そんな言葉がダージスの口から吐かれた瞬間だった。
「ふざけてんじゃ…、ねぇぇぇぇぇ─────────────ッ!!」
ダンッ!! と強く床を踏み締め、魔術師の一人が立ち上がった。
両手に短剣を一本ずつ構え、ダージスの述べた言葉に強い叛意を瞳に宿す青年。
「…随分と偉そうな言葉を吐くが、君にボクが倒せるのか? 言葉だけでは何も為せないよ、月架 蒼天」
「お前の。お前の野望の為なんかに。もう誰も犠牲にさせはしない!! 絶対に!!」
「勇猛な言葉だ。だが、君が立ち上がって何になる? 誰かを救えるか?」
ダージスの言葉に、月架は言葉を失う。
かつて、何人という子供を斬殺した人間が、誰かを救う権利など無い、そう思ったから。
だが。
「無論、我々は誰かを救うが為に此処にいる」
ゴッ!! と。
鋭利な何かが振り降ろされる鋭い音と共に、その言葉は聞こえた。
ダージス・シュヘンベルクの背後から。
「な、に───────────────!?」
ダージスが背後に振り向くよりも、遙かに速かった。
ザガンッ、と”硝子の翼”を両断し、ダージスの背中から噴血が飛ぶ。
出血を知りながら、それでもダージスは距離を取る。
ダージスは苛立ちと焦燥と共に、先程に立っていた場所から距離を取ると、改めてその場所を見据えた。
其処には、一人の男が立っている。
漆黒の紳士服を纏い、繊細に造られた綺麗な氷の長剣を手にする、表情を読めない男性。
表情を読めないというのは、その男性が、ひょっとこの仮面を装着し、完全に顔面を隠しているからだ。
その場の誰もが、動きを停める。
奇抜な人物が戦場に乱入してきたから、では無い。
誰もが、その男性を知っていたからだ。
「久闊を述べる。俺の留守の間に随分と派手な宴をやってるじゃないか」
ひょっとこの仮面を装着した男性は静かに呟く。
此処に立っている誰もが知っている、その男性の名は。
「【荒廃せし失楽園】が総帥、ひょっとこ仮面。遅ればせながら推参だ」